56・メイドの届け物 ~萌香~
関係するお話
『40・働き者にはメイドが来る』に出てくるキキーモラのキィ
今日は朝一に席替えのクジ引きがありました。縦6席、横6席の36人クラス。そして、決まった席は、なんと窓際の最後尾ろというベストポジション、しかも前の席にはあやのちゃんと右斜めの席には、ほのかちゃん。隣の席には委員長の友達の水戸部さんがいます。
「やったね、あやのちゃん」
「うん、ほのかちゃんもよろしく」
「2人とも勉強教えてね」
めいちゃんとゆいちゃんは離れてしまったけど、そう遠いわけじゃないから良かったな。一方、隣の席の水戸部さんは廊下側の一番前の席に座る委員長を見てなぜか笑っていた。
「あらあら」
「あやのちゃん、どうしたの?」
「お母さんみたいな笑い方だな」
「ううん、席替えって面白いね」
その後、あやのちゃんは水戸部さんと何やらコソコソと話し合い、ついには手を取り合っていた。まるで、時代劇の『お主も悪よのぉ』を思い出したよ。
「で、早速だけど萌香、今日の世界史の宿題、教えて!」
よりにもよって、私の苦手な世界史と来ましたか。実は、私もやってないんだよね。ここは、あやのちゃんに頼むか。
「あやのちゃ」
「あれー?」
まだ、水戸部さんと会話中でした。しかも、2人だけの世界に入っているようでなかなか話しかけられません。後期になってから2人が話しているのをよく見かけるよね。もしかして、付き合ってるのかな?私の言いたい事がほのかちゃんに伝わったみたいで、私とアイコンタクトするとストレートに聞きにいきました。
「水戸部と彩乃って付き合ってるの?」
「ん?違うよ」
「俺らは同盟を組んでるんだよな」
「うん、ある目的のためにね!」
ドヤ顔の2人。同盟って一体何をしでかすんだろう。
* * *
そんな朝のSRが終わり、2限目の数学の授業を受けてた時、ふと窓の外を見ると校門にメイド服を着た人?が入って来るのが見えました。でもよく見てみると耳が横に尖っていて、しかもグラウンドで体育の授業をしている生徒、誰一人とも、そのメイドさんの存在には気がついていないようです。
普通なら誰もがメイドさんに気付くのに。そして、メイドさんの手には小さなお弁当袋を持っているようにも見えます。さらに、観察しているとメイドさんの細かい特徴まで見えてきました。
健康的な肌色で大人びた顔立ちに、腰まである長い薄茶の髪と綺麗な黄色の瞳。濃紺ワンピースに白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに同じく白いフリルが付いたカチューシャと白いニーハイ。それに、エルフのような横長の耳。
「宮川!」
「はい」
「次の問題の答えはなんだ?」
窓の外を眺めていたら数学の先生に当てられました。
「えーと、2以外のxに対して、y>0であるから、解は2以外のすべての実数です。」
「ちっ」
先生、私が答えられたからって舌打ちしないで下さい。この先生は授業中、居眠りや他事をしている生徒に難問を出して答えられないと、さらに難しい問題を出してくる先生。答えられて良かったよ。
「じゃぁ、次の問題」
「y= (x−2)2乗+1、だから解は、すべての実数」
答えたからもう当てないで。私の願いが通じたのか先生は居眠りしていた、ゆいちゃんへと的を変えて難問を出していました。数学が苦手なゆいちゃん、頑張れ。
先生の難問攻撃が終わり、窓の外を見るとちょうどメイドさんが校舎の中へ入って行く様子が見えました。
先生の難問攻撃が終わったかと思うと、授業の終わりのチャイムと同時に先生が私の机にたくさんのプリントを置き『これ、職員室ね』と短く言った後、私が何かを言う前に教室から逃げたのだ。
最近は部活勧誘が少なくなってきたのに、先生の手伝いは前より比べて多くなったよ。
「私も手伝うよ」
「あやのちゃん、大丈夫だよ」
プリントを持って職員室近くに行くと、さっき見たメイドさんがお弁当袋を大事そうに抱えて職員室前にある校内の地図を見ていました。近くで見ると私よりも身長が少し上で目が金色に近い黄色。
お弁当を持っていると言うことは誰かに渡すためだよね。このメイドさんは一体誰のために持って来たんだろう、近くには複数の生徒が廊下を歩いているけど、やっぱり誰もメイドさんの存在に気付いていない。
「失礼しました」
職員室から出ると校内の地図を見ていたメイドさんは体育館の方へと歩いていました。しかも、大きな声で何かを叫びながら。よーく耳を澄まして聞くと。
「ご主人様ー!」
ん、ご主人様⁉︎
その後もメイドさんは『ご主人様』と何度も叫びながら体育館の方へと行ってしまいました。
「誰を探しているんだろう?」
足を突っ込んだら面倒なことに巻き込まれそうなので、私は影から見守ることにしました。でも、もうすぐで3限目が始まるから教室へ戻らないといけないけどね。
そして3限目が終わり、またも日本史の先生から3年生の教室がある3階の西側の教室。実は、そこの教室は社会科の資料室なんですよね。そこで、大きな日本地図が書かれた用紙があるから、それを2年3組に持って行ってくれとの事。
今度はあやのちゃんと一緒に資料室の中で日本地図を探していると3年生の廊下から『ご主人様ー!』と呼ぶ声が聞こえて来ました。まさかと思って廊下に出てみると3年生の廊下には、さっきのメイドさんが、ふらふらと歩きながらこちらへ向かってくるではありませんか!
