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147・鬼の隠し子 ~ソウキ~

夕方ごろ、突然オレがいる部署に他部署で少し仲の良い赤鬼の緋村が息子を連れて入ってきた。そして、何事かと思えばどうやら、緋村は仕事中に熱が出て風邪をひいてしまったらしく、息子を今晩だけ預かっていてと頼まれた。


「明日までには絶対に治す。だから今晩だけ頼む!」

「分かった」

「お父さん、早く治ってね」

「あぁ、もちろん。ゆうき、ちゃんと良い子にしてるんだぞ」


こうして、オレは初めて会う友人の息子の面倒を少しの間だけ見ることになった。その、仕事の帰り道、バスからおりて歩き疲れたゆうき君を片腕で抱っこし、色々、話しながら夜の道を歩く。色々とはゆうき君の名前の由来とか、普段お父さんとは何をしているのかなどなど。あっ、今更だけど萌香に連絡するの忘れてた。まぁ、大丈夫か。


「ただいま」

「たーま」


そうしているうちにようやく八幡荘の203号室に辿り着いた。事情を話すと最初は驚いていたけど、ゆうき君が突然来たことに快く思ってくれて安心した。萌香は子供嫌いじゃないと思うけど、もし子供嫌いとかだったらどうしようかと、少し不安だった部分もある。まだまだオレも萌香分かっていない部分があるんだな。大丈夫、これから知って行けばいいだけの話だ。


「ゆうき君!好きな食べ物は何?お姉ちゃん作っちゃうよ!」


分かったこと。萌香は子供に対してすごく甘い。それはそれはもうオレの存在を忘れるくらいに。どうやら、話の流れに遅れていると2人でオムライスを作ることになっていたり、作ったオムライスを食べさせあったり。正直、子供相手にこんな事を思うのはおかしいと思うけど萌香を取られたようで少し、嫉妬してしまった。

でも…


「萌香、冷たい」

「だって鬼さんならいつでもあーんが出来るし」


恥ずかしそうに言う萌香を見てオレは今まで考えていたことが吹っ飛んだ。何その、袖で口元を隠す仕草とかオレにはかわいいとしか思えないんだけど。


「もえか、あつあつ」

「ゆ、ゆうき君!」


おっ!意外とゆうき君、分かる子だ。それから視線だけで会話した後、オレとゆうき君はニヤニヤしながら萌香を見続けた。


「もう、2人ともニヤニヤしないでっ!」


203号室来る前もそうだし、今もだけどオレとゆうき君の性格は似ていてもっと仲良く慣れそうな気がする。それに、萌香が溺愛するほどかわいいのも分かった。この柔らかそうなほっぺに子供らしい仕草、確かに甘やかしたくなるわな。




* * *




順調にゆうき君と仲良くなれたと思ったら夕飯を食べて風呂に入る前に事件は起こった。何があったのかと言うと。実は萌香がお風呂に入ると言ったらゆうき君も入ると言い出した。


「いいよ。じゃぁ一緒に入ろうか」

「うん!」

「ストップ、ダメ、ノー!」

「鬼さん、何そのダメダメ3段活用」


いや、甘やかしたくなるのは分かるけどゆうき君は男の子だし、性別違うし、子供でもダメだし。自分でもよく分からない理由をぐたぐた言っていると痺れを切らした萌香が口を開いた。


「男女差別ですか?うわー、サイテー。考え古くさー」

「ふるくさー」

「別にゆうき君は男の子でもかわいいし、そんな疚しい事を考える鬼さんとは違うのですよーだっ!もう、子供は子供同士で入りましょうねー」

「ねー」


くそぅ!ゆうき君まで萌香の真似をして口元を手のひらで押さえている。オレだって、まだ萌香と一緒に入ったことがないんだぞ!それなのにゆうき君に先を越されて、って本当にオレは子供相手に何を張り合っているんだ。まさか、これはオレの精神年齢が子供だと言いたいのか⁉︎


「お先に入ってくるね」


でも、やっぱりここは譲れない。これは完全にオレのわがままで、子供に対してアホかと思う理由だけどオレにとっては大事なことなんだ。だから、オレは自然な流れでゆうき君を抱き上げる。そして、不自然な笑顔にならないよう気を付けて萌香に話しかけた。


