142・今度こそ言える
ベリトは自分の屋敷の使用人を探すためにわざわざ遠く離れた霊界に来たらしい。でも結局、自分の好みの使用人が見つからなくて屋敷に戻る途中に私を見つけたらしい。でも、よく考えれると、ベリトがここから出られるなら私もここから出られるんじゃない?その事を伝えると即答で否定された。
「私は悪魔だから人間界もここにもいけるが、お前はさっきも言ったように死にかけの存在。体は機能しているが意識はこっちにいる状態の中途半端な奴はここから出れん」
「中途半端じゃなければ良いのね⁉︎じゃぁ、それなら悪魔か浮幽霊になれば人間界に戻れるとか」
「あのな、成りたいからってなれるもんじゃないぞ。それに、我輩だって気が付いたら悪魔だった。だから、悪魔になる方法も知らんし、ましてや浮幽霊なんぞ、いくら強い意思があってもなかなかなれるもんじゃない」
じゃぁ、私はここで大人しく待っていろってこと⁉︎
「まぁ、体の方に奇跡が起こるか転生して来世に期待したらどうだ?」
もう、自分の力じゃどうにもならない。その証拠に脚まで透けていたのが今では太もも辺りまで透けて来ている。
「ははっ…」
バカは一回死ななきゃな治らないっていう言葉があるけど。まさにその言葉通りだよね。泣くことを通り越して笑えて来る。本当、私はなんでこうなる前に言わなかったんだろう?
もう、この質問は自分の中で嫌と言うほど答えた。
そう、私はただ単純に周りの人を困らせたくはなかっただだそれだけ。自分の命が間近に迫っていようが何だろうが最後まで言わなかった理由はアホみたいで幼稚なそれだ。
鬼さんに言ったらきっと何としても私を助けようとしてあれよこれよと考え悩ませる。蓮さんやククリちゃんも鬼さんと同様。それに、知り合いのお坊さんやその寺にいるみんなも大勢の人や妖怪が頭を悩ませる。
もし、言っていればこんな事は起こらなかったかもしれない。未来が変わっていたかしれない。もう、後悔しても遅いよ。こんな風に考えたのはきっとあれだな。自分でも心当たりがある。それは、私のお母さんが詐欺をしたその後の事が原因だと思う。
深い理由があり私のお母さんが過ちを犯した後、本当はこんなことお母さんに対して思いたくもないんだけど、たくさんの人が迷惑を掛けられ困った。それは詐欺にあった人だったり、お父さんだったり私だったり、もちろん、お母さんもそのうちの一人だけど。
「本当に私、バカだよ」
お母さんは親の事業失敗で多大な借金で困り、お父さんはお母さんが詐欺をした後、住む家を探したり私の事で困った。知り合いのお坊さんは私が他の妖怪に襲われているところを助けてくれて怪我を負った時が幾つかある。知り合いのお坊さんは別に気にしなくて良いよと言ってくれたけどどの道あれは迷惑を掛けたと言っていい。
きっと幼い頃の私は小さいなりに考えたんだ。迷惑を掛けて誰かが困る姿は見たくないってね。それが、いつの間にか自分の中に染み込んでいて気が付けば無意識にそう考えるようになっていた。
それに、昨年の12月お父さんが突然やって来た時、私はお父さんとは違い幽霊や妖が視える体質だからお父さんがいる前では私が空中を見て何か話している姿を見せて頭がおかしな子だと心配させ困らせたくはなかったからいつもの自分とはシフトチェンジして良い子であろうとした。
「本当に私はバカですよ」
気が付けば私はベリトに全てを語っていた。何があって、どうしてこうなったのか、意外にもベリトは私の話をつまらなさそうな顔はしていたけど最後まで聞いてくれた。そして、全ての話が終わった後ベリトが口を開く。
「それは我輩に言うのではなくえーと、なんだ?ソウ、何とかって言う鬼や周りの人間に言うべきだろ?」
「はい、分かってます。でも、もう言いたくても言えない」
