54・札の謎
今回は17話の前半のお話に出てきた玄関に飾ってある絵の裏に貼ってあったお札についてのお話です。それと、鬼さんが金曜日だけ出れる謎もあります。
関係あるお話や妖怪
【17・メリーコールで女子トーク】
【22・水と油】に出てきた油赤子のあーちゃんとたまに出てくる灰坊主
私が考えた仕返しは、わざと鬼さんに私のパスキー見せて後から変える。そして、携帯を充電しながら私の枕元に置いてやって来た鬼さんを観察すること。
えぇ、もちろん考えた事は実行しましたよ。まずはベッドに座る鬼さんの隣に座ってワザと携帯を触ります。この時にパスコードの画面を若干鬼さんの方に向けつつ、ゆっくりと4625と数字を打つことがポイント。
その時の鬼さんの表情は真剣で、いつもとは違った表情にちょっとドキドキしてしまったではありませんか。でも、ここは心を鬼にして、私の携帯を勝手に覗こうとした仕返しをやらなくては!
パスキーを見せたら、部屋から出て行き4625から別のパスキーに変更。そして、部屋に戻りベッドの近くにあるコンセントから携帯を充電して枕元に置きます。
必ず鬼さんは来るので、ベッドで寝たふりをしながら鬼さんを観察です。それに、充電しながらだから朝、起きて携帯を見たら充電が無くなっている心配はないよね。
部屋の電気を消してベッド入ります。
さてさて、餌に釣られて鬼さんがやって来ました。
「萌香、ごめん」
あっ、一応、断りは入れてるんだ。鬼さんにも、少しは人の携帯を勝手に覗こうとする罪悪感はあるんだね。そして、鬼さんは迷わず4625と打ちました。
「えっ、どういうこと」
どうもこうも、私がパスキーを変えたんだよ。私は体を鬼さんの方に向かせ薄目で観察中。そこには何度も4625と入力している鬼さんの横顔が見えました。あーぁ、4625『しろねこ』じゃないのに。
「しろねこ?」
おっ、ここで鬼さんが4625を『しろねこ』と読みました。そして、何かを思いついた表情になり自信満々でパスキーを打って行くではありませんか。鬼さんが打ったのは9625『くろねこ』だけど。
「これも、違う⁉︎」
実は、私が4625から変更したのは9625じゃない別のパスキー。普通に考えて『しろねこ』が違うなら『くろねこ』だよね。
ふふふ、鬼さん。そう簡単には解けないパスキーとなっていますので、どうぞ今夜は頑張って下さい。
あっ、ちなみに私が変更したパスキーは
0237『鬼さん7』7はただ単に縁起のいい数字だから使っただけ。
「萌香、変えないでくれよ」
鬼さんの悲痛な叫びが聞こえてきました。元はと言えば、鬼さんが私の携帯を勝手に覗こうとしたから悪いんでしょ!自業自得です。だから、私の嫌がらせを受けなさい。
* * *
翌日、目が覚めると鬼さんが昨日と同じく床で倒れていました。結局、パスコードはダメだったようですね。そうだ、次は鬼さんが嫌いな柊の葉を使った嫌がらせをしようかな。
「ふふふ〜ん」
それと、今日は未だに玄関に飾ってある出来の悪いお札が貼られた絵を蓮さんに買い取って貰おうとしました。我楽多屋はアンティーク喫茶店だけど買い取りもやっていることが判明。それで昨日、蓮さんに絵を買い取って欲しいと言ったところ良い返事がもらえたので行ってきます。いつまでもよく分からない出来の悪いお札が貼られた絵を玄関に飾って置くわけにはいかないもんね。
それに、あと少しで蓮さんとククリちゃんは1ヶ月も旅行に行ってしまうし、今がチャンスだから。
「忘れずに持って行こう」
* * *
和菓子屋二階堂のバイトが終わり、ついにやって来ました我楽多屋のバイト。今、我楽多屋にはお客様は誰一人いません。
「それじゃぁ、見せて貰おうかな」
「はい、お願いします」
「あれ、これは」
蓮さんが絵の裏を見た瞬間、顔色が一変。
「私もお札には少し知識があって、そのお札ってすごく出来が悪いですよね」
「うん、これは酷いね。蓮が若い時に作ってたお札みたい」
あっ、蓮さんお札も作るんだ。これはククリちゃんから聞いた話なんだけど、蓮さんは妖怪に栄養ドリンクを作ったり霊媒師的なことをするらしい。
「思い出した。これ僕が昔、売った商品だ」
「ええっ!!」
なんですって!さらりとまさかの告白。驚き過ぎて口が閉まりません。どうしよう、出来が悪いお札って言っちゃった。
「そう、これは僕がまだこの店を始めたばかりの頃」
おぉ。突然、蓮さんが回想を始めました。
蓮さんの話によると、これを売ったのは20年前、とある男の人が息切れ切れに我楽多屋に尋ねて来て「怪奇現象」が起こる部屋を何とかして欲しいと言った。
それで、当時の蓮さんは自分が作った札を絵に貼ってその男に売り渡したとさ。その男ってきっと前の住人さんだよね。
「でも、その頃の僕が作る札とかは全部失敗作でさ、それに気付いたのが売り渡して1週間後くらいなんだ」
「その前に、よく20年前のことを覚えていますね」
「まぁ、あれが初めて僕がお客様にやらかした事件だからね。しかも、貼った札も間違えたし」
失敗作の札を渡した上に札の種類を間違えるとは、昔の蓮さんはドジっ子⁉︎
「ちなみに、何のお札と間違えたのですか?」
「お客様からは、霊を追い出して欲しいって言われたから追い出す用のお札を渡したつもりだったけど、実際は霊を閉じ込める用のお札だったんだ」
蓮さんが作った欠陥品の霊を閉じ込める用のお札。その中途半端な効果が結果的に鬼さんを閉じ込める羽目になってしまったと言うわけですか。でも、鬼さんって金曜日だけは部屋から出て行くよね?
