36・鬼とタヌキとカッパの飲み会 ②
今回はいぬがみ&カッパ&ソウキ(鬼さん)
が飲んで駄弁っているだけのお話です。
注)会話文が多め
現在、金曜日の夜11時を少し過ぎた頃。
ここは、人ならざる者が集うネオン街の片隅、そこにある『遊楽亭』という居酒屋。そこで203号室に住む鬼のソウキ、命の恩人を捜して旅をしていたカッパの順にウンターで飲んでいると、いぬがみが遅れてやって来た。
「悪りぃ、遅れたな。ってお前カッパ?おいっ!ソウキ。お前のその角はどうした⁉︎」
いぬがみが驚くのも無理はない、なぜならば、カッパの体の色は薄緑色ではなく太陽に焼け茶褐色となっていたからだ。それに、ソウキの角にはぐるぐると包帯が巻いてあった。
「愛萌しのあの香子ににやら会れたえないッス」
「同時に話すな、バカ。ややこしい、とりあえず、ソウキから話せ」
「萌香にやられた」
「は?」
ソウキはいぬがみに、ここに来る前のことを話した。どうやら、203号室に住む萌香がホラー番組を見ようとしたらしい。当然、ホラーが苦手なソウキは咄嗟にテレビに妖気を当て砂画像にしたが、その瞬間、萌香がテレビのリモコンを角に当てようとしたが、ソウキは、それを躱した。しかし、躱したと安心していると、まさかの2発目が来て、驚いているうちに当たってしまったらしい。
「もうそれ、お前のこと視えてるんじゃねぇか?」
「でも、『虫が〜』とか言ってた」
「あっそ。で、お前はどうした」
いぬがみは次にカッパへと話を振る
「愛しのあの子に会えないッス」
「まだ、会えていないのか!」
「ハワイにいた妖精は火ノ江町にいるって言ってたッスけど」
「お前、ハワイまで行ったのか⁉︎」」
「そうッスけど、見つからなかったッス」
「ハワイまで、行ったからカッパの皮膚が真っ黒に焼けたんだね」
「ソウキ、お前はちょっと黙れ」
いぬがみは手を顎のしたに持っていきしばらく考える。考える事数秒。
「俺も探すの手伝うぞ」
「それは、ダメッス!」
カッパは突然、立ち上がり大声で叫んだ。その声に、遊楽亭にいた客の視線が集まる。
「自分で捜してこそじゃないッスか!」
「人の力に頼らずってことか」
「それに、誰かに捜してもらって再会?そんなのはロマンチックじゃないッス!」
「ブッ」
「ソウキさん、笑うなッス!」
「カッパがロマンチックとかないわー。乙女かよ」
「というか、嫁は決定なんだな」
いぬがみはソウキの左隣に座り、店主の手長に焼酎とナスの煮浸しを頼んだ。
「あっ、いぬがみ。これ食ってみろ」
「なんだそれ。ナスの煮浸しか」
ソウキが手提げ袋から取り出したのは、タッパーに入ったナスの煮浸しだった。
「萌香が、作ってくれたのを持って来たんだ」
「いや、今、頼んだし」
「ここで作った物よりも美味いんだよ」
ずいっと、タッパーに入ったナスの煮浸しをいぬがみに押し付ける。ここで食べないと、自分が食べるまで引かないだろうと判断したいぬがみは、箸を取り出して、1つ食べる。
「あっ、美味いな」
「だろ?」
「ワシも欲しいッス!」
「いーよ」
「おお、またここの店とは違う味ッスね。美味いッス、もう1つもらっても良いッスか?」
「くれ」
突然、ソウキが持つナスの煮浸しが入ったタッパーに店主の手長の長い手が入り、ナスの煮浸しを1つ2つと持っていった。
「ちっ!」
店主の手長が萌香が作ったナスの煮浸しを食べた瞬間、舌打ちをする。そして、また普段と変わらない仏頂面で注文された物を作っていくのだった。
「舌打ちする程、美味かったって事だな」
「店主が認めたッスね」
萌香のことを褒められて、自分が褒められたかのように喜ぶソウキ。
「それと、お土産ッス」
「これは」
「チョコとジャム?」
「マカデミアナッツチョコと、3種のハワイアンハニーッス」
「お前、命の恩人を探すよりも観光を楽しんでいたんじゃないのか?」
「そんな事はないッスょ……多分」
多分という言葉を聞いた瞬間、ため息をつくいぬがみ、一方、ソウキはマカデミアナッツを食べていた。
「なんだか、今日は海外から来た客が多いね」
「そうッスね。デュラハンにドワーフ、イフリート、ケンタウロス。まだ他にもッスよ」
「多分それは」
いぬがみがカバンの中から取り出したのは、1枚のパンフレットそのタイトルには『夏だよ!サマーだよ!さぁ、君も日本に遊びに行こうよ』と大きく文字が書いてあった。そして裏にはいぬがみコーポレーションと書いてある。
「観光業ッスね」
「あれ、いぬがみって電化製品を作っているんじゃなかった?」
「今の時代はな、電化製品だけじゃ、乗り越えられねぇんだよ。だから、新しく旅行業を始めてみた」
「九州プラン、京都プラン、北海道プラン、沖縄プランまだまだ他にもたくさんあるとッスね。って、アニメプラン?」
「その、アニメプランは28部署のいる中国から来た妖怪が提案したプランなんだ」
「確か、いぬがみコーポレーションって1から130までの部署なあるんだよね」
「あぁ、そうだ」
「へぇ、面白そうなプランばかりッスね」
「これがまた人気でな」
どうやら、旅行業は順調なようだ。
「いつか、萌香と海外旅行に行ってみたいな」
「というか、お前は金曜日以外に出れねぇんだし、その子がお前を視えないことには無理だろ」
「それくらい知ってるよ。でも、少しはそんなこと考えても良いだろ⁉︎」
ソウキといぬがみが言い争っている中、カッパは優雅に梅酒を飲んでいた。
こうして、鬼とタヌキと河童の飲み会は幕を閉じた。




