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53・パスコード

鬼さん視点の

52・メール&通話、それ以前の問題です。


とある金曜日の夜

いぬがみから貰った携帯に人間と通話やメールが出来るだなんて初めて知った。もっと早くに教えろよ!

ガチャ

急いで家に帰ると部屋は真っ暗で何も見えなかった。でも、妖の僕は暗闇でもはっきりと物が見える。あっ、萌香が寝てる。寝顔、可愛いな。僕がいない金曜日はいつも通り寝ているんだ。


「よし」


萌香の寝顔をもっと見ていたいけどまずは、携帯を探すことが先だ。いつも萌香は携帯を枕の隣か勉強机に置いてるけど、今はそれが見当たらない。


ガサゴソ、ガサゴソ


ない、机の引き出しの中やタンスの中をひっくり返してもない。どこだ?気が付けば部屋の中は盗っ人が入ったような荒れ狂った部屋となっていた。これは確実に萌香、怒るよな。でも、萌香は僕のことが見えてないから、まぁ良いか。


萌香の携帯を探す事30分。ようやく携帯を発見。見つけた場所は萌香が通う学校の通学カバンに入っていた。


携帯を手にした瞬間、僕は勝手にメールを打って良いのか迷った。もちろん、モラル的なこともあるけど、その前に送ったメールに萌香が気味悪くなって、どこか遠くに行ってしまうのではないかと思ったから。


前の住人だってそうだ。例え、僕のことが見えなくても、少しでも良いから気付いて欲しくて行動に出たら気味が悪いとか言って一週間で出て行った。もう20年前のことだけど、それは、はっきり覚えてる。


それから20年、この部屋には幽霊が出ると噂になって誰も入ってこなくなった。僕のせいだ。妖にとってたったの20年はとても短いかもしれないけど僕にとっては長く感じられた。


萌香は前の住人とは少し、いやかなり違うかな。肝が座っていると言うかなんと言うか、僕が妖気で部屋の電気を付けたり消したりしても驚かないし、大家の目の前で部屋全体に妖気を当てた時なんか、普通なら怖くなって逃げ出すのに、怖がらず冷静に対応して。大家から部屋の移動の誘いにも断って、このままここに住むと言ってくれた。


それでも、萌香がこの部屋から遠くに出て行って、もう会えない可能性はある。もしかしたら、ある日突然、この気味が悪い部屋にはもう住めないって言って引っ越す可能性だってあるだろ。


「でも」


やって後悔するよりも、やらずに後悔する方がもっと嫌だ。


「萌香、ごめんね」


携帯を触る前に一応、萌香に手を合わせて謝っておく。そして、ホームボタンを押して画面が。


「何これ?」


画面には0〜9までの数字と4桁のパスコードを入力して下さいと表示していた。いや、こんなのは知らないよ。初めて見る、もしかして、数字を入れないといけないパターンなのか。


とりあえず、『1234』と数字を入れてみるけど、画面にはまたもパスコードを入力して下さいと表示された。今度は『5678』、またダメ。


これは勝手に人の携帯を触ったことへの罰なのか。うわー!パスコードってなんだよ!こんな機能知らないぞ、いぬがみから教えて貰ってないし。


「今度こそ」

1068

「ダメか」

8686

「これはどうだ!」

5696

「違う」

4628


全然ダメだ、うんともすんとも言わない。一体、萌香のパスコードはなんだよ。時間と根気と携帯の充電はどんどん減って行き、もうそろそろ夜が明けるという頃、ついに携帯の充電がなくなってしまったのと同時に僕の疲労もピークに達したみたいで床に倒れた。


「でも…あきらめ……ない…ぞ」




* * *




目が覚めると辺りはいつも通りの綺麗な部屋になっていて、ベッドで寝ているはずの萌香がいなくて、ゆっくりと起き上がると背中に鈍い痛みが走った。誰かに蹴られたみたいに痛い、やっぱり硬い床で寝たからかな。


「今日は土曜日か」


土曜日と日曜日、萌香は朝からバイトという仕事をしている。そして夜には帰ってくるけど、女の子が夜道一人で歩くのは危険だと思う。僕としてはバイトなんてやらずに家にいて欲しいんだけどね。その方が一緒にいる時間が長くなるしさ。


「いぬがみに聞くか」


僕は自分の携帯を出して電話帳を開き、いぬがみに電話をした。もちろん内容はパスコードについて。


プルルル、プルルル


『はい、もしもし』

「いぬがみ、話がある」

『ちょっと待ってくれ』


携帯からいぬがみの声と声高な女の人の会話が聞こえた。

飛頭蛮(ひとうばん)、少し席を外す』

『了解です』

その会話の後に、ドアを閉める音がして携帯から何も聞こえなくなった。ひとうばん?いぬがみの会社で働いている子かな。


「ひとうばんって?」

『なんだ、聞こえたのか』

「うん」

『中国から来た、俺の会社で働いている仲間だ』


やっぱり、いぬがみの会社で働いているんだ。


『で、どうした?』

「いぬがみ、パスコードって知ってる?」

『当たり前だろ。パスコードっつうもんは、誰か知らない人に勝手に携帯の中を覗かれないようにした、いわゆるセキュリティみたいなもんだ。お前もセキュリティを掛けたいのか?』

