13・鬼の抱き枕と映画
前半のお話は甘さを入れたつもりですが
これは、甘いの・・・かな?
甘さが変な方向に行った気がする(>_<)
キィーと静かに部屋のドアが開くと鬼さんが入ってきました。その音で目を覚ます私。そうだ、今日は土曜日、鬼さんが朝帰りの日だったね。それにしても今日は静かに入ってきたな。いつもならもう少し音を立てて入ってくるのに、今日はあまり酔ってないのかな?
私、お得意の薄目で見よう作戦で鬼さんの行動を観察していると、ベッドの隣、しかも横向きに寝ている私の顔の前にしゃがみ込みました。薄目がバレないと思うけど一応、閉じておこう。
目を閉じてから数秒後。人差し指で左頬をつんつん、と突っつかれ、そのまま、左頬から顎の真ん中までの輪郭を撫でられた。くすぐったい、これはかなりくすぐったいけど、我慢だ。というか鬼さんは何がしたいの?もしかして、私で遊んでるとか。
気になってバレないよう薄目にすると、ベッドに置いた左腕の上に顎を乗せ、潤んだ瞳でこちらを見上げていました。
どうした、どうした、いつもと違うぞ。なんというか、憂いを帯びた顔付き。その、鬼さんの色気が100%引き出されていた表情は普段は見ない顔で。一瞬、ドキッとしてしまった。
って、うわぁぁ。何、変なことを考えているのだ私は、頭を冷やせ!クールイズビューティー。あれ?わけのわからない単語が出てきたぞ。
このままではダメだ。落ち着かない。一旦、脳会議をするので目を閉じよう。
A萌香「宮川 萌香、只今どういう状況ですか?」
B萌香「いつも見ない鬼さんの表情にドキドキ、クラクラしてます」
C萌香「惚れた?」
A萌香「惚れてはいない、断じて惚れてはいない」
C萌香「だよねー」
B萌香「でも、頭の中はパニックになってるよ?」
と、ここで鬼さんの人差し指に動きがありました。顎の頂点に置いてあった指が、私の左斜めに登り、下唇の端に触れて止まった。そのまま上唇から下唇の順に優しく撫でられる。
「んぅ」
メーデー、メーデーっ!流石に限界、白旗です。くすぐったさもあるし、何より恥ずかしい。
とにかく、寝返りを打って鬼さんに背を向けました。今の私にはこれくらいしか思いつきません、本当に今日の鬼さんは一体どうしたの?まさか飲み会で嫌なことがあったとか。
「はぁ」
背後で鬼さんのため息が聞こえてきます。そのまま流れる動作で私のベッドに入ってきました。背後に気配と体温を感じます。えっ、体温?これって、くっ付いてるよね。いつもならベッド入って来ても、こんなに密着はしないはずなのに。
「僕のこと視えたらいいのに」
憂いを帯びた予想外の言葉が聞こえて驚きのあまり目が覚めました。ぱっちりです。そして、寝たままの状態で後ろからギュッと抱き締められて、抱き枕にされました。
耳を澄ますと規則正しい寝息。どうやら寝てしまったようです。
いつもなら、鬼さんがベッドに入ってきたら、暑苦しいので何が何でも床に落とすけど、さっきの言葉を聞いたら、落とすにも落とせないな。
それに、動くにも動けないし、今日くらいは、このままで良いよね。
私は頭を冷やすついでに、もう一度目を閉じて眠りにつきました。
* * *
目覚ましの音で目を覚ますと、隣いた鬼さんはいません。おかしいな、今日は床に落としてないはずなのに、辺りを見回すと床に点々とよだれの痕跡が見られます。
その痕跡を追って辿り着いた先にはキッチンと食器棚の間にある床で気持ち良さそうに寝ている鬼さんがいました。
「寝相悪っ!」
思わず大声で口に出しちゃった。大声だったから鬼さんは起きたと思いきや、全くその気配なし。セーフ、気持ち良さそうに寝ている人を起こす時って少し罪悪感が湧くよね。この場合は『人』じゃなくて『鬼』だけど。
さてさて、鬼さんの観察はここまでにして、洗面所で顔を洗い、私は昨日の夜に作っておいた今日の朝ごはんである、サンドイッチを食べて、歯磨きをしてから、クローゼットに手を伸ばしました。今日、着る服は部屋着じゃなくて、少し見栄えの良い洋服。