「もえかちゃん、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
私はあやのちゃんの隣に戻って、横目でドアの方を見るとメイドさんが資料室のドアを開け、辺りをキョロキョロ見回すと、ため息をついて出て行ってしまいました。
「あっ、日本地図あった」
「あやのちゃん、ありがとう」
「あれ、ドアってさっき閉めたよね?」
「閉めたよ」
「誰かが開けたのかな。ドアが開く音、聞こえなかったけど」
それは、普通の人には見えないメイドさんが開けたんだよ。って言いたかったけど、それを言ったら頭のおかしい子に思われるかな。
* * *
4限目が終わり、私とゆいちゃんとあやのちゃんは食堂でお昼を食べていました。するとまたも、あのメイドさんが食堂の入り口から登場です。私がメイドさんを見たのは2限目の数学の時間だよね。それから今の今まで、あのメイドさんはご主人様を探しているわけだ。
「ご主人様ー!」
その手に持っているお弁当をご主人様に渡すつもりだったけど、なかなか見つからなくて涙目になってるよ。しかも、声まで震えてる。あっ、男子生徒にぶつかった。
「おっと、ん?誰かにぶつかったような」
「誰もいねぇぞ?」
「気のせいか」
そう言って2人の男子生徒は何もなかったように食券の列へと並びました。一方、メイドさんは男子生徒とぶつかった瞬間、よろめいて顔面から床へ……うわぁ
痛そう。でも、ちゃんとお弁当は持ったままだよ。
「うぅ、痛い」
うーん、何でしょうこの胸のもやもや感は。さっきは、足を突っ込んだら面倒なことに巻き込まれそうだから、影から見守ることにしようって思ってたけど今は、その真逆の気持ちで。あぁ、もう!
「もえかちゃん、どうしたの」
「ちょっと、お花を摘みに行ってきます」
「了解です」
「お花?庭に花なんてあったっけ?」
「ゆいちゃん、お花を摘みに行くって言う意味はね」
あやのちゃんがゆいちゃんにお花を摘みに行く意味を教えている間、私は食堂内でうろうろしているメイドさんの腕を掴みました。
「えっ!」
「何も言わずに、こっちに来て」
私は食堂を出て、この時間帯、人気が無い体育館の裏へとメイドさんを連れてきました。お弁当を抱えたまま驚いた表情で私を見てくるメイドさん、口が開いてますよー。
「私のこと、見えているのですか⁉︎」
「うん、そういう体質でね」
「ご主人様だけかと思っていました」
人探しのヒントその1、私と同じ人じゃない者が視える人。
「人探しなら私も手伝うよ」
「えぇ!お嬢様、そんなの悪いですよ」
おっ、お嬢様⁉︎やめて!そんな言い方されると変な感じがするよ。だって、私まだ人生でメイド喫茶なんて行ったことないんだからね。
「私の名前は宮川 萌香、お嬢様じゃなくて萌香って呼んで下さい」
手を顔の前で合わせ、全身でお嬢様はやめて下さいオーラを出すと頷いてくれました。
「では、萌香さん。私のことはキィとお呼び下さい」
萌香じゃなくて萌香さん。うん、お嬢様よりかは断然良いね。
「うん、分かったよ。それじゃぁ、人探し手伝わせてね」
「萌香さん、ありがとうございます」
頭を深々、下げないで!キィさんの頭を手で押し上げて、気を取り直して質問タイムです。
「それで、その探している人の名前は?」
「ご主人様はご主人様です!」
それは、つまり名前を知らないと言うことですか?うーん、困ったな。じゃぁ、顔の特徴とか聞いてみよう。
「顔の特徴って分かるかな」
「ご主人様は身長が高くてメガネを外したらかっこいい人です。しかも、優しくて本当に良い人なんですよ!」
ヒントその2、メガネをかけている。
「じゃぁ、学年とかは」
「学年?なんですかそれは?」
知らなかったから、学校を探し回っていたのか。
「あっ、名前が分からなくても家族の人からなんて呼ばれるのかで、名前が分かるかも」
「ご主人様の家族構成はお父さんお母さん、お姉さんご主人様と4人家族です。今までお父さんお母さんにはお会いしたことありませんが、お姉さんからは頻繁に委員長と呼ばれていますね」
ヒントその3、お姉さんから委員長と……?
「お姉さんは水無月 奈々と言う名前でドラマや映画、芸能活動をしていますよ」
ヒントその4、お姉さんは水無月 奈々の名前で、というかキィさんの探している人って!
「もしかして、そのご主人様はバスケ部に入っていたりしませんか?」
「バスケ部?そう言えば、バスケットボールの絵が描かれたシューズ入れを持っていましたね」
今までに出たヒントをまとめてみると、私の頭の中である人物が浮かび上がりました。
「私、キィさんの探している人を知ってるかもしれない」
「まさか、ご主人様とお知り合いなのですか!」
「うん、多分。いや、確実にそうだと思う」
キィさんの目がキラキラと輝いています。本当は今すぐにでも、本人の前に連れて行きたいけど、今、その人がどこにいるのか知らないので、電話で呼び出すことにしました。
「今、呼ぶからちょっと待ってね」
私は携帯の電話帳を開いて、通話ボタンをポチッとな。さて、委員長は気付いてくれるのでしょうか?
委員長はまだ萌香にキィの事は話していません




