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56・蓮さんについて

お話の後半で『23・住めば都』

が少し関係します

委員長との短い会話を終え、私は我楽多屋でバイト中だけど、店にはお客様の姿はありません。そして、今週の金曜日から蓮さんとククリちゃんは旅行に行くそうです。


「ふふふーん」


さっきからククリちゃんは、レジのカウンター内の椅子に座る私の膝の上で座り旅行のパンフレットを広げ、足を揺らしながら鼻歌を歌っています。しかもその鼻歌が犬のおまわりさんとなんとも可愛い曲の選択。和むわぁー。


「ねぇねぇ、おねぇちゃん」

「どうしたの?」

「鬼さんは部屋から出て行った?」

「あー、実はね」


部屋から札が無くなったことで、自由の身となった鬼さん。でも、どうやら本人は札がなくなった事に気づいてないみたいで、まだ家から出て行ってないんだよね。鈍感と言うかなんと言うか。これは誰かが教えてあげないと気付かないパターンだ。わざわざ言うのが面倒くさいから自分で気づくまで放置しておこう。


「まだ、家にいるかな」


そう言えばこの前、蓮さんが『もしそうだったら、お祓いか何かするよ?』って言ってたよね。お札を作れたりお祓いが出来たり、蓮さんって何者なのかな。私の予想ではお寺関係の人だと思うけど、それに、和服が似合うし。


「ククリちゃん、もしかして蓮さんってお坊さんとか住職の人?」

「そうだよ」

「あっ、蓮さん」


答えてくれたのは店の奥から出て来た蓮さんでした。相変わらず頭や甚平に埃がたくさん着いている。埃があるような場所って我楽多屋にあったかな。


「蓮はね、お寺の跡取り息子だったんだ」

「小さい頃から家の寺を継ぐために勉強してきたから、お祓いとか札作りは完璧なんだ」

「お祓いが完璧でも、札作りが完璧になったのは30歳頃じゃなかったけ?お客様に間違えて出来の悪いお札を渡しちゃったし」

「ククリは痛いところを突くね」


苦笑いで答える蓮さん。それでも、片眉が少し上がっただけ、蓮はさんが目を開いたところは見たことないなぁ。


それにしても、蓮さんってお寺の跡取り息子だったんだ。でも、今こうして我楽多屋を開いているからお寺は継がなかったと見える。


「でも、17歳頃かな。寺を継ぐんじゃなくて別の仕事がしたいと思ってさ」

「だから、20歳頃でククリと一緒に我楽多屋を開いたの」

「でも、お寺と親さんは」

「最初は親に反対されたけど、真っ正面から話し合ったら納得してくれたよ。それにお寺は僕よりも優秀な人が継いだんだ」


知り合いのお坊さんから跡取りの事は詳しく教えてもらえなかったからよく分からないけど複雑そうだね。


「お寺とか神社ってたくさんいますよね」

「あー、僕の寺にはお墓があったから幽霊とか妖怪とか人型の狼とかいたねぇ」

「人外ですね」


知り合いのお坊さんのお寺にもお墓があったし、山の中だから余計にたくさん出たんだよ。夏のお盆の時なんか人魂が多すぎてお寺の廊下を歩くことさえも困難だったから。


「それに、霊力が強いと寄って来やすいしさ。僕もそうだったし萌香ちゃんもそんな感じでしょ?」

「寄ってくる?でも、昔はよく襲われてたから」

「おねぇちゃんを襲うだなんて!」

「でも、その度に知り合いのお坊さんに助けてもらって、襲って来た妖怪と一緒にお寺で暮らしたよ」

「襲われたのに仲良くなったの⁉︎」

「うん、なんでか知らないけど仲良くなったね。でも、中には危ない奴もいて、そういうのは知り合いのお坊さんがきっちり祓ってくれたよ」


そうか、今まで知らなかったけど私は霊力が強いから昔からよく襲われてたんだ。土地神様も見えるしね。


「知り合いのお坊さんって親戚の人?」

「いえ、お父さんの知人です」

「おねぇちゃん、遊びに行ってたの?」

「私、一時期、知り合いのお坊さんのお寺で暮らしていてたんだ」


知り合いのお坊さん、中学3年生の冬から会っていなくて、今でも元気にしてるかな。それに、灰坊主(あくぼうず)も他のみんなも。


ここから少し遠いけど、久しぶりに行ってみようかな。




* * *




我楽多屋のバイトが終わり203号室前の通路には大きな段ボールが置かれていました。あの段ボールは現在、イタリアで療養中のお父さんから送られた物だと思う。ほら、やっぱり段ボールには送り主の住所と名前と宛先が書かれてある。


「重っ!」


持ち上げてみると、意外にも重くて腰が曲がりそう。部屋に入って中を開けてみると、段ボールの中にはイタリアの食べ物やお菓子や手紙。それに、病院内の庭でお父さんが仕事仲間と一緒に芝生で寝転がっている写真がありました。


「歩ける様になったんだ」


写真の中で笑うお父さんに少し安心。私の隣では鬼さんが『本当、萌香とそっくり』とか言いながら他の写真を見ています。そして、写真につけ添えられていた手紙を読むと、現在の病院生活の事や私を心配する内容が書かれてありました。


『寂しい思いさせてごめんな。』

『元気にしてるか?』

『ご飯食べてるか?』

『これからは週一で段ボールを届けるから』

『彼氏出来たか?』

『お父さんは病院から抜け出したら看護婦さんにど叱られたよー。』


「って抜け出すな」

「ははっ」


一緒に読んでいた鬼さんは笑うし、ご丁寧にお父さんが病院から抜け出して看護婦さんにど叱られている様子の写真もあるし、誰だこれを撮った奴は。会社仲間か。そして、文章の最後には


『母さんが好きな色のレターセットも段ボールの中に入れたよ。だから母さんに手紙を書いてくれないかな?渡し方も一応、書いて段ボールの中に入れておいたから、分からなかったらそれを見てね』


段ボールの底にはお母さんが好きな薄紫色のレターセットがありました。鬼さんが複雑な表情で私を見てきます。そう言えば前に鬼さんと大家さんの前で、私のお母さんが刑務所にいるって言ったっけ。


もしかして、鬼さんそれを覚えててくれたんだ。鈍感な割りに、こういうところは気が付くんだね。私と鬼さんは薄紫色のレターセットを見つめたまましばらくの間、動きませんでした。


「お母さんかぁ」


色々と複雑です。


これでやっと

萌香のお母さんが何をやらかしたのかと

お父さんのお話が投稿できます


それと、知り合いのお坊さんについても


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