15・委員長のお姉さん
昨日の夜は暑かった、風は来ないし鬼さんは暑い暑いうるさいし、汗で髪はべたつくし、寝るにも寝られない状況でした。
そして、今日は日曜日、明日からバイトが始まります。そう考えながら、私は鏡の前で髪が伸びたなーと考えていました。5月頃はちょうどいいセミロングだったけど、今となっては、髪の量が増えて長さも腰の真ん中辺りまで来ています。
流石にこれは長すぎだよね、本当は自分で切った方が安上がりなんだけど、絶対にオカッパにする自信の方がある。前髪パッツン、やっちゃったー!どうしようってなるのが目に見えてるよ。ここは素直に美容院に行こうかな。確か、昨日行ったショッピングモールに美容院があったはず、それにトイレットペーパーとか洗剤とか日用品もまとめて買いたいからそこが一番良いよね。
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と言うわけで、1階にある美容院に来ました。
「髪はどこまで切ろうかな?」
「もう、肩までバッサリとお願いします」
「了解」
私の髪を切ってくれるお姉さんに肩までと頼みました。えぇ、もうバッサリと私はスッキリしたいのです。
「髪さらさらだね。ストレートパーマ掛けてるの?」
「いえ、掛けてませんよ」
「うわー、羨ましいな」
私のこのさらさらヘアーはお母さん譲りなんです。つまり遺伝、寝癖は付くけどブラシを使えばすぐ元通り。
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「このくらいで良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「量も少なくしておいたからね」
美容師さんのご好意で量も少なくしてもらいました。おぉ、頭が軽くなった感じ、これなら、髪を洗うのも楽そうだね。
美容院を出る頃は、もうお昼で日曜日という事もあってか、ショッピングモール内はたくさんの人で賑わっていました。
日用品を買うついでに今日の夕飯のお惣菜も見てこようかな。食品売り場に向かう途中、休憩するために置いてあるベンチに、たくさんの荷物に囲まれた見覚えのある人が1人で座っていました。
あれは、委員長だよね。なんだか、某ボクシングアニメの真っ白になったシーンみたいに目が死んでいて、どこか遠くを見ています。委員長生きてますかー。
「委員長、お久しぶりです」
委員長の目の前に来て話し掛けても反応ありません、それどころか心ここに在らずと言った感じです。
「セキセイ・イインチョウ」
「僕は鳥じゃないからっ!」
ナイスツッコミです。死んだ目から生気が戻りましたよ。
「えーと、宮川さん、だよね?」
なぜ疑問系。あっ、そうか髪を切ったから一瞬誰か分からなかったんだ。そこまでイメチェンした気はないけどな。
「そうだよ」
「髪切ったんだ、ショートは初めて見るな」
「さっき、向こうにある美容院で切って来たの、長いと暑苦しいからね。委員長こそ、そんな大量の荷物に囲まれて大変だね」
「あぁ、これ」
「その荷物って委員長の?」
「僕のじゃなくて、姉さんと母さんの荷物だけどね」
「委員長にお姉さんがいたの!」
初耳です。委員長とは夏休み前に連絡先を交換しただけで、その後は連絡も何も取ってなかった。委員長のお姉さんってどんな人なのかな?委員長に似て美人さんとか。
「でも、お姉さんとお母さんは見当たらないけど」
「あの2人は、服屋とか雑貨屋とかに行ってるかも」
「委員長は行かなくていいの?」
「この荷物を持ったまま、あの2人について行くのは無理だからさ、ここで休んで待ってたんだ」
確かに、この量の荷物を持ちながら歩くのは厳しいよね。
「ここはさ、ちょうどクーラーが当たって涼しいんだよね」
「そうだね。クーラーは涼しいよね、クーラー、クーラー、クーラーっ!
