139・昔話 ~委員長~
キィから大まかな事情を聴きながら妖怪界の入り口であることを示す赤い門をくぐる。キィ曰く本当なら烏天狗の門番がいるはずらしいけど、つい数分前に出会いオレたちを襲ってきた指名手配されている黒鬼を捕まえるためなのか今はいない。
ついでに言うと門をくぐった先にある全ての店が閉まっていて両脇に店が並んだ一本道にはオレたち以外、誰もいなかった。
「時代劇に出てくるようなところだね」
「田舎町は江戸の町をモチーフにしていて、都会は現代風をモチーフにした造りになっているのですよ」
へぇ、やっぱり日本だから町も和風にしてあるのか。それに妖怪界には田舎町と現代風の町があることにも驚いた。じゃぁ、今はいないけど町を歩く妖怪たちは昔の日本みたいに着物を着ているのだろうか?
色々気にはなるけど、まずは腕の手当てと言うことで空いてそうな店や民家を探すけど、全部、戸が閉まっていて叩いても誰も出てきてはくれなかった。
「普通ならこの時間帯は一番混むのですが。
うーん、他の妖がいる気配もしませんね。みなさんどこかに行ってしまったのでしょうか?」
「町の全員がいなくなるなんて」
警察の役割である烏天狗が今、人間界にいるオレたちを襲った指名手配中の黒い鬼を捕まえるために妖怪界からいなくなるのは分かるけど店を営む妖怪が全員いないのはちょっとおかしい。
「あの、黒い鬼。人からたくさんの命を奪って何がしたいのかな?」
人から命を奪って妖怪が得することは何か?この話、昔どこかで聞いたことがある。記憶を遡って行くとその答えは秋ぐらいに宮川さんと行った知り合いのお坊さんの寺で文車妖妃が言っていた。記憶が正しければ文車妖妃さんはこう言ったはずだ。
『ついでに妖力が少ない妖が霊力の強い者から寿命を奪い、己の力とすると、その妖力は格段に上がると文献に書いてあります』
何か理由があって強い妖力が欲しかったのか。でも、その何かの理由が思いつかない。
「うーん」
キィから聞いた大まかな話だと人の命を全て奪うのではなく、少し残して奪う。おかしいな?今までにたくさんの人から奪ってきたんだろ?それはつまり、より多く欲しかったって言うわけ。それなら、普通に考えて人から余すことなく全て奪えばいいものの、少し残して奪うのはおかしい。
「ご主人様⁉︎」
少し残す理由がどこにあったのか。もう少し深く記憶を辿るとまたも文車妖妃さんが言ったことを思い出した。『別に寿命ではなく霊力の強い者の命の方が妖力は寿命以上に上がるのですが、それには副作用が伴います。例として挙げるならば、暴走した妖力に体がついて行けず自分の身が滅ぶ。その反対に寿命の場合だと副作用はないので一般的にはその話が伝わっています』
あれ?命も寿命も同じじゃない?
「うーん」
もしかして、人から全部奪えば副作用が起こりやすくて、少し残すと副作用が起こりにくいって事を文車妖妃さんはあの時は言いたかったのかな。そう言えばあの時、文車妖妃さん、かなり酔っ払っていたよな。
「あの、ご主人様っ!」
でも、さ。被害者が何人もでているわけだろ?少し残して奪う事を何回も繰り返したら、全てを奪うことよりも…例えるなら、ビニール袋を体として、水を人から奪った寿命だとする。ビニール袋に水を大量に入れ続けたら溢れるわけで。つまり、何と言いたいかと言うと。どの道、副作用として暴走する羽目にならないか?と言いたい。
「ご・主・人・様っ!」
襲われた時も意味不明な事を言っていたから、あの時もう既に暴走していたのかと考えていると。突然、キィに左腕の袖を引っ張られた。
「えっ、何かあった⁉︎」
「さっきから唸られてばっかりで、挙げ句の果てには私がご主人様とお呼びしても反応してくれませんし」
「ごめん、考え事してて」
「何をですか?」
「さっき襲ってきた黒い鬼の事を少しね」
オレは今まで考えたことをキィに事細かく話す。全て言い終えた後、キィは暫く顎の下に手を掛けながら考え込んだ後、ようやく口を開いた。
「仮にご主人様のお考えが当たったとしていても、考えていることは本人にしか分からないと思います」
ですよね〜。
そう思ったのと同時に、なんでオレたちは人気のないこの道を歩いているのかと改めて考えた。そうだ、忘れてた。オレ、左腕を怪我していたんだ。怪我と言ってもかすり傷程度だし、血は止まっているから深く考える問題じゃないと言ったけど心配性なキィからそう言う問題じゃないと怒られた。
「どこか開いているお店があれば良いのですが」
オレの左腕の傷を見た瞬間、キィは大きな目をさらに大きくさせ驚きの声をあげる。つられてオレも自分の左腕の怪我を見ると。
「傷が塞がっている⁉︎」
切られたところは跡形もなく綺麗さっぱり傷がなくなっていた。人間の治癒能力はすごいなーと実感しつつ。いやいや、流石にこれはあり得ないでしょ。いくらなんでも、これは回復するのに早すぎる。
