表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/150

46・誘われました

「部活のこと考えてみてねー」


午前中に部活勧誘される事、計6回目


「宮川ちゃん、この資料を図書室に戻してくれるかな?」


午前中に先生の手伝いをする事、計8回目


後期に入ってから、部活勧誘をされることが多くなってきました。運動部ではバレー部や陸上部、文化部では美術部や書道部など他にもまだまだたくさんの部活の先輩や部長からお誘いを受けます。


そして、最近では私のクラスの担任を筆頭に他の先生達からも頼み事を任されるようになってきましたよ。その量の多さに、ゆいちゃんやあやのちゃん達に、助けてもらってるんだけど、本当に量が多すぎる。なんだ、私は先生達のパシリか!


「はぁ」

「お疲れ様です」


3年生の科学を教えている先生の頼み事を終えて、私は食堂にいるあやのちゃんが座っている前の席に腰を置いて、やっとお昼ご飯です。前期まではゆいちゃん、ほのかちゃん、めいちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていたけど、後期から運動部のほのかちゃんとゆいちゃんは、部活の仲間意識を高めるため部活の先輩達と一緒に食べるとの事で只今、食堂にいません。


ついでに、ゆいちゃんは今日返された数学のテストの点数が悲惨だったらしく、お昼休みに特別補習で今は多分、職員室の片隅で数学の先生とマンツーマンかな。


「先に食べてても良かったのに」

「えー、これくらいの時間なら待ってるよ」

「ありがとー」

「それに」

「ん?あっ!」


私がお弁当を開けた瞬間、あやのちゃんの箸が目にも留まらぬ速さで私のお弁当からレンコンのはさみ揚げを盗って美味しそうに食べてしまいました。


「うん、美味しい」

「そうだった。忘れてた」


夏休み明けだから忘れてた。そう言えば前期の時も、あやのちゃんにお昼ご飯のおかずを奪われてたんだ。しかも、最初の頃よりも素早さが格段に上がってる。


「毎日、冷凍食品を使わずに凄いね」

「昨日の夕飯をお弁当にしたりしてるから」

「節約するお母さんみたい」

「節約は大事だよ。速っ!」


今度は私のお弁当から、里芋のじゃこネギ和えがあやのちゃんの口の中へと消えていきました。


「良い奥さんになれるよ」

「その前に、私のお弁当が少なくなる」

「じゃぁ、代わりにこれどうぞ」


あやのちゃんから3つの小さい小箱をもらいました。中を開けると全てロールケーキのようです。1つ目は、抹茶を練り込んだ生地に生クリームと羊羹を包んだロールケーキ。2つ目は黒糖を練り込んだ生地にミカンやイチゴなどのフルーツが入ったロールケーキ。3つ目は変わり種で醤油を使ったロールケーキ。


「これは、まさか」


この3種のロールケーキは和菓子屋二階堂で月に一度しか出なくて、しかも数量限定の幻のロールケーキ。その名も『3種の和ロールセット』お値段は分かりません。


「小さい箱は1つ250円だよ。大きい箱は500円」

「あやのちゃん、鰻巻きもどうぞ」

「わーい」


和ロールは大変貴重な代物なので、お礼として昨日、大家さんから貰った鰻巻きをあやのちゃんにあげました。和菓子屋二階堂に数量限定の和ロールがある事は知っていたけど、1度もお目に掛かることはなくて今、初めて見るよ。


