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50・巫女と土地神様③

23話にちょろっと出てきた灰坊主(あくぼうず)がまたもちょろっと出てきます。

土地神様がおかしなことを言い出しました。しかも、『一生』とな。いや、別に巫女さんの服を着られるならそれはそれでコスプレみたいで良いけど、一生を捧げてみるとなると話は別。しかも土地神様の目は冗談を言っているようではありません。


「でも、火ノ江家が代々継いでいるのに、そこに私が入ったらダメなのでは?」

「そこは、ワシがなんとかする」

「なんとかって、そもそも土地神様が視えない人に頼んでも、どうする事は出来ないと思います」

「ワシの妖力を持ってすれば、朝飯前じゃ」


本気だ。しかも、妖力って力押しだよね、暗示とか掛けるの?まぁ、確かに昔、知り合いのお坊さんの寺で暮らしていた時、囲炉裏(いろり)に住んでいた灰坊主(あくぼうず)が妖力を使って寺に来た参拝客に暗示っぽいことを掛けて遊んでいたような覚えがあるけど。


「巫女勧誘のために私を探していたのですか?」

「あー、小娘を見つけたのは偶然じゃ。たまたま、由紀子の後をつけておったら由紀子が小娘と接触しとってな、前から小娘の事は勧誘したかったし、これはちょうど良いと思って連れてきた」


ドヤ顔で言うな!部活勧誘の次は巫女勧誘ですか。


「夏祭りの時、小娘。ワシを視とっただろ?土地神を視れるのは相当な霊力を持っとることじゃ」

「はぁ、霊力があるから誘った」

「おう、誰もワシの事が視えないこの神社はつまらんだろ?」

「いや、つまらなくはないと思いますけど」

「ワシが嫌じゃ」


お前のわがままかいっ!

落ち着け落ち着け一旦考えをまとめてみようか。えーと、つまり、火ノ江神社には土地神様を視える人がいなくて寂しくなった土地神様は夏祭りに来た土地神様が視える私を発見。


そして今日、偶然、火ノ江先輩の後をついていたら、火ノ江先輩と話す私を発見。元から私を巫女勧誘するつもりだった土地神様はこれ幸いにと、私をここへ拉致って来たと言うわけ。


つまり、土地神様の寂しさを埋めるための話し相手になるために連れて来られたようなもの。


ちょっと待てよ。だったら私が夏祭りの時、律儀に土地神様に挨拶なんてしなければ良かっただけの話だよね。もし、あの時、目を合わせなければ、挨拶しなければ、今頃こんな勧誘はなかったっていうこと!うわー。何やってるんだ私は、タイムマシンがあったら過去に戻ってやり直したい。


「話が変わりますけど、なんで土地神様は火ノ江先輩の後をついていたのですか?」


この質問は今、思ったこと。火ノ江先輩は土地神様の事が視えないのに、なんでわざわざ、視えない人の後を追う必要があるの?


「一日中、本殿に引き(こも)っては、暇じゃろ?だから、由紀子の後を追って学校という物を観察しておった」


暇を持て余した土地神様の遊びのようですね。この事を火ノ江先輩が知ったら驚くだろうな。


「で、小娘よ。巫女になれ」


あっれー。さっきは巫女にならないかっていう柔らかい感じだったのにいつの間にか命令形に変わってる。


「すいませんが、その件に関してはお断りさせていただきます。ですが、話し相手が欲しいと言うなら、ちょくちょく、神社に顔を出しますので、それで良いでしょうか?」

「嫌じゃ」


即答で嫌じゃときました。


「ちょくちょくは嫌じゃ、毎日来い」

「それは無理ですよ。私は学業とバイトと青春で忙しっ!」


その瞬間、どうやら私は土地神様の強い妖気に当てられたようです。体が重いし、上から押し潰されている感じがする。鬼さんの妖気に当たったことはあるけど土地神様と鬼さんの妖気は格が違う。やっぱり、土地神様だけあって強いな。


「で、どうする?」


笑顔で質問する土地神様、話が通じないなら実力行使ですか。昔、知り合いのお坊さんの寺から少し離れた場所で、その土地の土地神様に出会ったけど、もっと穏やかな性格だったよ。


痛たた、頭も痛くなってきた。あーもう!


