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132・祖母と孫の喧嘩

夏休みとは違って冬休みは短いですね。気が付いたらもう、新学期が始まりました。


そして、学校が始まって5日目の放課後。今日は日直なので帰りに教室のゴミを校舎の裏にあるゴミ捨て場に持って行かなくてはいけません。本当はゆいちゃんも日直だけど休み明けのテストで数学と科学と英語の3教科が赤点でして。


多分今は職員室で教科担任からこっぴどくお灸を据えられているんじゃないかな?だから、私は一人でゴミが入ったサンタクロースが持つような大きな袋を引きずるように持ちながらゴミ捨て場へ歩いています。


「終わったら〜我楽多屋〜の〜バイット〜」


ゴミ捨て場の道のりには誰もいないので勝手に作った歌を歌ってのんびりと向かいました。これ、誰かに聞かれていたらもの凄く恥ずかしいよね。一応、歌には自信があるんだけどな。


足を動かすこと2分。白色の校舎のとある角を左に曲がればそこはすぐにゴミ捨て場です。あと少しで辿り着くと思い。私が角に近づいたその時。曲がり角の先から激しい言い争いの声が聞こえてきました。声色からどちらとも女の人と間違えではないのですが、この中性的な声と凛とした声、どこかで聞き覚えがある。


「もしかして」


野次馬精神が出たのか私は曲がり角から少しだけ頭を出してその言い争いの様子を覗かせてもらいます。案の定、声の主は火ノ江先輩と土地神様でした。


「大体、授業中も覗きにくるってあんたはストーカーかっ!」

「ワシは由紀子が心配だけなんじゃ」

「あんたが思ってるほど私はやわじゃない」

「知っておる。でも、最近は物騒な話が出回ってな!」

「だからって、四六時中私を監視するのはやめて」

「監視ではない!見守っているのじゃ」

「度が過ぎているのよ!はっきり言ってうざい」

「う、うざいとは。ついに由紀子が反抗期になったのか」

「何が見守っているのじゃよ!見られているこっちの側を意識して。この過保護狐(オーバープロテクション・フォックス)が!」


こ、怖っ!火ノ江先輩が何で怒っているのか分からないけど、どうやら、土地神様が火ノ江先輩の逆鱗に触れてしまったらしいのは分かる。気のせいかな?火ノ江先輩の背後では燃え盛る炎が見えるんだけど。おまけに、なんだかこっちまで熱くなって来た。


「これ、ゴミ捨て出来ない雰囲気だよね」


どうしよう、このままゴミを置いて帰るわけにもいかないし、かと言ってこの修羅場をくぐり抜ける勇気は私にはありません。それなら、修羅場が終わるまで待つか。あぁ、でもなぁ。そうすると我楽多屋のバイトに遅れるんだよね。


「どうしよう」


私が悩んでいる間にも火ノ江先輩と土地神様の修羅場は更にヒートアップ。バチバチ、バチバチ火花が散る効果音が聞こえてきます。すると、土地神様がいきなり私の方を向きました。慌てて頭を引っ込めるも土地神様が妖力か何かを使ったのかゴミを持ったままの私の体がふわりと宙に浮き、何かに引き寄せられるように火ノ江先輩と土地神様の目の前に連れ出され、その場で雑に降ろされたのです。


「痛っ」

「誰かいると思ったら小娘か」

「宮川さん?」

「あ、どうも」


修羅場中にお邪魔します。えぇ、私はさっさとゴミを捨てて退散するのでお気になさらず。ですからどうぞ、修羅場の続きをしてください。そんなことを思いつつ脱兎の如くゴミを捨ててその場から逃げ出そうとすると首根っこを土地神様に掴まれてしまいました。


「ワシは小娘のように寿命を盗られて、人よりも短い人生を由紀子には送って欲しくはないだけなのじゃ」


今の並び順は土地神様と火ノ江先輩の間に私が挟まれていて逃げ場がありません。ついでに言うなら首根っこを掴まれているので逃げるにも逃げれない。誰が助けて!鬼さーん!知り合いのお坊さーん!


「私は狙われないわ」

「由紀子は土地神(ワシ)が視えるレベルに霊力があるのだぞ!」


板挟みで話を聞いていると私の頭の中で様々なピースが組み合わさり何となく話の全貌が見えてきました。これは、私の推測だけど土地神様は今、妖怪界(むこうのせかい)で指名手配されている私の寿命を奪った鬼に警戒しているんだと思う。なんで、今なのかは知らないけど。でも、きっと何かがあったんだって…く、苦しい。


「ちょっ!土地神様、首が、息が、苦しいです」


いつの間にか首根っこを掴まれているんじゃなくて感情が高ぶった土地神様に柔道の裸絞(はだかじめ)をかけられていました。おい!私は人形じゃない、生きているんだ。そんなツッコミをしようにも出来ない。

本当に誰か助けて!


「おっ、すまん。ついな?」

「ゴホッ、ゴホッゴホッ」


何が『ついな?』じゃ!こっちは危うく三途の川が見えそうだったよ。それからと言うもの私は素早く土地神様から離れ、ささっとゴミを捨てると火ノ江先輩と土地神様にさようならと言ってその場から逃げるように離れました。


安全第一、逃げるが勝ち、そんな言葉の数々が玄関へ向かう途中、私の頭の中をぐるぐるとめまぐるしく回っていました。本当に今日は疲れたよ色々な意味で。あぁ、早く家に帰って鬼さんと一緒に過ごしたいなぁ。




夜の8時ごろ。203号室の玄関のドアが開く音がしました。そして、リビングのドアが開かれ廊下から出てきたのはいつも通りスーツ姿の鬼さんです。


「おかえりなさい」

「萌香、何があった!」


死んだ魚のような目でお湯を沸かしていますと答えたら鬼さんは私の肩を激しく揺すってきて正気を試してきました。そりゃそうだよね、学校では土地神様に裸絞を食らい、我楽多屋では夜9時から開店する夜の我楽多屋の時間でもないのに妖怪界(むこうのせかい)の警察である個性的(・・・)な烏天狗たちが突然、わんさかと我楽多屋に訪れ何を買うのでもなく、しつこく私と鬼さんの生活を聞かれ対応に困り果てるという初めての経験をしたから。


「説明は後でします。あの、鬼さん。今日は夕飯を作る気がないのでカップラーメンでも良いでしょうか?」

「口調がおかしいし。萌香、オレが何か作るから休んでいて」


鬼さんが作る料理は酷いけど今日は頼もうかな。はぁ、新年早々、こんなにも疲れるだなんて。これだったら初詣に行った火ノ江神社でおみくじを買うべきだったか。そうすれば何かが分かったのかもしれない。


「えーと、カレーには砂糖がいるんだっけ?」

「やっぱり夕飯は一緒に作りましょう」


本日2度の危機が襲来!回避せねば!

と心の中で苦笑しながら私は鬼さんと共に台所に立ち今日の出来事を話しながら夕飯を作るのでした。

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