「ごちそうさまでした」

「えっ、もうなくなったの!」

「美味しかった。でもこの和ロールって数量限定だから持って来るのはダメなんじゃないの?」

「それ、私が作った試作品だから持ってきても大丈夫なんだ」

「あやのちゃんが!」


どうやら、あやのちゃんは和菓子屋二階堂を継ぐらしく、店主の千代さん、もとい、あやのちゃんのおばあちゃんから作り方を教えてもらったらしい。


「作り方は企業秘密ね」


作り方を教えてほしいけど、企業秘密なら無理かぁ。お菓子作りに関しては私の中であやのちゃんが1番。あ、お菓子といえば。


「お菓子なら今日たくさん貰ったよ」


私はポケットやお弁当を入れていた袋から、色とりどりのお菓子をテーブルの上に置きました。


「こんなにたくさん、どうしたの?」


実は、先生の頼み事で2年生や3年生のクラスに資料やプリントを配りに行くと、先輩からお菓子やアイスを貰ったりします。ついでに部活勧誘もね。


〜プチ回想〜


2ー5にて、ゆいちゃんと一緒に数学のプリントを渡しに行った時


「失礼します」

「宮川ちゃんと村瀬ちゃん。おつかれー」

「グミあげる」

「いえいえっ!」

「いいから貰いなさいな」

「「ありがとうございます」」

「ポッキーもいる?」


2ー4にて、国語辞典を置きに行った時


「あっ、宮川ちゃん!」

「国語辞典を置きに来ました」

「ちっさい、可愛い」


ち、ちっさいだと……


「アイスあげる、はい、あーん」

「あーん」

「かわええわぁ〜」

「写メ、写メ!」

「アイスありがとうございました!し、失礼します!」


アイスはありがたかったけど、これ以上、ここにいたら大変だ。早く脱出しないと。


3ー5にて、進路の資料を置きに行った時


「宮川!お前、部活無所属だよな」

「はい」

「サッカー部のマネージャーやってくれねぇか?」

「いえ、私は」

「それなら、陸上部のマネージャーは」

「家庭科部も良いよ!」

「演劇部はどうかな」

「美術部に興味ない?」

「宮川ちゃんには茶道部が似合うよ」

「ライフル射撃部に」


ライフル射撃部⁉︎そんな部活が、この学校にあったのか、初めて知ったよ。


「女子バレーで良い汗を流そうよ」

「男子バレー部のマネージャーもありだよな」


3年生の部活勧誘が怖くて逃げました。


〜プチ回想終わり〜


そして、私はあやのちゃんに詳しくお菓子の件や部活勧誘について話しました。


「マネージャーにならないかって誘いが多いけど。特に、家庭科部の人達が毎日、部活勧誘してくるんだ」

「だって、もえかちゃんは料理もお菓子作りも上手いしさ。それに、家庭科部は、お菓子のコンクールがあるから。お菓子作りが得意で、尚且(なおか)つ無所属のもえかちゃんを狙ってるんだ」


今更、無所属なのことを後悔しても遅いか。でも、私は部活よりもバイトの方が忙しいから部活に入ることは出来ないな。


「お菓子作りならあやのちゃんが1番だよ」

「私、家庭科部に入ってるよ」

「そうだった」

「ぜひ、家庭科部に来て」

「ここにも、部活勧誘がいた」

「さっき、和ロールあげたよね?」

「でも、お礼に鰻巻きをあげたからチャラね」

「しまった」


だから、和ロールを作って持って来たのか。まさか部活勧誘のためにここまでするとは、あやのちゃん侮れない。そもそも、他にも無所属の人はたくさんいるのに、ゆいちゃんとかさ。なんで私にだけ、こうも部活勧誘がくるのかな。


「そう言えば。先生達の間でも、もえかちゃんは人気だよ」

「パシリだからかな?」

「違うよ。礼儀正しくて、先生達の仕事を手伝ってくれる良い人って部活の顧問が言ってたよ」

「それって、結局パシリだよね」


あやのちゃんに笑って誤魔化されました。


「宮川 萌香」


後ろから大声で、しかもフルネームで呼ばれて振り返ると、そこには3年生の身長が高く、威圧感がだだ漏れの男子生徒がこちらへ歩いて来ました。なぜ、見ただけで3年生と分かるのかと言うと、それは上履きです。1年生は白い上履きに赤い線が1本。2年生は赤い線が2本、3年生は赤い線が3本と増えていき、そこを見れば一発で分かりますよ。


