137・冷たい体 ~ソウキ~
今回は2000字以下の短いお話です
そして、三点リーダー多し!
蓮さんからあと少しでオレか萌香のどちらかの命が亡くなると聞いた。正直、自分が死ぬ感覚なんて思い付かないし、ましてや萌香までその可能性があるとか信じられない。
「一回、座らせて下さい」
萌香の提案で蓮さんやククリと言う名前の座敷童と共にレジの近くにあるテーブル付きの椅子に座る。そして、萌香は息を吐きながら白い顔で呟く。
「余命を宣告された人ってこんな感じなんだろうね」
「まだ、萌香が死ぬって決まってないだろ?」
そう言うと萌香はオレの方を見て困ったような笑みを浮かべた後、なぜか礼を言った。血の気の引いた顔にこれから、どうしたら良いのか分からないと言う表情。こんな顔はさせたくない。萌香は笑っている顔が一番だ!
「「ん?」」
ククリとオレが同時にドアの方を見た。なんだろう?今、遠くの方から2つの強い妖気がぶつかったような感じがした。いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「ククリどうしたんだい?」
「えっ、ううん!何も」
「…鬼さん?」
「気のせいだ」
見上げる萌香の呼吸が荒かったから熱かと思い額に手を乗せるけど、熱はなかった。多分、蓮さんから言われた事がショックで、やや過呼吸気味になっているんだと思う。その証拠にさっきよりも顔色が悪くなっている。
「萌香、落ち着いて深呼吸」
萌香が落ち着いたところでオレは自分に出来ることがあれば何でもすると蓮さんに伝えた。だけど、これから起きることを予想するのは簡単なようで難しいことだと言われ、オレたちは悩む。
「交通事故かもしれないし病気かもしれない、それか突然、眠るように逝ってしまうかもしれない」
「それでも、何もやらないよりかはまだマシだ」
「やるにしても、これから来る終わりに対してどう対処するか」
オレと萌香の関係が変わった時のように萌香が交通事故に会う可能性も大有り。オレは妖だから、人間よりも体の作りが丈夫に出来ていて何の問題もないけど。
「…鬼さんは……大丈夫」
今まで聞いたこともないようなか細くでも、どこか自信のある声が隣から聞こえた。その声に驚き、目を合わせると萌香はただ丸めた手を膝に置き、俯いている。
「萌香ちゃん」
「ご心配…申し訳ござい……ません。ちょっと…頭の中がパン…クしていて…追いつかない…状況でして」
「息、吸えないのか?」
「違うよ。本当に頭の中がパンクしているんだ」
荒い呼吸音に途切れ途切れの会話。俯いているから表情は分からないけど、様子から分かる。そりゃ誰しもあなたの残りの命は短いですと言われたらこうなる。だから、オレは少しでも安心出来るように丸めた萌香の右手をその上から優しく包み込む。
手は死人のように冷たく、色も生気がないように見えて一瞬、萌香は死んでしまっているのではないかと錯覚するほどだった。
「何があってもオレが守るから」
ゆっくりと顔を上げて萌香の大きく見開かれた黒い瞳がオレの目と重なる。そして、萌香はまた困った顔で礼を言った。あー、さっきからその困った顔が笑ってごまかしていた時と似ていて引っかかるんだけどな。こんな状態だからこそ深く言えない。
「死期が近いってどれくらいでしょうか?」
「うーん、そこまで僕は詳しくはないんだけど、大体、2週間後くらいかな」
「それなら」
「死期を乗り越えようってことか。確かに、回避すれば後は安心だ」
来るなら跳ね除ける。強引な考えかもしれないけれどオレはそう考えた。蓮さんから忍耐力がいるとか言われたけど、最初からそのつもりだし、オレだけで全てを回避するのも無理はあるから、カッパやいぬがみにも手伝って貰おうと思う。それに、ククリも手伝ってくれると言ってくれた。
「萌香?」
暫く蓮さんとククリと話し込んでいるとさっきから萌香が静かなことに気が付いた。相変わらず顔が俯いているせいで見えなかったけど、握っていた手を離すとオレの肩へと凭れて来た。まさか、寝ているのか?
そう思って一応、声をかけてみると案の定、反応なし。揺すっても起きはしない。部屋は暖かいのに、服越しから伝わる萌香の体温は冷たい。なんだか、嫌な感じがする。
「萌香」
死人のように冷たい体、項垂れた首。これは、どうみても寝ているんじゃなくて。
「蓮さんっ!」
「分かった」
異常事態に気付いてくれた蓮さんがククリに体を温める物を持って来るように指示する。また、蓮さんも店の奥に行って、小瓶などを抱えて戻って来た。その間にオレは椅子の近くにあるソファに萌香を寝かせる。
「一体、萌香の中で何が起きているんだ⁉︎」
目の前で横たわる萌香は何も言ってくれない。
萌香、病気ですね。
病名はあるのですが、それは次回のあとがきで載せさせて頂きます。




