48・巫女と土地神様①
27話に出てきた白髪の巫女さんが登場します
近況報告3つ!
1つ目、メアリーさんがついにギターガールとして初めて売ったCDアルバムが妖怪CDランキングで2位を獲得したそうです。というか妖怪の世界でもCDランキングがあることに驚き。もう、人間の世界と変わらないんじゃないかと思う。
その事を知ったのは電話が掛かってくる金曜日じゃなくて別の曜日。本当は金曜日以外に電話しないでって言ったのに、でも、ランキングに入れて嬉しくてつい電話してしまったそうです。その報告に私も一緒に喜びました。
2つ目は夏休み最後に出会った中国から来た飛頭蛮さんについてです。実は、あの日から私と飛頭蛮さんはちょこちょことメールのやり取りをやっていました。内容はアニメ関係や漫画や小説の事と、中国語について少し教えてもらったかな。
私がメールで、ーーーは何と言うのですか?と質問すると、中国語で返してくれてしかも、発音の仕方と読み方付きのダブルで丁寧に教えてくれました。それから、旅行で中国に行った時に使える便利な言葉だとか、料理についてのお話。私はもう、アニメ関係のメールそっちのけで質問しまくりましたよ。
3つ目は我楽多屋の蓮さんとククリちゃんについて。どうやら、あの2人は9月の半ばから10月の半ばまでの1ヶ月間、いぬがみさんの会社が始めた旅行プランに行くそうです。だから、蓮さんとククリちゃんが旅行に行っている間は我楽多屋でのバイトは一時中断です。そのことを伝えられた日、蓮さんは楽しそうに『アフリカとか中南米にはまだ行ったことがないな』とか言ってました。それにしても、いぬがみさんって実業家だよね。
そんなことを思いつつ、今は放課後。私は進路指導室の前の廊下で待機中です。実は、ゆいちゃんと一緒に帰ろうとしたんだけど、ゆいちゃんは昨日の数学の小テストで壊滅的な点数を取ってしまったため、数学の先生からステキなプレゼント、もとい生徒指導室で追試をやっています。
「まだかなぁー」
追試はすぐ終わるから待っててと頼まれたから廊下で待っていました。でも、30分以上経っても中から出て来ません。先に帰ろうかなって思ったけど、最近はなかなか一緒に帰れない日が多かったから、今日はギリギリまで待つかと決めて廊下にいたら、バスケ部の顧問の先生に捕まりました。
「宮川、池の鯉にエサよろしくな」
「へ?」
「友達待ってる間暇だろ?だから、はい」
無理やり押し付けて、バスケ部の顧問の先生はさっさと体育館の方に行ってしまいました。廊下でぽっつーんの私に残された道は、池の鯉にエサをあげることしか残ってません。仕方なく残暑が残る外に出て池の鯉にエサをあげました。
「ん?」
鯉にエサをあげていて、少し気になったこと。確か前に、この池に人面魚がいたよね。でも、今はどこにも見当たりません。もしかして、成仏したのかな?いや、成仏は幽霊だけか。まぁ、人面魚の事は私には関係無いので放置しておきましょう。
「宮川ちゃん〜」
震えた声で名前を呼ばれて振り返ると、そこには両手にたくさんの分厚い資料集を抱えおぼつかない足取りで歩く、2年の漢文を担当している先生がいました。この先生は小柄で可愛い女の先生、歳はまだ20代前半で結婚してます。
「先生、持ちます!」
このまま、資料集を持たせていたら先生が資料集の重さで潰れてしまいそうなので、代わりに持ちます。自分から進んで先生の荷物を持つことは滅多にないよ。これが、他の先生だったら、見事にスルーしてたかも。
「宮川ちゃん、ありがとう」
可愛い!花が咲く様な笑顔で言われたら、誰だってうわーってなるよ。先生、最高です!先生の旦那さんはこんな素敵な笑顔を毎日、見られるだなんでいいなぁ。
「この資料集、どこまで持って行きますか?」
「図書室だよ」
「じゃぁ、持って行きますね」
「でも、私も持って行くよ」
「いえいえ、毎日、パシリやってますからこれくらいの事は簡単ですよ」
「そぉ?」
ここから図書室までは遠い、それなのに、こんな重い資料集を小柄な先生に持たせたままにするわけにはいかないので、ここは私が図書室まで運ぶことにしました。それに、ゆいちゃんはまだ時間が掛かりそうだからね。その間の暇つぶしも兼ねてさ。
「よいしょ」
先生と別れた後、私は図書室に向かいます。紅坂高校の図書室は、校舎とは別の場所にあって2階建てでとても広く大きい場所です。もう、図書室じゃなくて図書館と言ったらしっくりくるかな。
ウィーン
図書室の入り口、自動ドアが開いて中に入ります。もう、図書室じゃなくて図書館って呼ぼう。
「誰かいませんか」
大きな図書館に私の声が響きます。そして、カウンターに近づくと、いつもなら管理人さんがカウンターに必ずいるって先生から聞いたのに、今日に限っては誰もいませんし、図書館の中はいつもよりも静か、まるで別世界に来たみたい。
図書館の本は借りたら自分の手で返すのが基本。私はこの資料集を大きな図書館の元あった場所に返さないといけません。ですが、私は普段、図書館になかなか行かないので、自力でこの資料集がどこにあったのかを探すのは至難の技。でも、図書館にはカウンターの隣に検索機が置いてあるので、そこに資料集の名前を入れれば一発で返す場所が分かります。
「便利ー」
ポチポチ、ピピッ
あっ、この資料集があった場所は2階のFー6、端っこだね。あと少しで、この重い資料集とおさらばだ、よーし頑張るぞ。
「よっこらしょ」
女子高生が言う言葉じゃないよね。
* * *
重い資料集を持って着きましたFー6。だけど、ここで問題が発生。なんと、この資料集を返す場所は本棚の一番上。手を伸ばしても届かない、伸ばしたところで最上段まであと2段は残ってる。それでも!