「今日の放課後、少し時間あるか?」


いつもは、我楽多屋に直行しているんだけど、少しなら時間はあるかな。


「はい少しならあります」

「それなら、バスケ部の部室は分かるか?」

「分かります」

「今日の放課後帰りのSHR(ショートホームルーム)が終わったらバスケ部の部室に来てくれ」

「はい、分かりました」


そう言って3年生の先輩は帰ってしまいました。バスケ部って言ってたからバスケ部の人かな。教室に戻ったら委員長にバスケ部の誰なのかを聞いてみよう。


「あの人、バスケ部の部長だね」


委員長に聞く前にあやのちゃんが教えてくれました。そうか、だから威圧感がだだ漏れだったんだ。少し、怖かったな。


「わざわざ、部室まで来いって。ここでは言えない話なのかな?」

「言えない話ねぇー」


あやのちゃんは、テーブルに出したチョコレートを食べながら薄く微笑んでいました。まるで、我が子を可愛がるような表情です。


キーンコーンカーンコーン


お昼が終わるチャイムが鳴りました。


「ごちそう様でした」

「食べるの早いね」


いつの間にかテーブルにあった大量のお菓子は消えて、代わりにあやのちゃんの手にはお菓子のゴミが握られていました。



* * *



帰りのSHR(ショートホームルーム)が終わり、私はバスケ部の部室に向かいます。本当は一人は心細いから、ゆいちゃんを道連れにして行きたかったけど、放課後に数学の特別補習があるから、ダメだと言われました。あやのちゃんやほのかちゃんやめいちゃん達は部活があるので、誘えない。

と言うことで、一人で来ましたバスケ部の部室。

コンコンッ


「失礼します」


中に入ると、そこには体操服に着替えてる知らない3年生の先輩がいました。この先輩、昼休みに来た先輩じゃない!それに、着替え中なので、バスケ部の練習で鍛え抜かれた上半身を見てしまい、目のやり場に困りました。


「失礼しましたっ!」

「あっ。待って、待って」


目のやり場に困った挙句、ここから逃げ出そうと、ドアを閉めようとしたら、3年生の先輩に捕まってしまい、中に入らされました。先輩、まずは上の服を着て下さい、目のやり場に困るんですよ。私は筋肉フェチではないので、見ても何とも思いませんが、それでも、やっぱり目のやり場に困ります。だからお願いです。服を着て下さい!


「部長が来るまで、そこの椅子に座ってなよ」

「はい」


私の願いは虚しくも3年生の先輩には届きません。まだ、上半身裸でバスケ部の部室をうろうろと浮幽霊のように彷徨(さまよ)ってます。先輩、手に体操服を持っているんだからさ、お願いだから着替えてよ。私はどこを見れば良いのか分からなくて、窓の外を眺めることにしました。ここに窓があって良かった。無かったら目を(つぶ)って寝たふりをしようかなって考えたよ。


「宮川 萌香、宮川ちゃんで良い?クラスの奴らも、先生もそう呼んでるし」

「はい」

「あー、そんな硬くならないで、もっとフランクにさ」


フランクにと言われたものの、上半身裸の人を見ながら話すのは緊張しますよ。だから、硬くなってしまうのです。それから少し、この先輩と話しましたが、彼はバスケ部の副部長らしい。


「部長が来るまでちょっと待っててな。あいつ、今日補習があること忘れてたみたいでさ。多分、来るのは20分後かな」

「その間の部活は良いんですか?」

「いーよ。部活が始まるのはまだ後だから」


昼間に来た先輩は部長だったんだ。そう思いながら、今だに服を着ない副部長を観察していると、どこのなく我楽多屋の蓮さんと似ている様な気がします。あっ、そうか、分かったぞ。この2人に共通している事は糸目だからか。それと、副部長も蓮さんと同じく和服が似合うオーラーを放っています。


「オレ、3ー3にいるんだけど今日も2限目の後に来てくれたよね」

とか

「先輩はいつからバスケを始めたのですか?」

「小5からだよ。あの時はね〜」


などのことを話していました。副部長は蓮さんに似ているせいか、親しみやすく、それに、トーク術が上手かったです。

その時、ドアが勢い良く開かれ部屋に入って来たのは昼間に来た部長です。


「遅れてすまんっ!」

「それじゃぁ、後はごゆっくり」


副部長は部長が来た途端、服を着てそのに出て行ってしまいました。えっ!今、服を着るの遅くない。言いたかったけど、先輩なので言えませんでした。そして、現在部屋には私と部長がお互いに向き合ったままです。


