16・我楽多屋の裏事情
バイトが始まって、もう3日は経ちました。和菓子屋、二階堂では主に、お菓子を買いに来た人への対応や、常連さんの顔を覚えたりと、まだまだ学ぶことはたくさんありますが、とっても楽しいです。それに、あやのちゃんからは家で簡単に作れる和菓子を教えてもらったり、店主の千代さんとは前よりも仲良くなりました。
そして、現在、私は蓮さんのお店『我楽多屋』で午後のバイト中です。ついさっきお客様は帰ってしまったので今、お店には私とククリちゃんしかいません。蓮さんはお出かけ中ですよ。
「それにしても、蓮さん帰って来るの遅いね。出掛けてから2時間は経ってるけど、大丈夫かな?」
「蓮なら、大丈夫だよ。ちゃんと帰ってくるから」
私が空いている椅子に座ると、ククリちゃんがやって来て、私の膝の上に座りました。とても軽いです、それになんと言っても可愛いよ。なんだか私、変態っぽいな。
「ねぇ、ククリちゃん。私以外にもここでバイトしている人はいないの?」
「いないよ。おねぇちゃんだけだよ」
前に蓮さんが、人でが足りないって言ってたから、他にもバイトしている人がいるのかなって思ったの。
ちなみに、昨日ククリちゃんから聞いた話で、初めて知った事なんだけど、この我楽多屋の裏は、蓮さんとククリちゃんの家になっていて、裏口から繋がっているみたい。
ククリちゃんに連れられて、蓮さんの御宅に行くと、そこには、すり鉢や漢方らしき物や古い書物などが置いてあったりと、私には分からない物がたくさんあった。気になって触ろうとしたらククリちゃんに怒られたけど、怒ってほっぺを膨らましたククリちゃんはとても可愛くて、叱られた気分じゃなかったことは覚えてる。
「そういえば、昨日見た、あの漢方とかって、一体、何に使うの?」
「蓮がすり鉢で色々混ぜて薬を作るの。それをククリみたいな奴らに売るんだよ」
「へー、ククリちゃんみたいなって事は妖怪の事かな。その前にこの店に来るの⁉︎」
「そうだよ?あれ?蓮、言ってなかったかな。この店はね、お昼は人間用で夜は妖怪用のお店になるんだよ」
初耳です。蓮さん、そういうことは最初に言って下さいよ。まだ、レジ打ちと商品の並び替えしか教わってないです。
「あいつら(妖怪)が来るのは、おねぇちゃんが帰ってからだよ。そうだね大体、夜の9時からかな」
その時間なら会わないね。
「蓮はすごいんだよ。この前だって、わざわざ中国から来たキョンシーにお薬を作ってあげたり、仕事を探しに来た首無しの仕事探しを手伝ったり。蓮はね、優しくて頭も良くて強いんだ」
ククリちゃんは蓮さんの事になると話が止まらなくなるんだよね。昨日も私が蓮さんの事を少し聞いたら、そのまま2時間くらいは、いかに蓮さんが凄いのか、どれだけ凄いのかを延々に話してくれた。
「蓮はお札も作ったり、刀も作ったり、怪我を治す薬も作れるの、あとはね、おもちゃもなんだよ」
ククリちゃん、そのお話は昨日も聞いたんだけどね。でも、こんなに嬉しそうに話しているのに昨日も聞いたよ。だなんて言えません。
「昨日の夕ご飯はね、カレーだったの。もちろんククリも一緒に作ったんだよ」
「ククリちゃんも作るんだね」
「そうだよ。毎日、一緒にごはん作るんだー!」
こうしてみると、蓮さんとククリちゃんは親子みたいって思う。ちょっと羨ましいかも、私は親と一緒に何かをしたあまり記憶はなくて、反対に、知り合いのお坊さんと一緒に過ごした記憶の方がたくさんあるかな。
チャリン、ドアが開く音がしたと同時にククリちゃんは、私の膝の上から飛び降りて、店に入ってくる蓮さんに飛びつきました。
「ただいま」
「蓮、おかえり」
「蓮さん、おかえりなさい」
「ククリ、萌香ちゃんに迷惑は掛けなかったかい?」
「ククリいい子にしてたもん」
「本当ですよ。ククリちゃん、さっきまでずっと蓮さんについて語ってましたから」
「おねぇちゃん、言ったでしょ?蓮なら大丈夫だって」
片目でウィンクするククリちゃんも可愛いです。写真に収めたい!あぁ、いけない、いけないまた、変態臭がダダ漏れだったよ。
「帰るのが遅くなってゴメンね。それと言ってはなんだけど、二階堂で買った、豆大福で許してくれるかな?」
「豆大福ー!」
「お茶、淹れますね」
二階堂の豆大福は絶品です。私もオススメの商品、さてさて、これは急いでお茶を用意しないといけませんね。




