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57・お母さんへの手紙

まずは私の両親について思い出そうか

私のお母さんの名前は宮川 沙苗(さなえ)、お父さんの名前は宮川 春人(はるひと)、歳は2歳差でお父さんの方が上。


現在、刑務所で服役中のお母さんはさらさら黒髪で、容姿は可愛いとかじゃなくてどちらかというと『かっこいい』とか『凛』っていう言葉が似合う人かな。写真や私の記憶から思うにお母さんは美人の部類に入ると思う。


現在、イタリアで治療中のお父さんはたれ目で見た目から優しそうな人。そして、持ち前のコミュニケーション能力で様々な人と仲良くなり、いつの間にか大舞台に立っているというのがお父さんの特徴。


そして、その間に生まれたのが私。宮川 萌香15歳。さらさら黒髪は母譲りで顔のパーツやたれ目は父譲り。成績は世界史以外なら自信があって、尚且(なおか)つ物心ついた時から幽霊や妖怪が視えるという体質。


さてさて、両親について思い出したところで次は私の過去について思い出そうか。


私の記憶の中にあるのは、小学校の1年生の時。それまでの記憶は忘れてしまった。小学生時代の時に住んでいたアパートには幼稚園の帽子やカバンがあったから幼稚園には通っていたのだろうけど、本当にそれまでの記憶はない。


私が小さい頃、お父さんは海外の仕事が多くて家に帰ってくるのが年に2回とかそのくらい、本当はお父さんが家族で海外に住もうって言ったらしいけど結局、私とお母さんが日本に残ることになったの

別に仲が悪いことはなかったよ。お父さんは必ず家に週5回は電話してくるし、お母さんも楽しそうに会話していた。


でも、私が小学1年生の冬頃かな。その時期からお母さんは夜、私が寝た後、外に出て行くようになったの。まぁ、お母さんの仕事は看護系だったから夜勤とかあって仕方が無いかって思ってたんだ。ちゃんと朝には帰ってくるしね。


時は過ぎ、次第にアパートの部屋を出て行く時間は早くなって、小2の春くらいには私が学校から帰ってすぐ「仕事行ってくるねー!」って行っちゃった。夕飯は作り置きしてあるのを食べて宿題してお風呂入って寝る、毎日がその繰り返し。


お母さんがいなくて寂しいと思ったことは何回もあったよ。でも、私には視えていたから、部屋にいる数々の浮遊霊が。お母さんが部屋から出て行った後はその浮遊霊とトーク。アニメ好きの浮遊霊が部屋にいた時は他の浮遊霊達と一緒に深夜アニメを見て次の日には学校で居眠りしちゃったな。


それに、料理が上手くなったのも浮遊霊のおかげかも。実は部屋にいた浮遊霊の1体が生前、有名な店の料理長だったらしい。私はその浮遊霊の弟子になってお母さんが行ったあと料理の特訓をした。最後には『もう、全てを教えた。萌香は立派な料理人に成れる、これでさらばだ』と別れを告げ成仏して逝った。中には悪質な幽霊もいたけど、そういう奴は他の浮遊霊達に強制退去させられて二度と会うことはなかったよ。


この賑やかな浮遊霊達に囲まれていたから寂しさは和らいだかな。


そして小2の夏。なぜか浮遊霊の1体にお母さんの部屋へと連れられてクローゼットを開けてみてって言われた。不思議に思いつつもクローゼットを開けてみると見た感じ高級そうなバックやアクセサリーや服の数々。私の家は裕福でもなく貧しくもないごく一般家庭。


「お給料アップしたんじゃない?」


普通に考えて、そう思った。その頃からお母さんが私におもちゃや可愛い服を買ってくれたり一緒に外食したりとちょっとリッチな生活になっていた。


事が起きたのは小2の冬。テレビでとある詐欺グループが捕まったと報道された。

えー、実はその詐欺グループに私のお母さんが入ってたんですよね……そこからは裁判だの警察だのお金がどうのこうのってめまぐるしい日々が続きました。


幼い私が分かったことは、お母さんが悪いことをして刑務所に行った事と、アパートの大家さんから追い出されて住む家が無くなり劇的に貧しくなった事と、転校する事。あと、借金もあるみたい。


「まずは萌香の学校と住む家のことが先かな」


お父さんは私を安心させるように言った。辛いのはお父さんの方なのに。それからお父さんは住む家と私が通う学校を探してくれた。お母さんのお父さんとお母さん、つまりおじいちゃんとおばあちゃんはすでに他界していて、お父さんの方はおばあちゃんしかいなく、しかも老人ホームで暮らしているから、引き取りは難しい。


そこで、お父さんは私を連れてとある山奥のお寺に行った。そう、ここが知り合いのお坊さんのお寺。なんでも,ここのお坊さんとお父さんは昔からの付き合いだったらしく、事情を聞いたお坊さんは快く私達を受け入れてくれた。


