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37・再びメリーコール

今日は金曜日、そう言えば、ついさっき鬼さんがタッパーに今日の夕飯に作ったナスの煮浸しを詰め込んでいたな。あれは、飲み屋で食べるのかな?というか、持ち込み良かったんだ。そんなことを思いつつ、今日も私はメリーさんと通話するのです。


メリーさんと話していて分かったことだけど、いぬがみコーポレーションって、やっぱり、鬼さんと飲み仲間のいぬがみさんが関わっている会社らしい、しかも、部署は1から130まであって、いぬがみさんはそこの総帥(そうすい)にも匹敵するくらいの権利を持っているみたい。人は見た目によらず?いや、妖怪は見た目によらずって事かな。


『私、昔は歌手を目指してて』

「おおっ!」


まさかの、カミングアウトです。メリーさんが歌手を目指していただなんて、驚き。それに妖怪の世界でも歌手がある事にも驚きです。へぇ、メリーさんが歌手ねぇ、確かにメリーさんのクリアボイスともう少し声量を持ってすれば、大ヒット間違えなしですよ。


「でも、今はいぬがみコーポレーションに勤めてみえますよね。歌手の道は諦めたんですか?」

『うん。やっぱり歌手は売れるか売れないかの世界だし、歌手業で生活が成り立っていくのが難しいでしょ』

「確かに」

『でも、未だに諦めきれなくてね』

「なら、やってみてはどうですか?」


メリーさんが黙ってしまいました。それから、しばらくするとメリーさんのため息が聞こえてきました。


『やりたいけど、今の仕事を手放したく無いし、それに中国から来た新人の子もいるし。今、この忙しい時期の会社を辞めたらみんなに迷惑掛けちゃう』


これも、メリーさんと通話していて、分かった事なんだけど、どうやら、メリーさんの部署に中国から来た新人の女の子が入ったみたい。その子に仕事のイロハを教えたり、仲良くやっているみたい。しかも、今、いぬがみコーポレーションでは観光業にも手を伸ばしたらしい。メリーさんが所属する28部署は観光業の窓口となっているらしく、お客様の宿泊先とかプランを練ったりと忙しいとの事。


「それなら、仕事と歌手活動を掛け持ちすれば、良いんじゃないかと思います」

『そんなのは無理よ!』


無理?


「決め付けるのは、やってからにしなさい!そもそも、無理って言っている時点で無理ですよ?本気なら、たとえ掛け持ちだろうが、何だろうか、やってのけるはずですっ!」

『でも』

「未だに未練が残っているのならやるべきですよ!今、タイミングを逃したらもう2度とないかも」

『うぅ』


電話越しにすすり泣きが聞こえてきました。あっ、どうしよう。泣かせちゃった、言い過ぎたかな?でも、迷っているなら立ち止まらずに進むべきなのは確かだよね。


『やっ…で……みる』

「その意気です!」


それから、少しメリーさんが落ち着くのを待って通話を再開。もう、メリーさんは泣いていません。


「まずは、路上ライブから始めてみてはどうですか?メリーさんはギターとか楽器もできるんですよね」

『うん。小さい頃、紫ババアから教えてもらったからね。それに、まだギターあるよ』

「あとは、声量を大きくすれば完璧」

『声量はスクールにでも通ってみようかな』

「その方が良いですね」


メリーさんの声が明るく朗らかになって来ました。


「こうなったら、善は急げです!」

『やってやるわよー』

「メリーさんなら出来ます。私、応援していますからね。相談事とかあったらいつでも、あっ。金曜日の夜10からでお願いします」

『ふふっ、萌香ありがとう』


こうして、メリーさんとの通話は終わりました。そして、私は誰もいない部屋で1人天井を見上げながら大きく息を吐くのです。


「メリーさん、ファイト」


私の声は部屋に木霊するように響きます。この前までのメリーさんのお話は愚痴とネガティブ思考だったのに、中国から来た新人の女の子が入ってきてからは明るい話題が多くなりました。その中国から来た新人の女の子に感謝です。



それから私は、簡易テーブルに伏せて、ある事に気が付きました。私って矛盾しているよね。この部屋に来る前までは、もう妖怪とか関わりたくないって決めていたのに、気が付いたら、鬼さん、化けタヌキにカッパやメリーさん、ククリちゃん、油赤子のあーちゃん、泥田坊、土地神様、ドラゴンと関わっているからさ。本当、矛盾しているよね。


「眠い」


今はとりあえず、矛盾がどうのこうのよりも眠いです。明日はバイトが休みだけど、夏休みの宿題がまだ残っているから終わらせたいんだよね。明日のためにも今日はもう、寝よう。


私は、眠さに勝てず、ベッドへ滑り込みました。

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