実は今日、ゆいちゃんと一緒に映画を見に行く予定なのです!だから、土曜日なのに目覚ましを掛けて起きたんだ。もちろん、待ち合わせ時間に遅れないように。
そして、私がクローゼットから選んだ服は、英語のロゴが入った白いTシャツにサックスブルーの薄いブラウスと膝上までの白いスカート、見た目が爽やかで涼しそうだから、気に入ってる。
よしっ、携帯、お財布、家の鍵、ハンカチと必要な物を持って出発。
これから私が行く映画館は、西にあるネオン街を電車で通り越して、駅から歩いて5分の場合にある大型ショッピングモールの2階。ゆいちゃんとは現地で集合です。
「もえちゃん、おはよう」
「おはよう。着くの早かったね」
「ううん!そんなことないよ?私も今、来たところなんだ」
ゆいちゃんの守護霊さんが言ってます。待ち合わせ時間の30分前に着いた、と。今は待ち合わせ時間の15分前、本当にゆいちゃんは優しい子だよ、そんな嘘付かなくてもいいのに。
「もえちゃんは、ポップコーンの味は塩派?キャラメル派?それとも、チュロス派?」
「私は、キャラメルだよ。チュロスも良いね」
「チュロスはね。味が2種類あって、味噌カツ味と手羽先味があるみたいなの」
「味噌カツと手羽先!」
そんなチュロスがこの世にあったとは、驚きです。そんなこんなで映画館に着きました。朝の10前からなのに映画館は人で溢れ返ってます。今日見る映画は、夏といえばホラー、と言うわけでホラー映画なのです!
いつも本物を見ている私からすれば、映画の中に出てくる幽霊は可愛いもんですよ。それに、ゆいちゃんが勧めてくれたホラー映画なので楽しみ。
チケットを2人分、買おうとすると、受付のお姉さんがあることを話してくれた。
「本日は姉妹DAYとなっております。」
「姉妹DAYって何ですか?」
ゆいちゃんの質問に丁寧に答えてくれる受付のお姉さん。きっと、家族割りの姉妹バージョンかな。それと、何でここで姉妹という単語が出てくるの?
「姉妹で映画を見ると、料金が少し安くなる事です」
「初めて聞いたかも」
「では、姉妹DAYの料金をご利用になられますか?」
確かに料金が少し安くなるのは良いことだけど、私とゆいちゃんは姉妹じゃなくて、友達。ここは正直に言おうかな。
「いえ、私は」
「姉妹DAY、お願いしますっ!」
私の声を遮ってゆいちゃんは姉妹DAYを頼ん頼んだ。
「えっ、でも」
「いーの、いーの」
「ふふっ、可愛い妹さんですね?小学生ですか?」
受付のお姉さんが私に向かって話した。まさか私が妹に見えたのか!隣に立っている、ゆいちゃんと自分の身長を見比べて見ると、確かに、大きな差がありました。ゆいちゃんはヒールを履いているから大きく見えるんだよね?そうだよな?
確かめるように、ゆいちゃんの足元をちらっと見たけど、ヒールじゃなくて踵が低い靴を履いていた。
うぅ、身長が低いからって小学生はないでしょ?それに、踵が低い靴を履いても身長が高いって、それはチートだよ!身長が低くて悩んでいる子にしたら羨ましいんだー!
「私達、姉妹に見えたんだね」
語尾に音符が付きそうなくらいテンションMAXのゆいちゃん。そんなことを言ったのはチケットを買って、ポップコーンとチュロスも買ってから、スクリーンよりも少し離れた場所に座ってからでした。辺りには人がいません、私達2人だけです。
「それって、姉妹に見える程、仲が良さように見えたってことだよね?だからあの時、姉妹DAYを頼んだんだ」
その眩しい笑顔を見たら身長の事なんて吹っ飛びました。
「そうだったのか!」
「うん」
その時、辺りが暗くなりスクリーンに映画の予告が流れ始めました。もうそろそろ始まるかな。
「もえちゃん、怖かったら私のところにおいで、おねぇちゃんが慰めてあげるよ」
「おねぇちゃんって」
両手を広げるゆいちゃんはキラキラと輝いていました。




