128・大晦日
窓の外は雪が降り、屋根や地面全てを真っ白に染めている。そして今、私たちはコタツでぬくぬくしながら紅組と白組に分かれて歌う大晦日、恒例の歌番組を見ていた。
「コタツって良いよね」
このコタツはつい、2〜3日前、鬼さんと一緒に妖怪界へお正月用品の買い忘れた物を買いに行った時、田舎町の大通りで行われていた福引で私が当てたコタツ。だから、今はいつも使っている簡易テーブルは部屋の隅でお休み中。
もう、かれこれ、何回も妖怪界に行っているから帰りの空飛ぶバスには乗り慣れた。いや、今のは嘘。やっぱり、高所恐怖症の私は、まだちょっとだけ怖いかな。
「萌香、肩まで入ってると風邪引くぞ」
「大丈夫、大丈夫」
鬼さんはコタツに足を入れてテーブルの上でみかんを食べています。一方、私は体を丸めコタツに肩まで入って横になりながら歌番組を見ている。こういう時って、小柄だとコタツの中にすっぽり入ることが出来るから身長が高い人よりかは有利だよね。ふふ、小柄に生まれて良かったぁ〜。
「コタツって人をダメにする兵器だよな」
「人をじゃなくて妖怪もでしょ」
テレビを見ながら鬼さんと喋る。あぁ、このままだと寝そう。でも、起きなきゃダメだ。だって、年越しは必ずテレビの中の人と一緒にカウントダウンをするのが小さい頃からのお決まりで、私が知り合いのお坊さんのお寺にいた時も様々な妖怪と一緒に年越し蕎麦を食べながらカウントダウンしていた。
「年越しまで後1時間、頑張るぞっおー!」
「いつもならこの時間帯は寝てるのに。無理はするなよ」
「してないよ」
今回、年越し蕎麦は無し。ただ単に作るのが面倒くさかったからなんて言えない。それに、鬼さんは蕎麦よりもうどん派だから。まぁ、そんな私が勝手に作った嘘は置いておいて。
「今年は色々な出来事があり過ぎて一年が早かったよ」
「特に萌香との関係が変わってからはな」
「そうだね」
体をテレビの方から鬼さんの方にコロンっと動かして見上げると口元に皮が向かれたみかんが差し出されました。これは、食べろと言っているご様子。
「あーん」
なんだか、餌付けされているみたいだけどコタツの暖かいせいか私が眠いせいか、思考はほぼ停止しつつあり考えるのがどうでも良くなった。
「きっと萌香に出会っていなければ今みたいに恋することもなく12月の寒い外を出回っていたんだろうな」
「改めて急にどうしたの?」
「萌香のあーんが可愛くて見惚れてたら、ふとそんな事を思ったんだ」
「あぁ、ソウデスカ」
「片言が冷たいよ!」
「あらあら〜」
確かに私も203号室に鬼さんがいなければ今頃、別の人を好きになるっていう運命を辿っていたのかな?どんな運命か知らないけど、もしかしたら、修学旅行の時、委員長からの告白を受け入れていたかもしれない。
「あれ?そう言えば、なんで、鬼さんは元々203号室にいたの?」
唐突にそんな質問を投げかけてみました。すると、鬼さんから返ってきた答えはなんと!
「萌香と出会うため」
答えに躊躇うことはなく即答でした。しかも、鬼さんは嘘をつくとき、目が泳ぐけど今はしっかりと私を見据えているので、これは本当のことだと思う。でも、流石に私に出会うためにこの部屋にいたっていうのはおかしいよね。だから、まだ何かを隠しているような気がする。
「本当は?」
私はお腹の力だけで起き上がると、テーブルに突っ伏すような形で鬼さんの方を向き、聞きます。
「昔、長旅をしていてちょっと休憩がてらにここで寝ていたんだ。そしたら、いつの間にか月日が経ってて気が付いたら八幡荘が建ってた」
人と妖怪の流れる時間は違う。だから、鬼さんのちょっとは私たちにとっては何年という感じなんだろうな。そんなことを思いながら私は鬼さんの話の続きを待ちました。
「その頃の八幡荘は結構な人数がここで暮らしていたんだ」
「そうなんだ。あっそうか、人間の暮らしが気になって覗いていたのね。だから、ここに居座っている時に前の住人に封印されちゃったのか」
「人間の暮らしが気になったのは合ってるけどそれ以外は違うかな」
人の話は最後まで聞こう。なんでも、鬼さんは江戸時代の長屋のような八幡荘をえらく気に入ったらしく、しかも、そこに住んでいた住人が個性的で面白かったそうです。だから、鬼さんはいつまでも見ていたいという気持ちでこの八幡荘に居続けた。たまに人を驚かしては反応を見たり、去り行く住人を視えない他の住人と一緒に見送ったり。
「そんなことがあったんだ」
しかし、八幡荘も月日を重ねるごとに住人は次第に減り、鬼さんが別のところに移動しようかと悩んでいた頃。久しぶりに203号室に住人がやってきたのです。この人が多分、私の前に住んでいた住人さんだと思う。
「久しぶりの住人が嬉しくて羽目を外し過ぎちゃって色々、驚かしたんだ」
「そう、昔のノリでやったら、逆に怖がられて」
個性的なメンバーがいた時は怖がらしても、どこか楽しそうな感じでいたのに。と鬼さんはぼやいています。そりゃそうだ、怖がらせる時は相手を選びなさい。
「封印された」
鬼さんが最後のミカンを口に放り投げてお話は終わった。理由を知れた私はもう一度、コタツの中に肩まで入り横になります。目の前には白い壁の天井が見える。
今、鬼さんの話を聞いて思ったのはもしかして鬼さんは人と一緒に暮らしたかったんじゃないのかな?
これはあくまでも私の考えだけどね。
「萌香、カウントダウン始まるよ」
「見る!」
おっと、気が付いたらもうこんな時間。私はまた起き上がって鬼さんと一緒にテレビを見ます。そして、とある番組の司会者と観客席の人達が一斉にカウントダウンを始めました。それに、続き私たちもカウントダウンします。
「「5、4、3、2…1」」
ハッピーニューイヤー!
部屋の時計の針が12時59分から1月1日、0時に変わりました。そして、私は鬼さんに向かってお決まりのセリフを言います。もちろん、鬼さんも。
「「あけましておめでとう」」
今年の年越しは大切な人と過ごせた、そんな素敵な年越しとなりました。