「だから、代わりに我輩に言ったのか」
「はい」
私はもうすぐだから。そんな風に考えると自然と目が熱くなり視界がぼやけ目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれてきた。今更になって泣くのか、本当に全部が遅いよね。もし、もう一度、生きることが出来たら今度は絶対にみんなに全部話すから。だから、だから…考えるよりも先に涙がとめどなく溢れてくる。
そんな私を嘲笑うかのように体はどんどん透けて今では胸辺りまで消えかかっていた。胸から下の感覚はない。それが余計に私の涙腺を崩壊させる。
「ん?」
ベリトの驚きの声に反応してぼやけた視界で顔を伺うとその視線は私の体を見ていた。気になって見てみると、おかしな事に私の体の透けていた部分が徐々に形を取り戻していて感覚も戻ってきた。
「えっ、なんで⁉︎」
「体の方に何かあったんだな」
「何かって何が」
「我輩に聞かれても知らん。でも、まぁ」
ベリトの言いたいことが分かった。視線を合わせ私はしっかりと決意したことを話す。
「今度こそちゃんと言います」
「遅いがな」
「うっ」
ようやくつま先まで透明だったからだが色を取り戻したところで今度は急に眠気が来た。これは私がここに来る前と同じ感じ。眠さでふらふらとした意識の中、ベリトは仏頂面で私に声を掛けてくる。
「あとな。お前は人に迷惑を掛けて困らせたくはないと言ったが、それは生きている以上、避けては通れない道だし無理だ」
ごもっともです。
「それに黙っている方が余計に迷惑を掛けている時もある。だから、貧乳っ子よ。もう少しわがままになれ、言いたいことがあるなら言えばいい。お前の周りにはたくさんの聞いてくれる人がいるんだろ?」
「貧乳っ子って言うな!」
「まぁ、そんな感じだ」
ムカつく顔だけど言っていることはまさに、その通りだ。あれっ、そう言えばわがままになれって言われたのはこれで2度目だよね。確か前に鬼さんからも言われた気がする。
「んっ」
視界が揺れた。あっもうすぐなのか、待ってまだ私、ベリトに言いたいことが言えてない!
「ありがとうございました!」
「人間のくせな生意気な」
言葉は悪いけど最後に見たベリトの表情はムカつく顔じゃなくて穏やかな表情だった。そして私は目が覚めたら今度こそ絶対に言おうと心の中で誓い目を閉じる。
次に目を覚ますと鬼さんや蓮さんやククリちゃんと白い天井が見えた。それと同時に病院のお医者様も私の顔を覗き込んでいる。ん?あれっ!私って我楽多屋で倒れたんじゃないの?色々不思議に思うところはあるけど。
「萌香っ!」
「ただいまっ」
起き上がった私に鬼さんがいつもとは違い骨が俺ちゃうんじゃないかってほど力強く抱きついて来た。それに対して私もぎゅっと抱きしめる。
「えーと、君は何をしているんだ⁉︎」
お医者様から言われた。そうか、このお医者様は視えない人なんだ。前の私ならきっとパントマイムですとかそんな適当なことを言ってその場をやり過ごそうとしたけど、ベリトから言われた事を思い出した。
「感動の再会です」
「えーと」
「まぁ、先生落ち着いて。まずは」
困り顔のお医者様を蓮さんがフォローする。そんな姿を見つつ私はふとあることを思いついた。別に私がわざわざ言わなくても事は終わったんだし、言わなくても良いよね?世の中には知らなくて良いことがたくさんあるんだから。
…なーんて、冗談。
私は今度こそ事が起きて後悔する前にちゃんと言おうって決めたんだから。もう、事は終わっちゃったけど。
「鬼さん、蓮さん、ククリちゃん。心配掛けてごめんね」
それと、少し私の話に付き合ってくれるかな?私、みんなに黙っていたことがあるんだ。
そう言って、何気なく見た夜空の星はとても綺麗に輝いて見えた。




