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22・水と油

時刻は午後3時30くらい。只今、バイト中。お客様は3人の奥様だけです、楽しそうなお喋りしてますね。

それにしても、我楽多屋の中はクーラーが効いていて過ごしやすいです。クーラーは良いですよね、クーラーは便利ですよね、クーラーは涼しい、クーラー、クーラー。


「クーラー!」

「うわっ!おねぇちゃん、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ。ごめんね、突然、大声出しちゃって。びっくりしたよね」


私の大声で膝の上に座っていたククリちゃんが、驚いて落ちそうになってしまいました。危ない、危ない。こんな可愛い子に怪我でもさせた日には私はショックのあまり、倒れてしまいそうです。ククリちゃん、ごめんね。


「はぁ」


鬼さんが妖気でクーラーを壊してからというもの、私と鬼さんは、毎日クーラーなしであの暑い熱帯夜を過ごしているのです。本当はクーラーを修理に出したいけど、バイトで貯めたお金じゃぁ足りないし、かと言って親に頼むのは嫌だ。金銭的に親に負担は掛けたくないからね。と言うことで修理に出していません。


「息子がね、この前、どうしてもプールに行きたいって言うから、お庭プールで遊んだの」

「へぇ、お庭プールも良いわね」

「庭でなら、簡単だし便利よ」

「今度、みんなで遊びましょうか」


お客様の会話を聞いているとプールに入りたくなってきました。プールだなんて、中学校の体育の授業以来やってません。懐かしいな。でも、水着って体のラインがあからさまに浮き出るから嫌なんだけどね。私の、つるぺたがバレバレになってしまいます。


「この前、ククリも蓮と一緒にお庭プールしたよ」

「お、涼しそうだね」

「うん、楽しかったぁ。あっ、そうだ」


ククリちゃんが私の膝の上から飛び降りて商品を整理していた蓮さんへと走り出しました。何やら相談事をしています。


「蓮っ!まだ、お庭にプールあったよね」

「片付けてはいないから、あるよ」

「ククリ、お庭プールしたい!」

「いいよ。でも、僕は仕事中だし」


蓮さんが私の方を見ました。これは、なんとなく予想が付きます。えぇ、いいですよ。答えはもう決まってます。


「萌香ちゃん、すまないけど、ククリを庭のプールで遊ばせてくれるかな?仕事の方は僕がやるから」

「もちろんです!ククリちゃん、行こう」

「うん」


可愛いククリちゃんと手を繋いで、プールがある、我楽多屋の裏、もとい蓮さんのお宅にお邪魔します。




* * *



ククリちゃんが水着に着替えている間、私は庭の水道から水を出してプールいっぱいにしていました。

ジャババババ

おー、どんどんプールに水が増えていく。


「おねぇちゃん、お待たせ」

「ククリちゃん可愛いねってあれ?その子は?」


ピンク色の子供用の水着を着たククリちゃんの隣には、黄色でククリちゃんと同じ水着を着た、無表情で知らない女の子がいました。病的に白い肌で真っ黒な目と短い髪。身長はククリちゃんよりも少し小さいかな。それに、多分、この子も人じゃないね。


「ククリの友達あーちゃん。プールで遊ぶから呼んできたの、あーちゃんも入れてもいいかな?」

「もちろん、私は宮川 萌香。よろしくね、あーちゃん」


あーちゃんはコクリと頷いて、私の言葉に反応してくれた。ククリちゃんも可愛いけど、あーちゃんも可愛いな。目は何も映さない真っ黒で少し不気味だけど、そこが良いのかな。


「みずでっぽーう!」

「やー」


小さい子供用プールで2人はキャッキャッと笑いながら遊んでいます。あー、なんだか癒されるわ、それに少し水が掛かって涼しいな。


「それっ」


私はホースで2人の上から水を掛けました。


「雨だー」

「雨だー」


可愛いわぁ。キラキラ眩しい、これは写真に収めたい。あーでも今はカメラなかったんだ、残念。でも、こんな炎天下の中て遊んでたら熱中症になるよね。妖怪は熱中症になるかどうか分からないけど、とにかく水分補給は大切だから、何か飲み物を取ってこよう。


「私、飲み物持ってくるから、ちょっと待ってて」

「ククリはオレンジジュース」

「私、油」

「うん、オレンジジュースと油だね。分かったよ」


よし、オレンジジュースと油。……油?