「ここからなら、小学校も中学校も近いね」

「うん」

「というか春人(はるひと)、お前さんは」

「借金返すために今まで以上に働かないとダメだからね。暫くは向こうで生活かな」

「お父さん、一緒に暮らせないの?」

「うーん、仕事の関係でまだ一緒には暮らせそうにはないかな。あっ!でも電話はするし出来る限りここに来るよ」


お父さんは、このお寺から遠く離れた場所に会社があるらしく、ここから毎日通うのは無理がある。だからお父さんだけは会社の同僚の部屋で一緒に住まわせてもらうらしい。


「寂しい思いさせてごめんね」

「ううん、大丈夫。みんないるから」

「みんな…うん!お坊さんもお弟子さんもね」

「おう、俺も弟子達もみんないるから心配はないさ」

「萌香を頼みます」

「当たり前だ」


お父さんが見えなくなるまで見送った後、お坊さんからドキッとするようなことを言われました。


「萌香ちゃん、いっぱい連れてきてるな」

「えっ、えーとなんのことでしょうか」

「俺も萌香ちゃんと同じで視えるから隠さなくても良いよ。それにうちの寺の弟子達、全員視えるからさ」


お坊さんが私の背後を浮遊霊を指して言いました。そうです、私は部屋にいた浮遊霊達も一緒にこのお寺に連れてきてしまいました。だって、別れるのが嫌だったもん。


「悪そうな奴じゃないみたいだし、成仏するまでここにいたらどうだい?」


お坊さんの提案に浮遊霊達が喜びましたよ。


「それに、この寺には幽霊以外にもたくさんいるからな。まずは囲炉裏の(はい)を弄ってみなさい、面白い奴が出て来るから」

「灰?」

火箸(ひばし)囲炉裏(いろり)の灰を弄ると灰坊主(あくぼうず)っていう妖怪が出てくるんだ」

「そうなの⁉︎」

「おう、他にもまだまだいるからゆっくり紹介するな」


その日から中学3年の冬まで、このお寺でお世話になりました。





* * *




えーと、なぜ私がこんなことを思い出しているのかと言うと、原因は現在、刑務所に入っているお母さんへの手紙を書くためです。お父さんはお母さんが刑務所に入ってから今まで月1で手紙をかいているようですが、私は今の今まで一回もお母さんに手紙を書いたことはありません。


「うわぁ〜どうしよう、なんて書けば良いの〜」


深夜2時、お母さんへの手紙の下書き用として裏表(うらおもて)びっしりに書いたルーズリーフを丸めてはゴミ箱の中へポイっと繰り返し。しかも書き始めたのが9時からだから、かれこれ5時間は経ってるね。


これは長年書かなかった私への罰か!うわぁ、今更なんて書こう。距離が離れすぎてなんて書けば良いのか分からないよ。お元気ですか?学校は楽しいです?うーん、社交辞令みたいだな。


「うわぁ〜」


簡易テーブルの上で唸りながら新しいルーズリーフに文章を書いていきますが、納得するものが書けない。


「うわぁ〜」


さっきから唸ってばかりだ。隣では鬼さんが私が書く文章を読んでいます。もうダメだ、なんて書けば良いのか分からないよ。困った挙句、私は簡易テーブルに突っ伏しました。


すると、私の肩に一枚の薄いタオルが掛かりました。どうやら、鬼さんが私にタオルを掛けてくれたようです。突っ伏した体勢から少し顔を横に向けて鬼さんを見ると、親が子を見守るような優しい目で私を見ていました。あれ、なんだか目が熱くなってきたような……


「うっ」

「どっ、どうした!」


おかしいな、目から涙が。


「救命丸!救命丸!」


おい、これは赤ちゃんの夜泣きじゃないんだぞ。オロオロしながら救命丸が入っている薬箱を探す鬼さん、探してくれるのは良いけど薬箱が入っている戸棚を片っ端から漁るのはやめてくれ、後片付けが大変なんだ。


「ふふっ」


なぜでしょう、鬼さんを見ていたら自然と涙が止まりました。


「ありがとうね」

「えっ」


パンッ!

自分の頬を思いっきり叩いて気合を入れ直し。


「よし、頑張るか!」

「今、話しかけた?」


さーて、まずは伝えたいことを箇条書きにしてから、それらを繋げて文章にしていこうかな。視界の隅で救命丸を持ったまま、眉を八の字にして突っ立っている鬼さんが見えました。


「気のせい?」


そうです、気のせいですよ。


「頑張れー!」


鬼さんの声援を受けながら、私は下書き用のルーズリーフにシャーペンを走らせるのでした。

聞こえてないと思うけど

頑張れー!と応援してしまう鬼さん


本当は聞こえているのに……


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