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126・メリークリスマス

今回は萌香が住む八幡荘の大家さんが珍しく出て来ます。

12月25日はクリスマス。テレビでも町でもお祭り騒ぎ。そして、私が暮らす火ノ江町の商店街や火ノ江神社、様々なところが各自イルミネーションされていてとても綺麗です。そんな素敵な朝。


あいにく、クリスマスイブは和菓子屋二階堂のバイトがお休みでも午後から我楽多屋でバイトがあり、しかも、鬼さんも仕事があったから、昨日はいつもと同じ生活をしていました。


「クリスマスなのに」

「でも、早く帰れるんでしょ」


案の定、クリスマスも鬼さんは仕事です。でも、少しだけ違うのは帰りが少し早いこと。そんな、朝から仕事に行きたくないとぼやく鬼さんに喝を入れて玄関で送り出しました。


かく言う私もクリスマスイブと同じで午後から我楽多屋のバイトがあります。昨日の午前中はお休みだったからクリスマスの料理の買い出しや大掃除をしたりと結構大変でした。さて、今日はまだ水周りの掃除が残っているから、さっさと片付けて終わらせますか。


「今日はお家でクリスマスパーティーかな」


台所のシンクを綺麗にしながら今晩の料理を考えていました。それと、実は。本当は今日、あやのちゃん、ゆいちゃん、めいちゃん、ほのかちゃんと一緒にクリスマスパーティーをする予定だったけど、あやのちゃんは家の手伝いでめいちゃんとほのかちゃんは部活、ゆいちゃんは冬休み前のテストの成績が酷かったので塾漬け、と言うことでクリスマスパーティーは無くなってしまいました。別の機会にやろうかと話したけどみんなの予定が合わず断念。


「師走は忙しいねー」


独り言を言いながら台所の換気扇も掃除していると、家のチャイムが鳴りました。現在、もうすぐ昼の11時。こんな時間に誰かなと思いドアを開けると、そこにはお久しぶりの大家さんがいたのです!


「大家さん!お久しぶりです」

「久しぶりだね」


まともに会話をしたのが夏の頃。秋に入ると大家さんの姿を一切見なくなり、存在を忘れていたと言うか。はい、ごめんなさい。鬼さんや学校の事やその他諸々で大家さんを忘れていました。


「その格好は大掃除してたのかな?」

「はい」


あれ?ふと思った疑問、夏に見た時の大家さんは少し太っていたけど今の大家さんはお腹がへこんでいてちょっとスリムです。私の目線が大家さんのお腹に行っていたのか大家さんは笑いながら答えてくれました。


「40代のタヌキ腹が嫌で鍛えたんだ」

「あー、確かにぽっこりと出ますもんね」


そう言えば大家さんとお父さんの歳は近かったはず。もしかして、今度、お父さんと会ったらお父さんはタヌキ腹でした!って事になるのかな。いやいや、お父さんは私と似て食べても太らない体質だからタヌキ腹って言う、可能性はないか。


「あっ、それで用事があってここに来たのでしょう?」

「あぁ、実はな」


大家さんが私の部屋に来た理由は至極簡単。ただ単に大家さんの部屋の大掃除を手伝って欲しいとこのと。他の住人にも声を掛けてみたらと提案したけど、どうやら、外出中らしくて頼めなかったそうです。


「じゃぁ、あと15分ほどで私の部屋の大掃除が終わるのでそしたら、大家さんの部屋に行きますね」

「萌香ちゃんありがとう」


特に断る理由もない私はバイトがあるので午前中しか手伝えないと大家さんに伝えてから、15分後、逃げずにちゃんと大家さんの部屋に行きました。


そして、全てが終わったその後。


大家さんのお部屋は酷かった。掃除を終えた私の感想はただそれだけ。何が酷かったのかは心の中に閉まっておこう。それと、我楽多屋のバイトも半分は大掃除でもう半分は蓮さんの新しい薬作りのお手伝いでした。だから、今日の我楽多屋の営業はお休みです。


薬作りの手伝いは、まるで魔法使いの助手をやっている感じがしてククリちゃんと共に楽しんでいました。石臼でゴリゴリと何かの実をすり潰したり透明で綺麗な液体を入れたり。何の薬かは教えてくれませんでしたが、どうやら、いぬがみさんの依頼だそうです。


いぬがみさんの事だからきっとまた栄養ドリンクの新種かなと考えて今日の我楽多屋のバイトは終了。


「淡々とした一日だったなぁ」


鬼さんが帰ってくる1時間前、私はテレビを見ながら夕飯のシチューを作っていました。クリスマスケーキは鬼さんが買って帰って来るそうなので、私が買わなくてもよし。すると、テレビから楽しそうな声が聞こえてきました。


『街ではカップルが続々とツリーの前にいます。いやー、今日は熱いですね』


どうやら、ニュースのクリスマス特集でリポーターさんがとある街にあるクリスマスツリーの前でいちゃいちゃしているカップルに突撃インタビューをしていました。


「よし、完成」


シチューは完成。その他に揚げ物をする予定だけど、それは熱々で食べたいから鬼さんが帰って来てから作ろう。そう思いながらシチューの火を止めエプロンを外した時、玄関が勢い良く開き、鬼さんのただいまの声が聞こえてきたのです。


「おかえり、帰る時間早かったね」


息を切らして帰ってきた鬼さんは大きく深呼吸して、落ち着いてから私に話しかけました。こんなに慌てているから一体何事かと思い不安になりながらも鬼さんの言葉を待ちます。もしかして、嫌なニュースとかじゃないよね?

