45・自覚した気持ち
宮川さんから電話があって驚いた。一応、電話番号は交換してあったけど、ほとんどメールでしかやり取りをしたことがなくて。なぜか電話を出ることだけなのに緊張してしまった。
『もしもし、委員長。夜遅くにゴメンね』
「ん？良いよ。どうしたの？」
声が裏返らないように気を付けながら話す。普段話すよりも電話の方が気を遣うのはなぜだろう。そう思いながら電話に出ると、話の内容は姉さんについてだった。
それから、電話から漏れる宮川さんの声を聞きつけた姉さんが僕の携帯を取り上げ、話し始めた。もちろん取り返そうとしたけど、宮川さんとの会話の間に素早く「女同士の話には首を突っ込むな。分かったら自分の部屋にも戻れ」と言われ、強制的に自分の部屋に押し込まれてしまった。
姉さんに、電話を取られることはよくあることなのに、なぜかいつもよりイラつく自分がいて。不思議に思いながらも部屋から出ていき、リビングで姉さんが使っていた僕の携帯を取り戻して宮川さんと話すことが出来た。
「宮川さんっ！ゴメン姉さんが変なこと言わなかった？ 」
またも、姉さんが僕の携帯を取り上げようとしたけど、今度は絶対に取られたくなくて、その前に自分の部屋に避難してなんとか逃れられた。
『ううん、なんにも』
「本当？」
『強いて言えば、委員長の事をどう思ってるのって聞かれたかな』
「僕のこと？」
姉さんが僕の事について宮川さんに聞いたんだ。なんて答えたんだろう、すごく気になる。
『友達って答えたから変な答え方はしてないからね。安心して』
「友達」確かに、僕と宮川さんは友達だ。それに宮川さんらしい答えだな。友達……友達かぁ
「そうだね。ありがとう」
なんで、ありがとうって言ったんだ？そりゃまぁ、変な事を言ったわけではないし、友達に友達って言われて嫌な気分にはなっていないけれど、なぜか、釈然としない感じになってしまった。なんだろう、このもやもやとした感じは。
「それじゃぁ、お休み」
『お休み』
電話を切ってため息。
「ご主人様どうかなされましたか？」
キィか、いつの間に僕の部屋にいたんだろう。
ちょっと聞いてみようかな、
「あのさ、友達に『友達』って言われたら普通は嬉しいだろ？」
「えぇ、確かに」
「でも、そう言われてなんとも思えない気持ちになるのは、どういうことなのかな。って思ってさ」
「ご主人様はその、お友達さんのことが嫌いなのですか？」
「それは違うよ！」
即答で言ってしまった。キィは口に人差し指を当ててしばらく考え込む。
「ご主人様、それは今の電話の相手のことを言っていますか？」
「うん」
「お友達さんは、男性ですか？」
「女の子だけど」
「成る程、分かりました、そうですか、そうですか」
「何が分かったの？」
キィは親指を立てて微笑みながら答えた。
「それは、私が言ってはダメな事です。
ですが、少しアドバイスをします。ご主人様、もう少し深くよーく、お友達さんの事を考えてみてはどうですか？」
「深く」
「はい！それでは失礼します」
そう言って、キィはそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「深くかぁ」
僕はドアを背もたれにして座り、宮川さんと始めて話した頃まで思い出した。
始めて話したのは保健室で、印象的だったからはっきりと覚えている。
それから何度も話す機会があって
次第に敬語がなくなってきたのは嬉しかったな。
あとは、体育館の前で話して同じことを考えてた事には驚いた。
ショッピングモールで出会ったり
いぬがみさんを助けた時には相談したり
夏祭りでは偶然にも鳥居で会って、はぐれないように手を繋いで歩いたな。あの時は自分に向けられた笑顔に顔が赤くなって、自分が自分じゃないみたいだった。
あぁ、そうか、そう言うことだったのか。
「ははっ」
僕、宮川さんの事が好きなのか。
うわっ、自覚した途端に頭がクラクラする。
「どうしよう」
明日、いつも通りに話せるかな。
＊ ＊ ＊
次の日
宮川さんに自分の名字について聞かれたけど、「違うよ」と短く答えてしまった。しまった、やらかした。ダメだな、意識したら上手く話せないや。
今日1日、大丈夫かな。
