124・サタンクロース
今回はプチっとメリーさんのお話があります
12月の下旬。ようやく私の通う紅坂高校も冬休みを迎えました。と言うことで、現在、私がバイトしている和菓子屋二階堂と我楽多屋のシフト体制も変更することになります。
「もえかちゃん24日と25日はバイト休んだら?」
「えっ!その日はお客様がたくさん来る日だよ。確か一番忙しい時じゃなかった?」
そう、24日と25日はクリスマスイヴとクリスマス。そして、なんともうすぐでクリスマス。和菓子屋二階堂もクリスマスフェアで値引きセールや様々なお得商品を出すのです。だから、いつも以上にお客様が来て忙しくなるのに、あやのちゃんは私にバイトを休むように言ってきました。
「だって、イヴとクリスマスだよ」
あやのちゃんの目がメガネの奥でキラリと輝いています。そしてなぜが頬がツヤツヤとしている。こう言う時は何かしら考えているんだよね。でも、悪いことじゃなさそうって言う気はするかな。
「カップルが熱くなる日だよ!」
ザッパーン!あやのちゃんの背景に大波が海岸に打ち上げられているように見えました。詳しく聞くとその日は彼氏さんとデートしたりいちゃいちゃしなさいと言うこと。しかも、あやのちゃんから言われるとなんだか恥ずかしい感じがする。
「もえかちゃんは普段から真面目に働いているし、みんなももえかちゃんが彼氏持ちだって知ってるからそこんところ、大丈夫だからね」
何気なく厨房を見ると和菓子職人さんたちがこちらを見て親指を立てていました。まるで、友を見送るような暖かい視線です。と言うかいつの間にみんなが知っていたんだろう?私は報告していないからきっとあやのちゃんが言ったのかな。でも、まずここはお礼を言わないとね。
「ありがとう」
「いえいえ」
小さい頃、クリスマスにはサンタがやってくると信じていたな。あっ、そうだ鬼さんってハロウィンの時もハロウィンのことを知らなかったから、もしかしてクリスマスのことも知らないんじゃないのかな?よし、サンタの話がてらクリスマスのことについても話してみるか。
* * *
家に帰り寝る前のまったりタイムの時、サンタのことを話す前に鬼さんから重大発表がありました。それは、なんとメリーさんがついこの前、妖怪界で結婚式をあげたそうです。
「旦那さんと二人きりであげたんだって」
「飛頭蛮さんとかキィさんとないぬがみさんとかいなくて⁉︎」
「そうだね」
本音を言えば結婚式に呼ばれたかった。でも、こう言う結構式のあげ方もあるんだって初めて知った。特にメリーさんは妖怪界では芸能人だから結婚式をあげると報道陣とかがわいわいがやがやするので、どうせやるなら2人だけの時間でゆっくりと結婚式をあげたかったと鬼さんから伝言されました。
「でも、おめでとうだよね」
私は猫型座布団に座る鬼さんの左隣に腰を置き、チョコレートを2欠片入れたホットココアを飲みつつ話をクリスマスの方に向けました。すると、鬼さんに軽々と持ち上げられ、すとんっと膝の上に乗せられたのです。どうやら、ここに座れと申しているご様子。
「クリスマスならオレ知ってるよ」
「ハロウィンは知らなかったのにクリスマスは知ってるんだね」
「同じ部署で働く先輩から教えてもらった」
ちなみに、その先輩は男だそうです。別に男か女かそんな事を報告しなくても妬いたりしないので、ご安心を!と鬼さんに言ったら念のためと言われました。今、思ったけど、先輩から教えてもらったと言うことはつい最近まで知らなかったってことなんだよね。
「クリスマスにはサタンが来るんだろ?」
そう、サタ…ン?えっ今、私の頭の上からとんでもない事が聞こえて来たのは気のせいかな?体を捻って鬼さんの顔を見ればドヤ顔。まるで、自慢したがりの子供のようです。
「サンタじゃなくて?」
「サタンだろ?」
いやいやいやっ!何をキョトンとした顔で言っているの⁉︎クリスマスだよ!クリスマスの日に悪魔が来てどうするの⁉︎クリスマスは子供を喜ばせる日なのに何が楽しくて怖がらせるの!それとも、あれか。妖怪界では、サンタじゃなくてサタンが来るとか?
「鬼さん鬼さん。じゃぁ、大きな白い袋を担いでヒゲの生えた赤い繋ぎの服を着たおじいさんは何?」
「それは、泥棒。だって、そのおじいさんは煙突から入るんだろ?それは立派な泥棒で」
「サンタを泥棒扱いするなー!」
私は鬼さんに1からクリスマスの日の事を説明しました。どうやら、鬼さんが先輩から教えてもらったクリスマスと言うのは、サタンが子供達にプレゼントを渡して、サンタがその日の深夜、煙突から入ってサタンから貰ったプレゼントを奪う。だから、子供達は大切なプレゼントを取られないように胸に抱えて寝るらしい。
「妖怪界ではサタンが来るの?」
「違う!妖怪界も人間界も同じ風習だからそれは違う!」
「じゃぁ」
「うわっ!オレ騙された」
鬼さんの先輩よ。この鬼に変なことを吹き込まないで下さい。と言うか鬼さんは疑いもせずに信じたんだ。その先輩のこと信用しているのかな?まぁ、どちらにしろ良い感じなんだよね。鬼さんはこう見えてもコミュニケーション能力があるから心配無し!