「無理なものは無理ですよ!」


私は土地神様の妖気に押し潰されながらも、無理やり正座の状態から立ち上がり大声で抗議しました。


「たかが、話し相手欲しさにどうして、そこまでするのですか⁉︎訳、分かりません」


私が立ったことに驚いたのか土地神様は、珍しい物を見る目で私を見てきます。と、その時。遠くから足音が聞こえてきました。その足音の方を見ていると、現れたのは表情に苛立ちをみせる巫女姿の火ノ江先輩。


「あなた、ここでなにしてるの?」


今が土地神様から逃げるチャンス!このまま話しても話が長引くだけだから、どうにかして切り上げたかったんだよね。


「火ノ江先輩の巫女姿を見たくて来ました」

「帰って」

「はい……」


言うが早い、私はさっさと学校のカバンを持って本殿から出て行きました。


「小娘、考えとけよー」


後ろから土地神様の声が聞こえてきましたが、幻聴だと思ってスルーしよう。私が本殿を出て、出口の鳥居までの長い参道を歩いていると、これまた土地神様と同じ白髪のおじいさんが放棄で落ち葉を掃除していました。


「参拝の方ですか、お帰りの際はお気を付けて帰って下さいね」

「ありがとうございます」


あのおじいさんも土地神様と同じ白髪だから、もしかして、火ノ江先輩のおじいさんかな。そんなおじいさんに見守られつつ、私は鳥居まで目指しました。後ろを振り返って見ても土地神様はいないので、これ以上、土地神様と話すことはなさそうです。


はぁ、本当、話し相手欲しさにどうしてあそこまでするのかなぁ。それに、さっきはちょくちょく顔を出しますとか言ったけど、なんだか、妖気で抑えつけられたら怖くなって来た。暫くは火ノ江神社に近づかないでおこう。そして、土地神様を見つけたら避けよう。


「あっ」


鳥居を出て直ぐ、私は重大なことを思い出しました。そう言えば、ゆいちゃんはどうなったんだろう。慌てて携帯で連絡すると、直ぐに返信が来ました。内容は未だに数学の追試を受けて帰れそうにもないから先に帰っててということ。


これから我楽多屋でバイトがあるので、私は、ゆいちゃんのお言葉に甘えて先に帰ることにしました。


「はぁ」


今は9月の上旬、蓮さんとククリちゃんはまだ旅行に行っていないから、我楽多屋についたら今日のこと話そう。




* * *




萌香が火ノ江神社の鳥居をでたその後。火ノ江神社の土地神は本殿の屋根の上で、足早に帰る萌香を見ながら煙管(キセル)を吸い、火皿から出る煙に話しかけていた。


「ワシの妖気に当てられてもなお、立ち上がるとは」

「元々、霊力が強いからこそ出来たこと」

「ワシの妖力も年々弱りつつある」

「えぇ」

「お主、霊力の強い者の寿命を頂けば、妖力が回復すると言っておったな」

「はい」

「時間はまだある、ゆっくりと事を進めようではないか、小娘よ」


白く甘ったるい匂いの煙が空に立ち昇る。


「土地神様、あの娘を巫女にしたいという話は?」

「は?そんなのは建前じゃ。いきなり寿命くれ、だなんて言ってみろバカでも断るわ」


それでも、『一生をワシに捧げろ』と言うのは『寿命をくれ』と同じで誰もが断るだろうと煙は思った。


「土地神、バカだろ」

「ん、何か言ったか?」

「いえ、何も」


その言葉で土地神と煙の会話は終了し、本殿の屋根の上から土地神は消えた。

【土地神様】


・妖狐 (女)

・真紅の瞳に白い髪と白い尻尾

・頭には狐の耳が生えています

・身長は160cmくらい

・性格は、わがまま

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