「オレ、ゆうき君と仲良くなりたいから」

「はい、見え透いた嘘をつく鬼はさよなら」


そう言って萌香はオレからゆうき君を奪うと脱衣所へ行ってしまった。萌香に抱えられたゆうき君の表情は3歳児なのにも関わらず、どこで覚えたのか知らないけれど、哀れみの目と優越感に浸った悪役顏でオレを見ていたように感じた。いや、流石にそれはオレの思い過ごしだよな。3歳児がそんな表情をするはずがない。


「まぁ、気が向いたら考えてあげるよ」

「えっ」


脱衣所のドアを開けて入る瞬間、萌香は意地悪そうな笑みで意味深な事を言った。ちょっと待って、それはまさか。引きとめようにも萌香とゆうき君はもう、脱衣所に入ってしまい、今開けると、それこそ、もう二度と口を利いてもらえなくなる可能性がある。


「うわー、生殺しだ」


たまにオレは萌香の方が鬼なんじゃないかと思う時がある。やっぱり、一緒に暮らしていると似てくるんだよな。そう思うと少し頬がゆるくなった。





そんなことを思いながらオレも次に入る風呂の用意をしていると風呂場から楽しそう?な声が聞こえてきた。


「もえか、ほそいよ?ちゃんとごはんたべてるの?」

「大丈夫だよ」

「えー」

「やっ、くすぐったい。ちょっダメ」

「もえか、やわらかいね」

「ふぁっ」


おい、ゆうき、何をやっている?

オレはすぐさま脱衣所に行って風呂場のドアを開けた。


「おいっ!ゆゔっいた」

「バカ!勝手に覗くな!この変態鬼ガッ」


ガツンッ、バタンッ。

漫画に出てくるように洗面器を顔面に思いっきり投げつけられドアを強く閉められた。今のはオレが悪いけどさ、さっきのあれを聞いたら何があったのか気になるだろ?あっ、でも、少し見えたけど2人とも体に長タオルを巻いていた。


「タオルありならまだ少し許す」


オレは洗面器を投げつけられた時に出た鼻血を押さえながら独り言を呟いていた。




* * *




風呂で一悶着あったけど、なんだかんだとして、もう夜の9時30分になった。この時間になるとゆうき君はベッドを背もたれにしてテレビを観ていた萌香の膝の上でうとうとし、最終的には萌香の膝枕で寝始めた。その隣でオレはゆうき君の寝顔を見る。


「鬼さんどうしたの?」

「いや、もし子供ができたらこんな感じなのかなって思って」

「そうだね」


萌香はゆうき君の頭を撫でながら微笑んで答えてくれた。その姿はまるでお母さんのようだ。それから、萌香はゆうき君を見たまま言う。


「子供は2人が良いな、女の子と男の子ね 」

「一姫二太郎か」

「うん」

「オレも2人かな。顔はどっちに似るんだろう」

「どうなんだろう」


くすくす笑う萌香が愛おしくて名前を呼び、振り向いたところで前髪辺りに口付けをする。それから流れるように唇へ。萌香も嫌がることはせずただオレにされるがままだった。


「ゆうき君が見ていたら大変ね」

「そうだな」


本音を言えばこのままベッドに連れ込みたいけどゆうき君がいる手前、普通に考えてそれは出来ない。しかも今、話の流れが子供の方向に行っていたから余計に…な?ここは言わずもがなだろ。


「ここで寝ちゃうと風引くしベッドに寝かせよう」

「あぁ」


1つの小さなベッドにオレ、ゆうき君、萌香と言う順番で並んで寝る。そう、これは赤ちゃんが生まれてから親子でする川の字と言うやつだ。


「萌香、おやすみ」

「おやすみソウキ」


次、こうして川の字になって寝るのはいつなんだろうと考えながらオレは萌香の寝顔を見た。あどけない表情で寝る萌香にオレは囁くように言う。


「オレ、絶対に萌香を今まで以上に幸せにしてみせるからな」


当たり前のようだけどオレは強く誓った。

3



赤鬼の緋村さん。

実は62・いぬがみコーポレーション

のお話で脇役として出ています

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