134・言えない理由
ごめんなさい、今回は流血描写があります
流血じゃないけどそれに近いような描写…
今日も今日とて放課後のゴミ捨て場では土地神様と火ノ江先輩がまたも言い争いをしていました。ただ単にゴミ捨て場の近くを通ったらまた声が聞こえたから行ってみただけで深い意味はありません。
「最近はよくあのカップリングを見るなぁ」
何てぼやきながら私はまた土地神様に捕まらないうちにその場から逃げるよう下駄箱で待たせているゆいちゃんの元へと駆け出します。
カァカァカァ、カァカァカァ。
ゆいちゃんと分かれ我楽多屋のバイトへ向かう途中、カラスの鳴き声に反応して空を見上げるとそこには気持ち悪いほどカラスの集団が電線に止まっていました。
「でも、この雀バージョンなら見たことあるかも」
確か知り合いのお坊さんのお寺の近くで見たような気がする。そう言えば知り合いのお坊さんは昨年の夏の終わり頃に会っただけだよね。年賀状はもらったけど元気にしているかな?久しぶりに花魁トリオやお菊ちゃんや鈴に会いたくなって来たかも。
「でも、1月はテストもあるし学業に専念したいんだよね」
まぁ、いつでも会えるからそのうちに鬼さんと一緒に行くか。そう思いながら歩くこと数分。ようやく我楽多屋に着きました。裏口から入って蓮さんとククリちゃんに挨拶をしたらお仕事開始。
「いらっしゃませー」
常連客の優雅なおばさま3名の注文を聞き、アンティークを買いに来たお客さまにはオススメのアンティークを差し出してみたりいつも通りに仕事をします。それと、仕事を始める前、蓮さんからこの前のように夜の我楽多屋が始まる前に妖が来ないよう店の入り口に札を貼ったから安心してと言われました。
「その手がありましたか!」
蓮さんの良い案に感心しているとククリちゃんから色々な忠告を受けました。色々な忠告とは、我楽多屋の入り口付近にある指名手配ポスターに描かれている黒鬼の事でして。おねぇちゃんも襲われないようにと言ってくれたんだけど、ごめんね。私はもう被害者なんだ。
でも、妖怪界の烏天狗たちが捜しているんだからそのうちに見つかる可能性があるんじゃないのかな?それに、寿命が短くたって明日、明後日で終わる命じゃないよ……ね?
「だ、大丈夫大丈夫。まだ大丈夫」
何これ、何のフラグですか。やめてよ、嫌だよ、考えたくもない。まだ、私は鬼さんと一緒にいるんだから。
「おねぇちゃん、顔青いよ?」
「外が寒かったからね。働けばそのうちに暖かくなると思うんだ」
心の奥底では誰かがきっと黒鬼を退治して私たち被害者の寿命を取り戻して欲しいって思っている部分がある。だって、実際に私が取り返しに行っても太刀打ちできない!他力本願なのは分かってるけど。でも、どうしたら良いの?
この事は絶対に鬼さんには相談できない、相談したらきっと何が何でも取り返そうと動いて危険な域に入ってしまうから。そんなのは嫌、大事な鬼さんが危険な目に遭うのは絶対に嫌だよ。
「はぁ」
今まで幸せだった分の反動が今来ているのかな?
* * *
辛気臭い顔のまま鬼さんと会うと絶対に今日は何があったのかと心配されてしまうので、気持ちを切り替えて鬼さんの帰りを待ちます。とは言ってもマイナスからプラスに変えるのはなかなか難しくて気を抜くとどんよりとした表情になってしまう。
「ただいま」
「ふぉふぁへぃ」
「ど、どうした⁉︎」
リビングのドアから入ってきた鬼さんが驚きます。それもそのはず、なぜなら私は両手で自分の両頬をつねって変顔していたからです。これで、辛気臭い顔は消えました。その代わり痛いけど。
「顔の体操だよ。今からやらないと老化した時に頬がたるんじゃうからね」
適当な言い訳をして鬼さんをさっさとお風呂へ向かわせました。実はまだ夕飯の支度が出来ていなかったのです。ちなみに今日の夕飯はイタリアにいるお父さんから送られた荷物の中に入っていた乾麺を使ってカルボナーラを作る予定。あとは付け添えのサラダくらいかな。
鬼さんがお風呂に入っている間、私は手際良くカルボナーラのソース作りを始めます。すると、ほうれん草とベーコンを刻んでいると切っている音と共に玄関の方からドアを叩くような音が聞こえました。
「今は夜の7時、あっ分かったもしかして」
またお腹を空かせたくまさんだ!いえいえ、それは冗談としてきっとこの時間帯に来るのはお腹を空かせた大家さんだと思う。仕方が無い、大家さんの分も作るかと考えながら手を休め、エプロンを着たままドアの前に立つと、またも外からドアが叩かれる音が聞こえました。おかしいな、チャイムは壊れていないからドアを叩かなくても良いのに。
「はーい」
ドアノブを回して手前に引きます。
そして、目の前にいたのは大家さんではなく。飛頭蛮さんのように首から上が無く、私よりも身長が高くて甲冑を着た妖怪?いや、これは妖怪じゃなくて西洋の方のモンスターかも!それに、体を少し捻らせて何かの液体が入ったタライを持っている。ちょっと待って、その姿勢はまさか私に掛けようって言うわけじゃないよね?
