149・節分の日
2月上旬。今日は2月のイベントである節分の日です。だから、私がよく行く商店街のあちこちでは節分の炒り豆や鬼のお面がたくさん売られていました。
「と言うことで豆まきしましょ!」
私は鬼さんが帰ってくるとすぐに商店街で買った炒り豆がたくさん詰まった袋を見せつけます。もちろん、鬼のお面は買っていません。なぜなら、こっちにはリアルな鬼がいるからね。
「おにはーそっ!」
「もえかストップ」
炒り豆を投げようとした時、鬼さんに全身を抱きしめられて止められた。別に口で言えば良いのに、と思うけどこれはこれで良いかな、なんて思ったりする今日この頃。とにかく、今はまだ炒り豆は投げられないと言うことだけは分かった。
「豆まきしないで」
「えっ、でも今日は節分だから豆まきしないと悪いものがきて良いものが来ないよ?」
鬼さんの腕の中でもがき、上を見上げると唇を尖らして眉間にシワを寄せた鬼さんと目が合いました。この様子は何かを考えつつ少しだけお怒りの様子。長くはないけど、短くもない付き合いをしていると、だんだん表情だけで相手が何を言いたいのかわかってくるけど、今はまだ鬼さんが何を言いたいのか予想が出来ない。
あっ、もしかして節分の鬼役は会社の豆まきでやったからもうやりたくないとか。うわー、ありえそうだね。そんな風に思っていると鬼さんから拗ねた口調で言われる。
「鬼は外ってさ、要は家から出て行けって意味だろ?」
「そうだね」
「それが嫌だ」
なるほど、そう言う意味か。確かに、いくら冗談でも家から出て行けって言われるのは悲しいもんね。
「ごめん」
「いや、別にそんな顔をさせるつもりじゃなくて」
眉を下げて謝ると逆に鬼さんが慌て始めてる。このままだといつまでもこんな状況が続くから、切り替えます。
「よし、オッケー。じゃぁ、これで終了」
私は鬼さんから仕事用のカバンをひったくり、笑顔で部屋へと入りました。うーん、節分の日って鬼にとっては複雑なんだね。でも、毎年、節分には鬼は外、福は内って言うからなんだか言わないと違和感がある。
「あっ」
そうだ、鬼は外福は内の言葉を替え歌みたいに変えちゃえば良いんだ。例えば、そうだね。鬼は外ソウキは内、とかさ。うーんでも他にも色々な良い案が出てるんだけどな。
だって私が鬼さんに出て行けなんて言わないよ。それどころか口が裂けても言えない。これはきっと喧嘩しても言えないんだろう。理由は簡単、ただ単に鬼さんの事が好きで、もし軽はずみで言ってしまい、本気で出て行って欲しくないから。
「思い付いた!」
「どうした?」
「鬼は外福は内って言うんじゃなくて邪気は外福は内って言えばいいんじゃない」
昔、邪気の事を鬼って言っていたことを思い出した私は鬼さんにそう提案すると笑われて返された。
「もう、鬼は外で良いよ」
「なんで?」
「なんとなく」
なんじゃそりゃ。鬼さんのよく分からない理由に私もつられて笑ってしまった。前もたくさん笑っていたけど、最近は前以上にたくさん鬼さんと一緒に笑う機会が増えているような気がする。
バラエティ番組を観て同じところでお腹を抱え笑ったり、レンタルビデオ店で全米が泣いたと言う映画を借りてきて観た時は2人してボロボロ泣きながら観た。
こうして一緒にいる度に笑ったり泣いたり、喧嘩はたまにするけど、それはそれで。とにかく、今が一番、幸せだと私は思う。
「萌香、何ニヤついてるの?」
「いや、なーんにもっ!鬼さんには秘密だよ」
人差し指を立てて唇に当てながら鬼さんに答えました。さてさて、豆まき用に買ったけど使わなかった炒り豆は食べるとしてさっさと、夕飯を作りますか。今日は節分だから恵方巻きだよ。確か、静かに食べないとダメなんだっけ?
それは難しい話だな、どうしても静かになると耐えられなくて喋っちゃう。そんな自分に笑って私は早速、夕飯作りに取り掛かりました。