「あらら〜」
私は体を戻してちょっとぬるくなったホットココアを飲みました。なんだかんだ言ってあと少しで終わるのか。この一年間、色々あり過ぎて終わるのが早かったな。
「一年間って早いよね」
「そうだな」
「いぬがみさんとかゆいちゃん達とかに出会ってさ、土地神様とか」
「萌香、オレを見えない振りしている間にどれだけ多くの奴と知り合ったんだよ」
土地神様の話なんて知らねーぞと鬼さんは嘆いていました。その時、私はちょっとした出来心で鬼さんを見えない振りしていた時に出会った人や妖怪たちの事を話します。記憶を遡って、いぬがみさんから。でも、一番ピークだったのは夏休みの時かな。
「そう言えばオレ、まだ萌香から見えない振りしてた理由聞いてないんだけど」
「えー、私ちゃんと言ったよ。鬼さんが忘れてるだけで」
「萌香」
あっれー?おかしいなぁ、部屋は暖房が入っていて暖かいのに急に背後から冷たい空気を感じるんだけど。故障かな?いや、違うよね、これは鬼さんの妖力でした。
「簡単に言うと昔、鬼に襲われたことがあるの」
ホットココアを最後まで飲みきり、その場から逃げるように空になったマグカップをシンクへと持って行こうと腰を少し浮かしたら、どうやら、しっかりとお腹に腕を回されていたらしく結果、動けませんでした。これは、何かの尋問ですか?
「傷は?」
「ないよ」
だったら見てみる?とパジャマの服の裾を掴んで鬼さんを見上げてみたら本気で見ると答えられてしまったので、とりあえず『変態っ!』と言ってテレビのリモコンで成敗しました。
* * *
鬼さんを成敗してから暫く、話はなぜか委員長のことに変わっていたのです。事の発端は数秒前、私が鬼さんの仕事場には他にどんな妖怪がいるのか聞きました。今のところ私が知っているのはメリーさん、飛頭蛮さん、キィさんだけ。
そして、私が何気無くキィさんは委員長と繋がっているよと答えたら、話がそっちに行ってしまいました。学校ではどうなんだとか、本当に友達なのかとか、鬼さんこそ妬いていない?
「でも、修学旅行の時に告白してくれて」
「へっ!」
鬼さんから素っ頓狂な声が聞こえて来ました。このままでは何と無く鬼さんが変な誤解をしたままになりそうなので、ちゃんとその後のお話もしましたよ。そうじゃないとあとあと面倒くさいことになりそうだからね。
「鬼さんもろくろっ首さんから告白されたもんね」
だからおあいこ。そうやって鬼さんに言えばすごい渋い声で反論されました。まだ、私は鬼さんの膝の上に座っているから声でしか感情を読み取れないけどきっと今の顔は曇っているんだろうな。
「それでも、萌香が告白されるだなんて嫌だ」
「鬼さんの独占欲は強いよ」
拗ねた口調で話す鬼さんに私は思わず笑ってしまいました。そう言う私はどうなるんだろう?彼氏と彼女は似るって言うから私も鬼さんに感化されて独占欲が強くなったのかな?いや、それはないか。
「鬼はそう言う性分だからしょうがない」
「あっ、そうだ鬼さんは青鬼だったんだ。鬼要素が無いから忘れてた」
唯一の角は前髪で隠れているので、見た目は普通の人。せめて見える部分に鬼って言う文字が書いてあれば分かり易いのにねー。
「肌に鬼って文字書けば分かり易いかな」
「えっ!」
「萌香どうした?」
「私、口に出してた?」
「出してないけど」
「あっ、そうか」
どうやら、口には出していなかったらしい。でも、同じ事を考えていたことに驚きました。これは、あれだ。四字熟語のあれ。思い出せないけど何かあった。うーんダメだ、全然、思い出せない。
「やっぱり似るんだね」
「何が?」
「付き合ってますとね〜」
口元を抑えてふふふ〜と笑うと鬼さんからおばちゃん口調だと笑いながら言われました。それと、鬼さん、私はまだ16歳だからおばちゃんじゃぁないよ。たまに物忘れあるけど。
「そう言うものかな」
「そう言うものだよ」
なんだろう、このぐだぐだ感は。大体こんな感じになると眠くなってくるんだよね。背中から伝わる鬼さんの体温とかが余計に眠気を誘うと言うか、なんと言うか。あっ、瞼が重くなって来た。
「眠い?」
「うん」
「この前みたいに誘わないでくれよ」
はい?私、何か誘うようなことしたかな。この前って言っているけど覚えてません。あら嫌だ、記憶力ないね、歳かしら?
なんて、嘘です。本当はちゃんと覚えてる。
「鬼さん、そう言われればやりたくなるのが人間の心理だよ」
私は体を鬼さんと向かい合わせにして悪戯っ子のように笑いかけました。




