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125・タヌキとカッパの飲み会⑥

ここは、妖怪界にある人ならざる者が集うネオン街の片隅。つまり幽霊や妖怪たちがわんさかいる歓楽街、そこにある『遊楽亭』という居酒屋で、いぬがみコーポレーションと言う会社の創始者である子ダヌキのいぬがみ (今は人間の姿)と、話し方が体育会系のカッパがカウンターで愚痴を吐きながら酒を飲んでいました。


「リア充なんて爆発しろッス!」


現在、居酒屋『遊楽亭』はお客が混み合う時間帯でカウンターにはいぬがみとカッパの他に様々な妖が集う。だがしかし、今日に限ってはお客が少ない。なぜならば、今日はクリスマスだからだ。


「イヴの日から人間界(むこうのせかい)でも妖怪界(こっちのせかい)でも、街じゃぁ、カップルがいちゃいちゃしやがって。けっ!どうせワシには関係ないイベントッスけどね!」


ダンッ!と梅酒が入った一升瓶をカウンターに叩きつけていぬがみに問うカッパの顔はもう既に出来上がっている状態でとても面倒くさいといぬがみは思う。だから、いぬがみは敢えて黙り放置し焼酎を煽る。


「しかし、一体あのイベントは本当に何なんッスか⁉︎あれは嫌がらせにしか思えないッス。そう、あれは勝ち組と負け組をはっきりさせて勝ち組が優越感に浸ると言う腹黒いイベントなんッスよ!いぬがみさん!思い出してみるッス、ほら、ここに来る前も口裂け女と一つ目のカップルが手を絡めていちゃいちゃしていたッスよね。あの時の一つ目の目!ワシらを優越感に浸った感じと哀れみの目でワシらを見てたッス!めっちゃ馬鹿にしてぇい!」


弾丸のように喋るカッパの声をBGMにいぬがみは店主に注文していた。そして、出されたのは揚げたてのカツだった。見た感じから熱々でサクサクに揚げられたカツは見る者の胃を刺激し、食欲を促進するのである。


「美味いです」

「サービスだ」


今日はクリスマスによりお客が少ないため、いつも慌ただしく動いている店主には余裕がある。だから、常連客のサービスの一環としていぬがみにカキフライを出した。


「焼酎に合いますね」

「あぁ」


タルタルソースに付けてカキフライを食べるいぬがみと店主が目の前で料理している間にもカッパの愚痴は勢い良く流れる滝のようにくちばしから出る。

それは、もう可哀想なくらいに。


「何が悲しくて男2人、いぬがみさんと飲まなきゃならないんッスか〜」

「今日飲むって誘って来たのはお前の方だろ!」


実は今日の飲み会の予定は元々無かったのだが、数時間前、突然カッパがやけ酒だと言いながら誘って来たのである。別に断る理由もない、いぬがみは当然、断らなかった。


「今日はこの店にもお客が少ないッスし、街ではクリスマスツリーの前でカップルがきゃっきゃうふふラブラブランデブーッス」


謎の単語を並べてどこか遠い目をしたカッパにいぬがみと店主は哀れみの目を向ける。


「それに、ソウキさん。今日も来てないッス。どうせ、ソウキさんも嫁さんと一緒にクリスマスツリーを見てるんッスよ。どーせ、どーせ。けっ!」


黄色いくちばしを更に尖らせて子供のように呟くカッパ。そんなぐちぐちネチネチとした態度に痺れを切らしたいぬがみはため息をついて思ったことを口にした。


「カップルを羨ましく思うなら、お前は彼女が出来る努力をしたのか?」

「もちろんしたッスよ!かわいいカッパの女の子や麗しいお姉まさまに求婚して。最近、流行りの壁ドンも両肘ドンも蝉ドンもいっぱいしたッス」


蝉ドンの意味を知っているいぬがみは驚きのあまり持っていた箸を落とす。そして、なぜか求婚した相手に引かれてしまったんッス。と、ぼやくカッパに頭を抱えた。その前にどうして蝉ドンする羽目になったのかとツッコミたかったが呆れて物も言えなかった。


「いぬがみさんは羨ましいと思わないんッスか?」

「はぁ〜。俺はな、お前みたいに捻くれてねぇんだ」

「本当ッスか〜。そう言って本心では羨ましいーとか思ったり」


しつこいカッパの皿にいぬがみの鉄拳が入る。そして、何食わぬ顔でカキフライを食べながら話し出す。


「まぁ、流石にいちゃつくのは場所を考えて欲しい時もあるが、俺は基本、暖かい目で見る派なんだけどな」


懐の大きさが自分よりも深いと知ったカッパの目は次第に潤んでいき、最終的には。


「いぬがみさんの裏切り者ー!」


まるで、彼氏の浮気現場を見てしまった女のようにカッパはその場から駆け出し、店の外へ出て行ってしまった。一人残されたいぬがみはそんなカッパの背中を見送り、またため息をつく。


「どうせあいつ、カッパの姿で壁ドンしたな」

「いぬがみさん、壁ドンってなんですか?」


質問したのは居酒屋『遊楽亭』の店主である手長。そんな店主にいぬがみは懇切丁寧に壁ドンの意味を解説する。ついでに、蝉ドンも。すると、店主はとある事を口に出す。


「まぁ、そんなにため息ついてると幸せが逃げる。とりあえず、今日は客が少ないんでメニューに無い食べ物で何かありましたら作りますよ」

「ありがとうございます」


店の中にはいぬがみを含めて白髪の妖狐と赤色のフードを深く被り口元しか見えない謎の女がいるだけで閑散としていた。流石にいぬがみだけにサービスするのはいけないので、店主は店の入り口付近にいる白髪の2人に声を掛けた。


「では、ワシはグラタンが良い!由紀子は何にするか?」

「その人が食べてるカキフライで」


フードの隙間から白髪の妖狐と同じく白い髪が見える。店主は女も妖だと思ったが女の左手の甲には人間が妖怪界に入る時に付けなければならない判子が押してあったため驚いた。しかし、それも一瞬で店主は注文受けるとすぐに調理を開始する。


「最近は人間のお客が多いんですよね」

「あぁ、そうだな」

「視える人間が多くなって来たのか」

「いや、そうじゃなくて」


店主は流行や世代の事情に詳しい、いぬがみに聞きながら手際良くグラタンとカキフライを作る。そして、完成すれば店主はその場から動かずに長い手で品を2人の元へ届けた。


「最近は人間と恋に落ちる妖が増えてきているんですよ」

「へぇ」

「火種はこの前来た、あの鬼と」

「なるほどな」


いぬがみが言い終わらないうちに店主は理解した。そして、店の換気のため店主は窓を開けると冷たい風が入って来ると同時に粉雪が店の中に入ってきた。


「ホワイトクリスマスですね」

「あぁ」


窓の外の雪を見ながら、いぬがみは友人の鬼と人間のカップルはこのホワイトクリスマスをどう過ごしているのかと考え微笑んだ。

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