「ククリちゃん、油って」

「油は台所にあるよ?」

「えっと、うん、持って、くる」


ククリちゃんの笑顔とあーちゃんの無表情で何も言えなかったけど、えっ、油⁉︎油を持ってきても良いの?でも、あーちゃんが油って言ってるし、考える前に持っていこう。


台所に着くと戸棚の中に新品のサラダ油がありました。あの大きい入れ物に1kg入った、あのサラダ油。本当に持って行っても良いのかな。というか、油を何に使うの?プールに入れたり、まさかそんなことはないか。よくわからないから、一応、オレンジジュース2杯は持っていこう。もしかしたら、飲むかもしれないからね。


「お待たせ、持ってきたよ」

「おねぇちゃん、ありがとう」

「ありがとう」


オレンジジュース2杯とサラダ油の容器を乗せたお盆をククリちゃんとあーちゃんの目の前に差し出しました。もちろん、ククリちゃんはオレンジジュースを飲みます。


そして、あーちゃんは重そうなサラダ油の容器を両手で持って、蓋を開け、まるで、お風呂上がりに一杯牛乳を飲むようにゴクゴクと喉を鳴らしながら勢い良く飲み始めました。


「あっ、あーちゃん?何を」

「ぷはっ!」


一気飲みです。容器に1kg入ったあのサラダ油を一気に飲みました。驚きのあまり口が閉まりません。


「ククリちゃん、あーちゃんは一体何者なの?」

「んー?あーちゃんは油赤子(あぶらあかご)っていう妖怪だよ」


油赤子だからあーちゃんか、成る程ね。じゃなくて!油赤子って、初めて聞く名前。名前に油が入っているから油を飲む妖怪なのかな?


「ごま油、飲みたい」

「えっ」

「ごま油なら、台所にあるよ。ククリもオレンジジュースおかわり」


1kg入ったサラダ油の容器を空にしたあーちゃんと、2杯のオレンジジュースを飲んだククリちゃんが、お代わりを申しています。サラダ油の次はごま油ですか。驚いて思考が止まってしまいました。油を飲むのは良いけど、いざ、目の前で飲まれると驚きます。


「おねぇちゃん?」

「おぉ、ごめんね。今取ってくるから」


私は猛ダッシュで台所に行きました。なんだか今の気分は、ヒナにエサを持ってくる親鳥の気分です。





* * *





夕暮れまで遊んだククリちゃんとあーちゃんは今、蓮さんのお宅の居間で寝ています。一方私は子供用プールの片付けたり、2人の水着を干したりと家事的な事をやっています。


くいくい、後ろから服の端を引っ張られました。誰かなと思って振り返ると、そこには寝ているはずのあーちゃんが真っ黒な目で、私を見上げていました。


「あっ、起きたんだね」

「おねぇちゃん、今日はありがと」

「いえいえ、楽しめたかな?」


コクリと頷きました。やっぱり小さい子は可愛いな。


「おねぇちゃんは鬼女(きじょ)?」


突然すぎて、また思考が停止中。鬼女って、鬼に女って書くあれ。いや、その前になんで今ここで鬼女だなんて言う単語が出てくるの?はっ、まさか私が鬼に見えたとか。


「おねぇちゃんから鬼の匂いがする」

「匂い」


自分を匂っても、何も匂いません。ただ、汗臭いだけです。鬼の匂いって、あっ、心当たりあるかも。


「おねぇちゃんは人間?それとも鬼女?」


私は正真正銘の人間だから、多分あーちゃんが言う匂いは、私の部屋に住む鬼さんの匂いだと思う。もしかして、鬼さんの匂いが移ったのかな?うわー、考えたくないな。


「私は、人間だよ」

「でも、匂いがする」

「私はね、昔、幽鬼に襲われたことがあるの。多分その時の匂いがまだ、残っているのかな」


今、住んでいる部屋に鬼さんがいるの。だなんて言えないし、それに幽鬼に襲われた話は嘘じゃないから、あーちゃんを騙してはいない。


「これ、あげる」


あーちゃんの小さな手から受け取ったのは、これまた、綺麗な小瓶。中には何やら液体が入っています。


「これは何?」

「美味しい油。今日、遊んでくれたお礼」

「いいの⁉︎」


無表情で頷くあーちゃんは、どこか嬉しそうな様子でした。この短時間で微妙な表情の変化に気付ける私って凄くない!


「もう、帰る。ククリによろしくって伝えて」

「うん、分かったよ。また遊びに来てね」


手を振ったあーちゃんは足元からスウッと消えるように帰ってしまいました。あーちゃんから貰ったこの油、美味しいって言ってたよね。早速今日の晩御飯の天ぷらに使ってみようかな。


「萌香ちゃん、ククリの遊びに付き合ってくれてありがとう」

「ククリちゃんと油赤子のあーちゃんもいましたよ」

「ククリとあーちゃんは仲良しだからね」


居間から出てきた蓮さんは、服や頭にたくさんの(ほこり)が付いていました。一体、何をしていたんだろう。


「それと、萌香ちゃん聞いても良いかな?」

「なんですか?」

「台所にあった新しいサラダ油ってどこにあるか知らない?」

「水分補給代わりに、あーちゃんに渡してしまいました」

「もしかして、ごま油もかい」

「はい」

「そうだったのか、ないなら買ってこないといけないね。悪いけど、また、ククリのお世話頼めるかな?僕、油買ってくるから」

「いえ、それくらいなら私が行きます」

「えっ、いいのかい?」

「はい」


時間はもうすぐ6時30分、方向音痴な蓮さんのことだから、今から行くと帰ってくるは確実に遅くなってしまうので、私が行ってきます。


「頼んだよ」

「行ってきます」


まだ、明るい夕方を背に私はスーパーへと向かいました。

今回のお話に出てきた油赤子のあーちゃんは常に無表情です。



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