「あ、あの」
私が声を出した瞬間、首なし騎士が動く。
「きゃっ!」
なんと、首なし騎士にタライの中の冷たい液体を頭の上から掛けられてしまいました。思わず叫び目を瞑ってしまった私が次に目を開けるともう、そこには首なし騎士はいなくて代わりに辺りは血のように真っ赤な飛沫が飛び散っていて、もう何が何だか分かりません。しかも、この赤い液体から独特な鉄の匂いがする。
「何これ」
突然現れた首なし騎士に赤い液体、いや、何かの血を頭から掛けられて、某然とする私。その時、遠くの方から凄まじい馬の鳴き声が聞こえて赤く濡れた手で耳を抑えると。今度は背後から勢い良くドアが開きました。
「萌香っ!」
振り返るとお風呂場のドアから出て来たのは上半身裸で腰にタオルを巻いた鬼さんです。
「怪我したのか⁉︎」
鬼さんの登場に少し気を許したのか私は腰を抜かし血の海にへたり込んでしまった。駆け寄ってくれた鬼さんに一応、怪我は無いと伝えましたが私自身、頭が真っ白で今はそれだけしか言えない。
「ねぇ、一体何が起きてるの」
私が呟いた言葉は目からこぼれた涙と共に赤く染まった床へと落ちていった。
* * *
次の日
私は学校が終わると黒沼池近くにある公園で鬼さんと待ち合わせをして蓮さんの元へと向かいます。実は昨日、首なし騎士に血を掛けられた後、放心状態の私はなんとか自分で正気を戻し、鬼さんと色々、話し合った結果。こう言うことに詳しそうな蓮さんに私にタライいっぱいの血を掛けた首なし騎士について聞いてみることにしたのです。
本当は昨日の夜に行くべきだったんだろうけど、昨日はそんな聞ける余裕は無くて鬼さんに言われるがままシャワーを浴びた後、話し合って夕飯も食べずに寝てしまいました。
「馬の鳴き声、首なし騎士、タライの血、うーん」
昨日の出来事を聞いてくれた蓮さんはしばらく唸った後、いつもは見ない苦虫を噛み潰したような表情で言いました。
「それは多分、デュラハンだね」
「デュラハン?」
「何それ」
「そう、デュラハンはアイルランドに伝わる妖精の一種なんだ。コシュタ・バワーって言う首なし馬の馬車に乗っていてバンシーと同様に死を予言する存在」
えっ…嘘。今、蓮さんは何て言った?
「確か、死期が近い者の住む家に訪れてその人の死期を知らせる。それで、デュラハンが戸口に立ち止まって、戸口を開けるとタライいっぱいこ血を浴びせかけられる」
心臓が締め付けられるように痛い。
「ははっ…そんなの無しでしょ」
私の嫌な予感は当たった。
ねぇ?なんであと少しなの?どうして?嫌だ、嫌だよ。上手く言葉が出てこない。出てくるのは『嫌だ』ただそれだけだった。
「死期が近い者って言うことはオレか萌香のどっちか」
違う、鬼さんじゃないよ、死期が近いのは私なんだ。どうしよう、今ここで鬼さんに黙っていたことを言うべきかな?言うべきだよね。
「…ぁ」
なんで?口が重くて開かない。私、あと少しでこの世からいなくなっちゃうんだよ!その前に手を打たないと!やりもしないで簡単に諦めるなよっ!私はまだ、生きたいんでしょ!さっき、嫌だって思ったんだろ!言えばもしかしたら希望が見える可能性だってあるかもしれないんだよ!そう、自分で強く思っても口は開かなかった。それどころか反対に閉じてしまう。
「…っ!」
あぁそうか、分かったよ、私がこの後に及んでまで言えない理由が。
私ーーーーーなんだ。
実は今回出てきたデュラハンは
36・鬼とタヌキとカッパの飲み会②で間接的に出ております
デュラハンが出てきたのはカッパのセリフの中
「そうッスね。デュラハンにドワーフ、イフリート、ケンタウロス。まだ他にもッスよ」
このセリフの中です




