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21・泥の悲劇

「離してっ!」


現在、私は突然現れた複数の泥田坊に胸の下ぐらいまで、飲み込まれています。ものすごく怖い。だって、目が片方しかなくて、指は3本しかないし、まるで、ゾンビを泥バージョンにしたような感じ。


「飲み込むな」

「ぉ…じ……ろ」

「誰か、お坊さーん!」


なぜ、こんな状況になったかというと、それは数分前の出来事。




* * *




いつも通り我楽多屋のバイトが終わって、家に帰るため夏の薄明るい夜道を歩いていたところ、突然、アスファルトの地面から滲み出るように、たくさんの泥の塊が出てきました。しかも目と口付き。


「うわっ!気持ち悪っ」


ここで、私が反応したからダメだったのです。反応しず、そのまま通り過ぎれば、良かったものの、いつもの感覚で反応してしまったから、私が相手の事が視えるのだと気が付かれました。そして、泥の塊に付いている目が一斉に私の方を向き、じりじりと迫ってきたのです。


気付いた時にはもう手遅れ、ダッシュで逃げようと回れ右をしたけど、左足首を掴まれてしまい、そのまま地面とご対面。

ベッチッ!


「痛ったぁ〜」

「ま…………て……」

「えっ、ちょっと」


何この泥の塊、しかも動いてるし。思い出せ、思い出せ。この動く泥は確実に人じゃないよね。確か、知り合いのお坊さんから教えてもらった気がする。えーと…泥、ゾンビ、田んぼ、人型。あっ、思い出した、泥田坊だ!


でも、泥田坊って泥田にいるはずなのになんで、こんなアスファルトから出てきたの?おかしいよ、もしかして、現代を生きる泥田坊は進化したのか。


「かえ……せ」

「きゃっ!」


足元からじわじわとたくさんの泥田坊が這い上がってきます。それはまるで、私を飲み込むように。と言いますか飲み込まれてる!重い、動けない。



〜回想終わり〜


* * *



じわりじわり、とうとう首の辺りまで飲み込まれてしまいました。


「か…えせ」

「どこ・・だ」

「何をっ!」


さっきから、『かえせ』だの『どこだ』ばかり、一体この泥田坊は何を言いたいの?その前に、このままだと完全に飲み込まれる。どうしよう、ここは一つ賭けに出ますか。


「何を言いたいの」

「かえ…せ」

「ど・こだ」

「まずは主語を言いなさい!主語を!聞いてあげるから」

「ほ……んと…か」

「本当の本当、だからまずは私から離れて」


聞いてあげるからの単語に反応したか、泥田坊達は私から離れて行った。よかった、失敗したらどうしようかと思ってた。こういう時は相手の話を聞いてあげる代わりに自分の要求を飲んでもらうのが大切。

これは知り合いのお坊さんから教えてもらったのではなく16年間、生きた中で私が学んだこと。


それはさておき、泥田坊は私を飲み込むのは止めて、ゆっくりと離れてくれたのは良いのですが、泥田坊に飲み込まれていた部分、主に首から下は、泥に入ったように泥だらけ。まぁ、泥田坊ですから泥が付くのは当たり前か。


「は…なし…」

「約束したからね。話は聞くよ」

「あり・が・・と」


泥田坊の話によりますと、元々この泥田坊達は遠くの町にある泥田に住んでいました。ですが、つい最近、泥田坊達がいた泥田を潰して、その上に新しく住宅街が出来たそうです。当然、住処を失った泥田坊達は、新しい住処を求めて遠路はるばるここまで来た。それが、この火ノ江町に来た理由みたい。


で、なぜ私を飲み込もうとした理由は、どうやら、私が視える相手だと知って助けを求めたそうです。それにしても飲み込むのは止めて欲しかったな。あれは少し怖かったかも。


「住処ねぇ」


大量の泥田坊が熱意の目で私を見ています。さっきも、私に助けを求めたと言っていたので、これは、もう逃げられませんね。というか、ここで逃げたら寝覚めが悪くなりそう。


「泥田なら、ここから少し遠いけどあるよ」

「お…おお」

「案内してあげるから、着いて来て」

「ありが……とぉ」


と言う訳で、泥田坊を泥田に案内したのですが、その通り道で、すれ違った人々から私は変な目で見られました。それもそのはず、だって首から下は泥だらけですもん。そりゃぁ、何事かと思って見られますよ。あの視線は痛かった。


「大丈夫、どこか怪我をしたの?」

「いえ、ただ私がドジっ子で、田んぼに落ちてしまっただけです〜。ご心配を、おかけしてすいません」


道ゆく心優しいお婆様から心配されました。





* * *



「ついたよ」


私が連れて来たのは火ノ江町の東側にある大きな泥田、ここなら大量の泥田坊が全員入れますし、住宅街を作るというお話もありません。泥田坊にとって最適な場所。


泥田を確認するなり泥田坊は次々と、その泥田に入って行きました。


「おんじ……ん」

「私は恩人でもないよ。ただ、ここで見捨てたら寝覚めが悪くなると思って、泥田坊の新居探しに手伝っただけだよ」

「あ・りがと」


そうして、泥田坊達は静かに泥田の中へと消えて行きました。


「さて、帰りますか」






泥だらけの姿のまま家に帰り、部屋のドアを開けると、私のベッドに鬼さんがいて、私を方を見るなり固まってしまいました。


「修羅場⁉︎」


やっと開いた口から出たのはそれかい。

おい、どこからそんな単語が出て来んだ?

面倒くさい、妖と関わりたくないと

思いつつも結局、最後は助けるという

心優しい萌香でした



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