「いや、違う」


電話越しからいぬがみの不機嫌な声が聞こえた。きっと、めんどくせぇって思ってるんだよな。それでも、見捨てずに話を聞いてくれるんだよね。


「パスコードの解き方って知ってるよね」

『はぁ?そんなもんパスコードに登録したパスキーを入力すれば良いだけの話だ』

「それで、いぬがみに頼みがある」

『何だ」

「萌香のパスコードを教えて」

『そんなもん、俺が知るかっ!!!』


ツーツーツー、ツーツーツー。

すぐに切られた。なんで、いぬがみは知らないんだろう。携帯を作ったのはいぬがみなのに。


「どうしよう」


いぬがみに聞けば少しは進展すると思ったけど、結果は収穫ゼロ。


「降り出しかぁ」


僕は頭を抱えてベッドに座り項垂れる事しか出来なかった。よし、萌香が帰ってきたらもう一度、チャレンジしてみよう。



* * *




萌香が帰宅して僕はもう一度、試したけど、全てが外れ。もうわけが分からなくなってきた。萌香はいつもと変わらず夕飯を作って食べてお風呂に入ってテレビを見ようとしていた。


最近はテレビで面白いところを見て笑うと、萌香も笑っているパターンが多い。同じところで笑うって、なんか良いよね。


と、ここでパジャマ姿の萌香がテレビを見るため、いつも愛用している猫型座布団の上に座るのではなく今日はベッドの上に座っていた僕の左隣に来て座った。


しかも、近い!今にも肩と肩が付きそうで萌香からは女の子らしい甘い匂いがした。これはシャンプーの匂いかな?僕も使ってるけど、こんな良い匂いはしない、何が違うのかな?やっぱり、女の子だから?


「ゆいちゃんからメール来てないかなー」


なんと!今、僕の隣で携帯に電源とパスコードを弄ってる。つ、ついに、僕の知りたかったパスコードが見られた!


「来てないかぁ」


電源を切ってつまらなさそうに呟くと部屋から出て行ってしまった。パスコードは4625。本当は今すぐにでも僕の連絡先を萌香の携帯に入れたいんだけど、萌香は携帯を持って部屋から出て行ってしまったから今は無理。


でも、パスキーが分かれば後は簡単、いぬがみから教えて貰ったやり方で連絡先を交換すれば良いんだよね。


「ふぁ〜」


萌香が可愛く小さな欠伸(あくび)をしながら部屋に入って来た。そして、携帯をベッドの近くにあるコンセントから充電して携帯を枕元に置き、テレビを見るわけでもなく、部屋の電気を消して寝てしまった。


今は夜の10時。いつもなら、11時には寝る萌香が今日は早く寝るだなんで珍しいけど、連絡先を交換するチャンスは今しかない。


僕はすぐに萌香の枕元に行って、携帯を触った。


「萌香、ごめん」


聞こえてないだろうけど一応、言っておく。

それでは、電源を入れてパスコードを入力して下さいとの表示が現れ『4625』と入力。これで、やっと出来………ないぞ?


「えっ、どういうこと」


おかしい、僕はちゃんと4625って入力したのに画面にはまだパスコードを入力して下さいとの表示がしてある。もしかして、打ち間違えた?それなら、もう一度。『4625』パスコードを入力して下さい。


「マジか!」


もう一度、4625

まだまだ、4625

4625、4625、4625、4625、4625、4625

萌香、パスコード変えた?いや、そうとしか考えられない。うわー。4625って打ってたら『しろねこ』って読めてきた。


「しろねこ?」


ん?『しろねこ』僕は萌香のパスキーをよく読んでみた。やっぱり、この4625『しろねこ』って読める。そう言えば、萌香って猫好きだよね。座布団も猫型だし。もしかして、次に変えたパスキーって。


僕は自信を持ってパスコードを入力して下さいとの表示される下に4つのパスを入れる。これで、どうだ!

僕が入力したのは『9625』「くろねこ」。しろねこと来たらくろねこだろ!


さぁ、開け


パスコードを入力して下さい。


「これも違う⁉︎」


自信を持って入れたのに違うだと。驚いて口が塞がらない。ふと、横を見ると萌香がベッドに横にならながら、薄く笑っているように見えたのは僕の気のせいかな。


こうしてパスコードの解除作業は朝、僕が疲労困憊(ひろうこんぱい)で倒れるまで続いた。でも、結局パスコードを解除することは無理だった。


「萌香、変えないでくれよ」


寝ている萌香に言っても聞こえてないから無駄なんだけどね。はぁ、メールと通話はいつになったら出来るのかな、その前にパスコード解除が先なんだけどね。

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