20・夏休みのタヌキ ~蓮とククリ~
夜の9時を少し回った頃、我楽多屋にとある妖怪が来店して来ました。
「いらっしゃい」
「こんばんはー!」
「蓮さん、予約した『あれ』を頼みます」
ふらふらとした足取りで、顔色を悪くしながら入って来たのは、人間の姿をした化けタヌキのいぬがみだった。蓮は膝の上に座っていたククリを下ろして腰を上げる。
「栄養ドリンクだね。ちょっと待ってて今、裏から持ってくるから」
そうして、蓮は店の奥へと消えて行った。今、店にいるのはククリといぬがみだけだ。いぬがみは近場にあった椅子に座りため息をつく。
「顔青いよ?また、妖力切れ」
「切れてはいない。ただ妖力の使い過ぎで疲れただけだ」
ククリはいぬがみの前に置いてある椅子に座る。
「じゃぁ、人間の姿からタヌキに戻りなよ。変身してると妖力使うでしょ?」
「は?だからと言って元に戻るわけねぇだろうが」
「なんで?いいでしょ、別に。というか早くタヌキに戻れよ」
「ククリ、お前は何をしたい?」
「えっ、タヌキ姿のいぬがみをもふもふしたいとは思ってないよ?」
「絶対、やる気だな。おい」
ククリは舌を出してとぼけた。
「だって、タヌキの方が可愛いもん」
「だから、嫌なんだ」
「可愛いは正義だよっ!」
と、ここで、店の奥から手に大きな箱を持って蓮が出てきた。すかさず、蓮に飛びつくククリ。
「妖力切れの時は、蓮特製の栄養ドリンク!
お値段1本、なんと驚きの低価格250円」
「CMか」
「ククリといぬがみ君は仲良いね」
蓮はいぬがみに大きな箱を渡しながら言った。
「前から思ってたけど、いぬがみ君は、なんでそこまで人間の姿にこだわるの?」
「タヌキ姿だと、色々と面倒ですから」
「確かに、タヌキのいぬがみは可愛いから、みんなから、もふもふされるもんね」
「別に僕はタヌキ姿でもいいと思うよ」
「蓮さん、冗談はやめて下さい」
会計を済ましたいぬがみは大きな箱から1本の小さな小瓶を取り出す、中に入っていた液体は、透明な色で少し甘い香りがした。それを一気に飲み干す。
すると、いぬがみの顔色が良くなった。
「蓮の栄養ドリンクはすごいでしょ」
「確かに」
「色々な物が入ってるからね」
蓮が笑顔で色々と言う時は、聞いてはならない物が入っている可能性が高いと、いぬがみは知っているので、敢えて追及はしなかった。
「にしても、栄養ドリンクを取りに来るのは2、3日前だって電話で聞いたけど、遅かったね。もしかして何かあったの?」
「実は」
いぬがみの話によると、急な仕事が増えたり、妖力が底をつき、衰弱してタヌキの姿になってしまった所、幽霊や妖怪が視える体質を持つ、男の子に助けられたり。
雨で増水した川で溺れている猫を助けようと川に入って助けたのは良いが、今度は反対に自分が溺れてしまい、二階堂の孫娘に助けられたりしたから、ここに来るのが遅くなってしまったそうだ。
「なんで、助けた人間全員が俺の事をもふもふするのかが分からん。こっちは可愛いって言われたり、触られるのが嫌だっつうのに。それになんで毎回渡されるのが魚肉ソーセージなんだよ!定番なのか⁉︎」
「魚肉ソーセージは美味しいよ」
「いぬがみ君、魚肉ソーセージをバカにしちゃぁいけない」
それから、いぬがみは蓮とククリから、いかに魚肉ソーセージは便利な食品なのかと言う話を延々と聞かされ、我楽多屋を後にした。
我楽多屋の栄養ドリンクは
予約制で、1本250円です。
大きめの箱は20本で入りで1000円と低価格
中身については企業秘密
秘密ったら秘密、知ってしまったら
もう飲めなくなります(笑)