そして。


「萌香、今からクリスマスデートしよ」

「突然ですね!」


悪いニュースじゃ無くて良かったけどさ。エプロンを片手に持った私はつい、大声でツッコミを入れてしまいました。




* * *




何はともあれ私は慌ててクローゼットの中から背中の腰に大きなリボンが付いた薄茶色のコートを羽織って玄関で待ってくれている鬼さんの元へ向かいます。もちろん、203号室を出る時は鍵はちゃんと閉めないとね。


「それで、今からどこに行くの?」


クリスマスデートと言われても火ノ江町にはデートスポットなんてないから、妖怪界(むこうのせかい)に行くのかなと考えていると、どうやら違ったらしい。


妖怪界(むこうのせかい)じゃなくて火ノ江町の中だけど、ここから遠いから。はい」


はい?すると、鬼さんが屈み私が宙に浮きました。なんてことはない、これはいわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。いつもは膝抱っこだから、久しぶりにお姫様抱っこをやられるとなんだか恥ずかしいと言うか照れると言うか。


「他所から見れば、玄関先で何をしているんだって言われそう」

「そうかな?じゃぁ行こうか」

「えっ、このままって事は」


鬼さんが両脚に力を込めると、斜め前方向に飛びました。鬼の身体能力は人間の何倍で屋根と屋根を飛び越えることが出来るのです。って、今はそうじゃなくて!


「高いよ!」


現在、鬼さんは他所のお家の屋根を足場にしてぴょんぴょんとウサギのように飛びながらどこかへと移動しています。そう、トランポリンで跳ねているかのように軽々と私を抱えて飛んでいるのです。当然、私は鬼さんの胸に顔を押し付けて下を見ないように努力をしていました。


「飛ぶ必要あるの〜?」

「あるよ。ほら萌香、下見てみなよ。イルミネーションが綺麗だ」

「鬼さん、私は高い所から下を見ることは出来ないんだよ」


体で揺れるのを感じながら下を見ずに耐えること多分、約3分。揺れがおさまり鬼さんから目を開けても良いよと言われ目を開くと、そこは、森の中でした。辺りには電気類は一切なく、夜の暗い森はより一層、不気味さを増しています。


「暗くてよく見えないけど、月明かりで薄っすら見えるね」

「だろ?」

「それと、ここはどこ?」

「火ノ江神社の裏山のてっぺん辺りだよ」


そうなんだ。目を開けてなかったから分からなかったよ。私が驚いていると月明かりに照らされた鬼さんが手を差し出してきました。もちろん、私は手を取ります。手を繋いだら当たり前のように指を絡めて鬼さんに寄り添いながら歩き出しました。


「ねぇ、山に何かあるの?

「あと少しだから、待ってて」


唇に人差し指を当てて悪戯っ子のように笑う鬼さんに私は頷きました。そう言われると、すごく気になる、山だからなんだろう?これから何か起こるのかな?なんていうわくわく感が溢れてきます。


「あれ?こんな所に休憩場があったんだ」

「休憩場じゃなくて展望台だよ」


辿り着いた先には開けた小さな土地に古びた木製の屋根付きの展望台がありました。もう、何年も使われていないのが柱に蔦が生えているけど、それがまた良い感じに味を出していて、不気味な感じは出ていません。


「うわ〜!」


展望台に近づくに連れ、鬼さんがなんでここに私を連れてきたのかという理由が分かりました。私は鬼さんと一緒に、展望台の下に落ちないように作られている鉄製の柵にしっかりと捕まりながら火ノ江町の夜景を見ました。


「綺麗!」


町ではイルミネーションを行っているのでその明かりが山の上から見るとキラキラと輝く宝石箱のように見えます。赤色や白色や黄色に青色、ピンク色。しかも、鬼さんと2人きりと言うナイスシチュエーション!


「町にあるクリスマスツリーにしようかと思ったけど、こっちの方が良いかなっと思ってさ」

「うん!ソウキありがとう」


照れくさそうに笑いながら肩を竦める鬼さん。あっ、それと今、思わず鬼さんじゃなくてソウキって呼んじゃった。でも、良いよね。


「それにしてもよく知ってるね」

「クリスマスツリーだと周りがいるし、萌香と2人きりになりたかったから」


火ノ江町内で静かで綺麗な夜景が見える場所を探していたらここを見つけた。と鬼さんが言いました。珍しく、今回は鬼さんの方が顔が赤いです。


「ソウキ大好き」


衝動的にぎゅーっと鬼さんの腰に抱きついてしまいました。本当はもっと身長があれば鬼さんの胸に顔をうずめられるのにな。すると、鬼さんも私の背中を優しく包み込みます。


「オレも好きだよ」


顔を上げると鬼さんと目が合い、お互いに微笑みます。少し照れくさいような幸せな気分で、このまま時間が止まれば良いのになと本当に思いました。と、その時。私の鼻先に白くて冷たい何かが当たったのです。


「雪?」


鬼さんと共に空を見上げるとちらほらと雪が舞い降りて来ました。これは、まさに。


「「ホワイトクリスマス」」


タイミングが被った!ただそれだけなのにお互いに笑いあえる。こんな素敵なクリスマスを過ごしたのは生まれて初めてです!






ーソウキありがとうー

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