133・夜の我楽多屋 ~蓮さん~
今回、101・買い物という名のデート②に出てきた。烏天狗の黒山さんが出てきます
夜の9時を少し回った頃、我楽多屋に妖怪界の警察にあたる烏天狗が来店してきた。
「いらっしゃい」
「こんばんはー!」
「どうも〜」
この烏天狗の名は黒山と言う。主な職業は妖怪界に人間が入る時に入国審査をする仕事だ。そして、仕事のサボりとしてよく我楽多屋に来ては勝手に酒を飲んだりする厄介者。でも、いぬがみ君と同様に妖怪界の出来事や色々な情報をくれたりククリや油赤子のあーちゃんと遊んでくれる良いおじさんだと僕は認識している。
「蓮さん、今日の夕方くらいこの店に何かの札を貼っただろ」
「貼ったよ」
そう、僕が貼った札は外から来た妖を我楽多屋に入れさせないようにする札。なぜなら最近、夜の我楽多屋は9時から開店なのにも関わらず夕方の6時くらいから来店する妖のお客様がいて何度注意しても出て行かないからその対処として僕が作った札を貼った。
特に昨日夕方は、なぜか妖怪界にいるはずの個性的な烏天狗たちがわんさかと店に押し入って萌香ちゃんに蒼鬼君との生活を根掘り葉掘り聞いていた。たまたま人間のお客様がいなかったからまだしもあれは完全に営業妨害だ。その事をやんわりと黒山君に伝えると。
「今、うちらは忙しいんだよ。だから、その息抜きに物珍しい人間と妖のカップルの話が聞きたくなったんじゃねぇのか」
「だからと言ってあんか大勢がここに押し寄せるのはこっちも大変なんだ。別に物を買うためなら良いんだけど」
「蓮は守銭奴〜」
ククリ、一体その言葉はどこで覚えたんだ?
その前に僕は守銭奴なんかじゃないからね。黒山君はレジの近くにあるパイプ椅子に腰掛けるとタバコを取り出し妖力を使い火を付けて一服した。
「今こっちは人間界での仕事が忙しいから多めに見てやってくれ」
「あれ?君たちの仕事は妖怪界だけじゃないのかい?」
「おいおい蓮さん。俺たちの仕事の幅は広いんだぜ」
苦笑しながら僕に問う黒山君の目の下をよく見るとうっすらと隈があった。やる時はやるけど普段、仕事をサボる黒山君が隈を作るなんて珍しい。それこそ、明日は槍でも降るんじゃないのか?
「もしかして、あれのこと?」
ククリが指さしたのは入り口のドア近くにある妖怪界での指名手配ポスター。実はこれも黒山君から渡された物。
「正解!じゃぁ、ご褒美にあめちゃんあげるよ」
「わーい」
黒山君が言うには今、烏天狗たちが総力を上げて逮捕しようとしているのは指名手配ポスターに大きく描かれたとある黒鬼らしい。なんでも、この黒鬼は霊力が強い人から寿命を次々と奪い自分の妖力を強くしているとか。
烏天狗のお偉いさんたちは最初、膨大な力に耐えきれず、すぐにくたばるかと思ってあまり重視していなかったらしいけど妖怪界によく来る人物が何人も報告しに来たのをきっかけにようやく事態が重いと判断し行動に出たらしい。
「今、日本の上の方からしらみつぶしに奴を捜し回っててよ」
「それじゃぁ、妖怪界の烏天狗が手薄になるね」
「そうならないように、こっちは人間界と妖怪界を行き来してどっちかが手薄にならないように苦労してんだよ」
ここまでに黒山君は計5本目のタバコを吸った。前までは話しながら吸っても2本くらいだったのにいつの間にかヘビースモーカーになって…余程、疲れているんだな。
「しかも、この話10月半ばからでさ」
「へぇ、10月半ばから今の今までずっと捜していたんだ。でも、まだ見つかっていないようだね」
なるほど、だから昨日はあんなにも烏天狗たちがわんさかと来店したんだ。と言うことは今、烏天狗たちが捜している地域はここら辺ってことか。いやー、最近は物騒な話が多いなぁ。
「蓮さんも霊力強いんだから気を付けろよ」
「何そのフラグ。やめてくれよ」
苦笑いで受け流すとククリからフラグについて聞かれた。説明は店に来た妖のお客から聞いたもので自分でも上手く説明出来るかどうか不安だけど、確かフラグの意味は。
「ほら、よく刑事ドラマで大きな事件の前に『この事件が終わったら俺、結婚するんだ』って言った人が最終的にはやられちゃうとか。そう言うこと」
「なるほど」
説明が下手だと思ったけどククリは分かってくれたみたいだ。これは、長年付き合っている証拠だからかな。
「大丈夫!蓮にはククリがいるから!もし悪い奴が来てもやっつけちゃうんだ」
仮面を付けたライダーのようなポーズで椅子の上に立つククリ。椅子がグラグラで安定していないから危ないよと伝えるとすぐに降りてくれた。僕の本音としてはククリには危ない事はして欲しくないんだけどね。
「あっ!それなら、おねぇちゃんにも言わないと」
「おねぇちゃん?」
「ほら、最近有名な鬼と付き合っている女の子。ここで働いているのは黒山君も知っているよね」
「あー!あの子か」
萌香ちゃんたちが知らないだけで妖怪界で萌香ちゃんと蒼鬼君は有名人なんだ。やっぱり人と妖のカップルなんて珍しいからね。中には人と付き合うなんて馬鹿げていると考える年老いた妖もいるけど大半の妖は応援してくれる。
応援してくれるという理由の中にはこれまで萌香ちゃんが数々の困った妖を助けてきたと言う実績があるのが一つ。例えば風の噂だけど住処をなくした泥田坊に新しい住居を与えたりなど、その他諸々。
「妖怪界の魚屋の猫又と仲が良いとか言う噂もあるしな」
「おねぇちゃんは猫好きだから」
「俺も烏天狗じゃなくて猫に生まれたかった」
黒山君、それは無理だよ。妖は妖、人は人。例えどんなに妖になりたくても人から妖にはなれない、その反対もそう。妖の血を飲んでも薬を作ってもダメなものはダメなんだよ。あぁ、若かりし時の自分が懐かしいな。あの時は物は試しに色々とやらかしてククリに叱られたんだっけ。今はもうやってないけど。
「猫耳ならあるよ!」
「この歳でコスプレは嫌だよ」
するとその時、ドアの入り口が開いて本日二人目の来店者がやって来た。
「いらっしゃい」
「こんばんはー!」
雪が残る1月の上旬。
今日の夜も我楽多屋は営業中している。