「宮川 萌香」

「はい」

「単刀直入に言う」

「はい」


何と言われるか予想が出来なくて怖いです。


「バスケ部のマネージャーになってくれっ!」

「はい?」


土下座しそうになる部長を止めながら、私は部活が出来ない理由を伝えました。


「私はバイトをしていて部活をする時間がないのです」

「そこをなんとか!」


えー!

その時、大きな音と共にバスケ部の部室のドアが大きく開かれました。太陽の関係で逆光となって黒い人影しか見えませんでしたが、声と人の多さでその人影の正体が分かりました。


「バスケ部、抜け駆け禁止!」

「宮川ちゃんはサッカー部のマネージャーになる予定だからな」

「違う、美術部だよ」

「水泳部に来て」

「演劇部はどうですかー」

「いいえ、宮川ちゃんは家庭科部!」


各部の部長がバスケ部の部室に集まって、私とバスケ部の部長を囲みました。誰かヘルプミー。


「宮川さん⁉︎」


各部の部長達の喧騒の目に入って来たのは、委員長と、委員長の友達の水戸部さん、この2人は同じ部活なんだよね。とりあえず、助かった。


私は小柄な体型を生かして、各部の部長達の隙間をすり抜け、委員長の元へと素早く移動。


「委員長、ヘルプ!」

「あっ、逃がすな」


私は獲物か!

ツッコミたかったけど、各部の部長達の目が獲物を狩る時の目みたいで怖くなった。


「こっち」

「うん」


状況を察してくれた委員長は私の手を引いて部室から走りました。後ろを振り返ると、まだ部長達が追っかけてきます。それから、何度も曲がり角を使ったり階段を使ったりして、やっと部長達から逃れることに成功。でも、委員長には迷惑をかけてしまったな。


「ここなら、大丈夫」


辿り着いた先は屋上。

ちょうど、風が吹いて火照った体を冷やすのは最適だね。


「委員長、巻き込んでごめんね」

「大丈夫だよ。それより宮川さん、あれだけ走って平気だった?」

「走ることは慣れてるから大丈夫だよ。

それにしても、委員長は息切れないんだね」

「切れてるよ?」

「嘘だぁー。汗の一つもかいてないじゃん」

「日頃の練習のおかげかな」


私は息切れ切れになりながらも、日陰になっているところを探して座りました。


「この頃、宮川さんって部活勧誘される事が多くなってきたよね」

「うん、それに先生達のパシリもね。委員長には手伝ってもらってるけど、嫌だったら言ってね」

「嫌な訳ないだろ?」


委員長の爽やか笑顔に癒されました。なんだか心が洗われる感じがするなぁ、大げさな表現だけどね。それでも、これからもあの部活勧誘が続くかと思うと先がやられます。はぁどうしよう、その前に疲れたよ。


「ねぇ、宮川さん」

「はい?」

「宮川さんの都合で良いからさ。空いてる日があったら遊びに行かない?」


突然のお誘いに驚きました、そして私は即答で。


「行きたい!」

「じゃぁ、空いてる日があったら教えて」

「了解です」


誘ってくれた委員長に感謝せねば。


「じゃぁ、もうそろそろ屋上から出ようか」

「でも、まだ部長達がいたら」

「それは大丈夫」


委員長はフェンスに近寄るとバスケ部の部長がある方を指差しました。すると、そこには、各部の部長達が散り散りに自分達の部室へ戻って行くではありませんか。


「今のうちだよ」

「委員長、本当にありがとうございます」


屋上から安心して出て行ったら、ちょうど廊下で家庭科部の部長に出会ってしまい、結局、私と委員長は、またも逃げる羽目になってしまいました。


委員長、ごめんね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