「その刀の妖気に当てられたからでしょうね」
どうやら、黒い鬼から奪ったこの刃がボロボロの刀は薄っすらと妖気を帯びているらしい。オレには見えないけど。で、簡単にまとめるとこの妖気によってオレの怪我は治ったとの事。それにしても、妖気って便利なんだな。
「妖気って使い方が色々あるの?」
「はい。妖から人間の姿に変化する時にも使いますし、怪我を治したり、手で持たず物を動かしたり、あとは筋力をアップしたりと」
妖気はある意味、チート能力だと思った。
* * *
傷も治ったことだし、もう、そろそろ人間界へと戻ってもいい頃だろうと考えたオレたちはその場で踵返し、門の近くにあるバス停へと向かう。
「人間界へ戻る方法はバスしかないんです」
「そのバス。見たことある」
ショッキングイエローのバスのはず。前に一度、見たことあって。しかも、なかなかショッキングイエローのバスの なんて珍しいから覚えていた。そんな風に話し込んでいると門の近くにあるバス停が見えてくるのと同時にこれまた見たことのある茶色いふわふわとした生き物が時刻表を見えいた。
「キィ、あれってまさか」
「タヌキバージョンのいぬがみさまですね」
いつもは人間の姿なのに、今日は自分が苦手とする子ダヌキ姿。もちろん、オレたちはいぬがみさんに話しかけた。
「お前、なんでここにってる?その前に、その刀!」
「あっ!危ないですよね」
かと言って、どこかに置く場所がないから剥き出しの刃のまま持つことにした。いぬがみさんからどうしてここにいるのかと聞かれ、刀を持つ経緯を話すついでにさっきの出来事も話す。
「すまない」
「なんで、いぬがみさんが謝るんですか⁉︎」
苦笑しながら今度はオレがいぬがみさんに質問する。と、その前に。まず最初になんで町全体が店閉いをしているのかと聞いた。すると、返ってきた言葉は驚きのもので。
「人間界で暴れている黒鬼をこっちに来させて一気に袋叩きにする計画らしくてな」
いぬがみさんが言うには人間界だと広くて一度、黒鬼が逃げられたら捜すのに一苦労するけど。こっちに連れてきたら、田舎と都会しかないし、帰る方法はバスしかないため、逃げられてもすぐに捜せることが出来る。
「確かに暴れたら他の妖怪が怪我する羽目になって危ないですよね」
「町に妖怪がいなかったのは全員避難していたからなんだ」
避難先は都会らしい。ん?それなら、なんで今から危なくなる田舎町にいぬがみさんがいるんだろう?しかも、子ダヌキ姿で。
「あぁ、それはな。まずは昔話をしようか」
話によると、今から何百年も前。いぬがみさんがいぬがみコーポレーションを立ち上げる前の話だと言う。時は大体、江戸時代くらい、日本中で小さな妖怪の集団が多く集まり組合を作り他の組合同士で縄張り争いがあったらしい。
「そんな時には、お前たちを襲った黒鬼が人を襲ってるところを見たんだ」
案の定、いぬがみさんは襲われていた人を助けた。そして、黒鬼は邪魔された腹いせにいぬがみさんに襲いかかる。結果は当然、いぬがみさんが勝ったらしい。子ダヌキなのに勝つとかあり得ないと言ったら爆笑された。
「今とは違う人間の姿に化けてやったんだよ」
成る程、流石に人型とタヌキとでは差があり過ぎるからな。ここまでの話を聞いてなんとなく、黒鬼が今まで人から命を少し残して奪ってきた理由が分かって来た。それに、まさかいぬがみさんと黒鬼が繋がっていたとは驚きだ。
「拳を交えて分かったんだが、あいつはかなりの自信家でな」
「要は負けて悔しかった」
「単なる私怨ですのね」
「もしかして、いぬがみさん。もう一度、決着をつけるために?」
「あー、そんな感じか」
いぬがみさん曰く、仕事中に警察である烏天狗から電話が掛かってきたらしい。そして、人間界で黒鬼がいぬがみさんの名前を叫びながら暴れていると知らさせた。心当たりはないかと聞かれ、色々と思い出したいぬがみさんは、ため息をつきながらとある考えに辿り着いた。
「つまり、俺ともう一度やれば気が済むんだろ?当然、負けはしないけど」
「その自信はどこから」
「まぁ、3日起きに蓮さんから貰った栄養ドリンクを飲んでいるからな」
栄養ドリンクと言う名の妖力回復薬。それが、なんの自信につながるのかは分からないけど負けはしないらしい。いぬがみさんが蓮さんからと言うところを強調したあたりかなり信頼を寄せているようにみえる。
「さっさとやって終わらせたいんだよ」
だから、人間界に行くためにこのバス停に来たけど今は運休していて、黒鬼がこっちに来るのを待っていたそうだ。
「さっさと正気に戻さないと盗られた人たちが大変だろ?」
「そうですね」
「それと、お前たちもここから離れろよ」
そうか、もうすぐここは危なくなる。でも、バスが運休している今、人間界と都会町には戻れないし、逃げるにしたってどこへ行けば良いんだろう?




