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131・冬休みの土地神様 ~土地神様~


49・巫女と土地神様②

72・体育祭③が関係します

元旦になると土地神のワシは忙しくなる。なぜなら、ここに来る人々の願いを聞き入れるためだから。もちろん、当たり前のようだが、聞き入れる願いは選ぶ。中には脳みそが薄っぺらいバカな願いをする奴らがいるからだ。


「ほうほう」


神社の屋根から参道を見る。そして、人々が心の奥底で願った願いがワシの耳に膨大な数のなって届く。まぁ長年、土地神をやっているから一度に幾つもの願いが聞こえても聞き逃すことはない。スルーする願いもあるけど。


『お母さんの病気が治りますように』

ふむ、そうかそれなら手伝おうか。


『志望校が受かりますように』

叶えるのは最終的に自分の力だ。だから自分の力を信じて勉学に励め!


『彼女が欲しいッス!出来るなら嫁さんみたいな料理が上手くて心優しい可愛くて健気な彼女が良いッス。もし、願いが叶…』

そんな願いどうでも良いし、人間じゃなくて気持ち悪いカッパの願いだからスルー。いや、そもそも高望みした願いは聞く価値なし。


屋根の上であぐらをかき、膝に片肘を乗せて顎をつく。ついでにワシの仕事は絵馬に書かれた願いを叶えることもある。はぁ、これだから元旦は忙しいな。そう思いながら参道の人だかりをぼんやりと見ていると。


『鬼さんにとって今年も良い一年でありますように』


聞き覚えのある声がワシの耳に届いた。それと同時に屋根から顔を覗かせて真下を向くと見覚えのある小柄な背中が見えたではないか。目線だけで後ろ姿を追うと小娘の隣には人ではない何かがいる。目を凝らしてよく見ると小娘と何かの後ろを由紀子が追っていた。


「おっ、今度は由紀子と出会ったか」


由紀子と何かを話しているのが気になったからワシは耳を澄ますものの老化したのか全く聞こえん。ちっ!全く、これだから老化は嫌なんじゃよ。妖力さえあれはもっと若く、力もついて元旦に願う人々の願いを一日で叶え、面倒くさい仕事が一気に終わ…って、いかんいかん。


「妖力についてはもう二度と口にするなと言われたのじゃった」


妖力を上げるためには土地神様レベルが視える霊力が強い人間から寿命をもらう。過去にワシは小娘にそんな様な事をして由紀子に大目玉を食らったな。おおっ、思い出しただけで寒気がしたぞ。


「聞こえないなら行くか」


ワシは屋根の上から瞬間移動し、由紀子の真上に辿り着くとようやく声が聞こえた。それと、同時に小娘の隣にいたのは一匹の鬼で、なんと付き合っているという話まで聞こえた。


「小娘!お前、異類婚姻譚(いるいこんいんたん)なのか!」


言葉のチョイスがややおかしいとおもったが、それは置いといて。ワシは由紀子の学校の体育祭の時に小娘に好意を抱いていたガキについて聞いてみると首を傾げられた。


うっ、くそ。しかも、なんじゃ互いに指を絡めた手まで見せつけて、こいつらを見ていると砂糖菓子よりも甘く気持ち悪くなって来たわいっ!だから、ワシはふらりとその場から立ち去りまた屋根の上に戻る。


「あの小娘、一体何者じゃ?」


と、その前に確かあいつは人よりも命が短かったはず、それなのに命が長い妖と付き合っていてるとは。ワシの時でも短く感じたのに、これでは、一緒にいる時間が余計に少ないだろう。


「ワシにもっと妖力があれば寿命の事はなんとか出来たのかもしれんな」


例えば奪った本人を捜し捕まえてブチのめして、妖力もとい寿命を取り上げる。今のワシの妖力では奪った本人を捜す事も困難に近いだろうな。


「って、いつの間にワシは小娘に感情移入してしまったのか⁉︎」


やはり、ワシと似たように妖と付き合っているからかのぅ?




* * *




そして、時間は過ぎ今は夜の10時ごろ。

この時間帯になると雪は止み、朝よりも参拝客は少なくなり今ではワシの神社に火ノ江家を除いて誰一人としていない。さて、人がいないと人間観察も出来ないし暇だから絵馬でも見るか。そして、叶える願いを選別っと。


「ふむ、家庭円満?それはお前の心掛け次第だろう」


その隣を見るとまた志望校が受かりますようにと書かれてある絵馬を見た。やはり、元旦の絵馬のほとんどは受験生の願いで埋まっている。


『妻が無事に子供を出産出来ますように』

大丈夫、お前の妻は無事に子を産み落せる。なんせ、土地神が見守っているからな。


『社員全員、健康でありますように』

ほぉ、こやつは自分ではなく他人を気遣うのか。ん?この絵馬からは妖の匂いがするぞ、これはタヌキ?まぁ、そんな事はどうでも良いか。


『正月太りをなんとかして欲しい』

知るか!じゃぁそれは自分の手でなんとかしろ!


ワシが絵馬を見て一人でにツッコミを入れていると後ろから足音が聞こえた。振り返ると、そこには案の定、由紀子が見える。そして、ワシの隣に並び立つとワシと同じく手近にあった絵馬を見て眉をしかめていた。


「アホな願いもあるわね」

「アホだと思っても本人からすれば本気だったりするかもしれん。だから、人の願いにそんなことを言うな」


自分の事は棚にあげて言った。すると流石、由紀子。すぐにワシが自分の事を棚にあげて言ったのを指摘された。ぐうの音も言えん。いや、本当は言えるのだが由紀子はワシの孫みたいだし何かと強く言えないのが本音じゃ。


「願いねぇ」

「由紀子もあるのか?それなら土地神のワシが叶えそうぞ!」


腰に手を当てて胸を張ると由紀子は冷めた目でワシを見てきた。やめてくれ、孫にそんな目で見られるのは嫌なのじゃよ。


「願いならあるけど」

「おおっ!なんじゃなんじゃ」


そして、冷めた目から温かみのある柔和な目となり由紀子は言う。


「自分の願いは人に言わず、自分の手で叶えるから。だから、あなたの力なんか要らないわ」


一見、突っぱねた言い方にも聞こえるが由紀子が柔和に微笑んだせいもあってかツンケンとした言い方には聞こえない。むしろ反対に由紀子らしい答えだと思った。


「流石、ワシの自慢の孫じゃ」

「どうも」


あぁっ!頭を撫でようとしたら払い除けられてしまった。ワシ、ショックだぞ。落ち込むワシを見た由紀子は悪戯っ子のように笑い、とても子供らしいとワシは心の奥底で感じていた。


人の命は短い。

ワシの願いは時間の許す限りで良いからワシの大事な孫である由紀子と一緒に過ごすこと。よし、ワシも絵馬に書いておこうか。

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