「えい」
背伸びをして腕を伸ばしました。が、案の定、届きません次は、つま先立ち。これも失敗。何度繰り返しても届かないものは届かないらしいので、自力で本棚に返すことは諦めて、踏み台を使うことにしました。でも、辺りをくまなく見渡して踏み台を探しても踏み台はどこに見当たりません。これは身長が低い者への嫌がらせか?仕方が無い、ここは跳ぶか。
ピョン、ピョン、ピョン、ピョン…
私はウサギかっ!そして、最上段の本棚には届かないというね。あれですよ、うぅ、泣きたくなってきたぁ〜
「身長さえ…身長さえあれば……」
右手に分厚い資料集を持ったまま左手で本棚に手をついてしょげていました。もう、ここまま本をカウンターに置いて管理人さんにやってもらおうかなって考えていたその時。突然、右手に持っていた資料集がすっと誰かに抜かれました。
顔を上にあげると、そこには制服の上からでも分かるスラリとしたモデル体型の女子生徒。しかも、綺麗な白髪の2年の先輩が資料集を返してくれました。2年と分かったのは上履きです。
「それ、ちょうだい」
鈴の音が鳴るような澄んだ綺麗な声と白髪の美人な先輩に見とれてぼーとしてました。ん、ちょっと待てよ、あれ?この先輩、どこかで見たことある。身長が高くて凛とした表情、綺麗な白髪に赤が少し混じったような色の黒目。そして思い出したのは火ノ江神社の夏祭りの時の神楽。
「巫女さん!」
大声で言ってしまいました。すると、巫女さんの眉間にシワが寄ってしまいました。
「巫女さんじゃなくて、火ノ江 由紀子」
「火ノ江先輩、すいませんでした」
「わかったから、その資料集をちょうだい」
あっ、だからさっき『それ、ちょうだい』って言ってたのか。言葉の意味をようやく理解した私は、背の高い火ノ江先輩に資料集を返してもらいました。私が資料集を火ノ江先輩に渡して、火ノ江先輩が本棚に戻す作業がしばらく続き、あっという間に資料集は本棚に収まっだと思ったら、火ノ江先輩はすたすたと足早に1階に降りて行くではありませんか!
「火ノ江先輩!」
私は慌てて後を追い、階段の上から名前を呼ぶと、火ノ江先輩は振り返ってくれました。
「ありがとうございました」
「別に」
そう短く言って、火ノ江先輩は図書館から出て行ってしまいました。いやー、まさかあの巫女さんが紅坂高校の先輩だったとは驚きです。でも、あの白髪は地毛だったんだ。私は先生のパシリとして2年や3年のクラスに行ってるんだけど、今日、初めて火ノ江先輩に会った。普通ならクラスにあんな綺麗な白髪の先輩がいたらすぐ分かるのに、もしかして、偶然居合わせなかっただけなのかな?というか、その前に火ノ江先輩は図書館で何をしていたんだろう、気になる。今から先輩に聞くのは……無理か。
ここは諦めて、素直に生徒指導室の前に戻ろう。多分、今頃ゆいちゃんも数学の追試が終わっていることだと思うしね。それに、いつまでも階段の上で立ちっぱなしもあれだからさ。
私が階段を一歩降りようとした時、どこからともなく幾つもの桜の花びらが私の背後から流れるように降ってきました。今は秋、桜の季節は春、不思議に思いながら桜が流れて来た方向を見ると、そこには豪華な着物を着て火ノ江先輩と同じ白髪の髪に狐の耳、腰には尻尾が生えた見た目から妖狐と分かる妖怪が本棚の上にあぐらをかいて座っていました。
「久しいな、小娘よ」
火ノ江先輩と同様に、この妖狐も見たことがあります。この妖狐は夏祭りの時、社の上にいた火ノ江神社の土地神様だ!