「でも、これが萌香ちゃんの部屋にあるだなんて驚いた」
「おねぇちゃんの部屋に何かいるの?」
「あっ、それ僕も思った」
「うーん、いますよ」
「悪霊?」
「もしそうだったら、お祓いか何かするよ?」
「いえ、悪霊ではなくてですね」
この際だから、私と鬼さんのことを事細かく言ってしまいましょう。もちろん、視えないフリをしている件についてもね。ついでに、蓮さんに鬼さんはどうして金曜日だけは部屋から出て行けるのかも聞いてみました。
「鬼と一緒に屋根の下」
「蓮さん、言い方が危ない方向に行きそうなんですけど」
「そうか、金曜日だけは部屋から出て行くんだ」
蓮さんは手を顎のしたに当てて考え込みました。それから暫くして思い出したように話し始めました。
「なんせ、渡したのが欠陥品の札だからね。本来ならちゃんと閉じ込める用の札だったのが、欠陥品であるために金曜日だけは部屋から出られるようになったとか」
全ては欠陥品であるためか成る程ね。でもさ、金曜日だけは部屋から出られるんだから、そのまま外に逃げれば良いもののなんで律儀に帰って来るんだ?謎が謎を呼ぶこのスパイラル。
「あー、そのお札って霊を閉じ込める用でもあるし、その場所に霊を縛るためのお札でもあるんだよね。地縛霊みたいに」
「縛る?」
「簡単に言えば、今の鬼君は見えない鎖で部屋に繋がれていている状態。だから、遠くへは行けないし朝になればお札の効力が戻って部屋に引き摺り込まれるからね」
そうか、欠陥品だけど役割はちゃんと果たして金曜日以外の日は普通に効力があるんだ。見えない鎖か、自由になれないのは苦しいよね。
「それじゃぁ、これ売ってもらっても良いですか」
「売ると言うか、これは欠陥品だから他所様には売れないね」
「えっ、じゃぁこれは」
「売るんじゃなくて、僕がもらうよ。元々は自分が作った札だからね」
良かった。もし、ダメだったらゴミ箱に捨てようと思ってたかな。でも、お札をゴミ箱に捨てるのは気が引けたからね。それに、これで鬼さんは誰にも縛られない自由の身だ。
「痛っ!」
「ククリ、大丈夫!」
「うん、このお札に触ったら電気が走ったみたいに痛かった」
「だから、無闇になんでも触らないの」
どうやら、お札を気になったククリちゃんが触ってしまったようです。ククリちゃん、大丈夫かなすごく痛そう。昔、知り合いのお坊さんの家で巫山戯半分にお札に触った灰坊主もククリちゃんみたいに痛がっていたな。
「これは、もらうね」
「お願いします!」
「ちょっと、店の裏に行ってくる」
蓮さんは札が貼ってある絵を持って店の裏に行ってしまいました。ククリちゃんを見ると少し悲しそに自分の手を見ていたの。どうしたのかな?まだ手が痛むとか。
「ククリちゃん、絆創膏どうぞ」
「おねぇちゃん、ありがとう」
それでも、ククリちゃんの表情は浮かないです。
「ククリちゃ」
「おねぇちゃん。さっきおねぇちゃんが言ってた部屋にいる鬼の話」
「うん」
「その鬼って悪い奴?」
「うーん、覗きをしたり、妖気でクーラーを壊したり、人の携帯を勝手に見るけど、前に私が熱を出した時には看病してくれたかな」
「そこまで悪い奴じゃないんだよね」
「まぁ、そんな感じかな」
ククリちゃんの声と目はいつもよりも真剣味を帯びていて話しているこっちが緊張してしまう。
「妖怪とか幽霊ってね、寂しいんだよ。油赤子のあーちゃんだって、おねぇちゃんと遊べてすごい楽しいって言ってた」
あの、無表情のあーちゃんがそんな事を言ってくれてたなんて、嬉しい。
「最近は昔よりもククリ達が視える人は少なくなって来てね」
なんだか、ククリちゃんが言いたいことが分かって来た気がする。
「時間はゆっくりでも良い、だから」
『気付いてあげて』言葉にはしていないけど、ククリちゃんはそれが言いたかったんだと思う。
「ククリと萌香ちゃん、どうしたの?」
「ククリのありがたい悟りを開いていたんだ」
蓮さんが戻ってくるなり、ククリちゃんはさっきまでの真剣な表情からいつもの柔らかフェイスに戻りました。
「蓮、今日の夕飯はアイスが良い!」
「アイスは夕飯じゃないでしょ」
「えー」
もし、私が鬼さんに視えると伝えたら、今の蓮さんとククリちゃんの様な関係になるのかな。それとも、また別の関係。
「ゆっくりで良いよね」
今の私にはまだ考えられないから焦らずに行こう。
「おねぇちゃんも一緒に食べよう」
「えっ、良いの」
「アイス、おいしいよ」
「あっ、ククリそれはどこから出したんだい⁉︎」
「えへへへー」
今日の我楽多屋のバイトは蓮さんがククリちゃんを叱る声で終わりました。
17話の伏線がようやく今になって
回収出来ました
17〜54と随分、間が空いてしまった……