「どっ、どうしたの⁉︎」
「委員長、聞いてよ!鬼さんのせいで私の家のクーラーが壊れたんだよっ!」
「何かあったみたいだね。話聞くから、とりあえず、ここに座ってよ」
委員長が荷物を退けてくれた右隣に座りました。
「実は、昨日、レンタルでホラー映画を借りて……」
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話し始めてから1時間は経ったと思う。つもりに積もった話がたくさんあり過ぎて、また長話になっちゃったよ。本当、何一つ文句を言わずに聞いてくれる委員長には感謝しないといけないね。
「うわっ、もうこんな時間。委員長、毎回私の長話を聞いて下さってありがとうございます」
「良いけど、敬語だよ?」
「感謝の気持ちを込めているので」
「感謝される程の事はしてないけど」
「1時間くらい経ってるけど、お姉さんとお母さんはいいの?」
「あの2人なら、問題ないよ。買い物し始めたら止まらないからね。特に姉さんなんて、次元を超えているから」
委員長が、そこまで言うお姉さんって一体、何者?俄然興味が湧いて来たよ。
「委員長のお姉さんってどんな人なの?」
「性格は女王様、わがままで、自分中心で、腹黒くて、利用できるものは利用する。そんな悪女だよ」
「誰が悪女かな〜?」
今の言葉は私ではありません。声がした方は委員長の後ろからです。そこにいたのは、胸まである綺麗な茶髪を毛先で緩くカールして、足を強調するような白のショートパンツを履いたお姉さん。可愛いか綺麗か、と聞かれたら、綺麗な部類に入る人です。まさかこの人が委員長のお姉さんなの!
「姉さん、いつの間に」
「委員長が『良いけど、敬語だよ?』辺りから」
お姉さんが委員長と言いました。もしかして委員長は家でも委員長って呼ばれてるのかな?
「委員長は家でも委員長って呼ばれてるの?」
「いや、違うかな。家では普通に名前で呼ばられてるよ」
「ううん、違う違う!全っ然違うよ。委員長は家でも委員長なんだ。というか、始めましてだよね?私は委員長のお姉さん、生徒会長だよ。君は誰かの妹?今、小学何年生?」
しょっ、小学生ですか。昨日の映画の受付のお姉さんから始まり、どうして身長の事についてこんなにも落ち込まないといけないの!
「姉さん、宮川さんは僕と同じクラスだよ」
「えっ、高校生!名前は、名前はなんて言うの?」
「宮川 萌香です」
「萌香ちゃん、可愛い名前。それに小さくて可愛いわね」
お姉さんにギューと抱きしめられました。なんだかゆいちゃんに似ているかも、それと、お姉さん、あなたの細くて長い足は何で出来ているのですか?
「姉さん、母さんは?」
「たまたま、仕事が早く終わったお父さんに会ったから、そのまま2人で映画を見に行ったよ」
だから、お姉さん1人なのですか。
「萌香ちゃん、今日は家族で来たの?」
「いえ、1人で来ました」
「それなら、今から時間あるよね。じゃぁ、お姉さんに付いて来なさい」
「えっ、どこにですか」
「もちろん、私とショッピングよ。ほら、委員長、あんたも付いて来なさい、荷物持ちでしょ?」
「姉さん、宮川を自分のわがままに付き合わせないで」
「うるさい、ほら行くったら行くの」
お姉さんに腕を引かれ、訳の分からないままついて行く私でした。
そのあとは、服屋さんで、お人形みたいに色々と服を着させられたり、お姉さんのカメラに撮られたりと、プチモデル気分です。
「はぁ、女の子はいいわぁ」
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午後6時
お姉さんと委員長に別れを告げて帰ってきました。玄関を開けて、部屋のドアを開けると。さて、髪は切ったし、鬼さんのリアクションはいかに。
その結果は、こちらをガン見して固まってます。
「萌香が髪切った!」
最初の一言がこれでした。というか、いつ間に私の名前を知ってたのかな?まぁ、それは置いといて、さっさと夕飯の用意をしますか。
一応、委員長のお姉さんはモブ役です




