12・鬼とタヌキとカッパの飲み会
鬼さんの名前は『ソウキ』4話で少し出ています。後は、タヌキの『いぬがみ』と『カッパ』この3人が12話目のメインキャラです
(注)
会話文が多め
飲んで駄弁って騒いでいます
今日は金曜日、夜の11時。
ここは、人ならざる者が集うネオン街の片隅。つまり幽霊や妖怪たちがわんさかいる歓楽街、そこにある『遊楽亭』という居酒屋で、お偉いさんであり電化製品を作っているタヌキのいぬがみ、203号室に住む鬼のソウキ、話し方が体育会系のカッパの順にカウンターで仲良く飲んでいました。
「ソウキさん、なんで金曜日しか来ないんッスか?前までは毎日、飲み仲間だったじゃないッスか〜」
「前の住人がね、玄関に変な絵を飾ってさ。それ以来、金曜日にしか外に出られなくなったんだよね」
「それは、災難ッス」
「つまり、あれだろ、呪具かなんかだろ?」
「さぁ?」
「いぬがみさん、詳しいッスね」
ここで、店主がイワシの梅生姜煮をソウキに差し出した。
「あれ、お前イワシ苦手だったよな?なんで食えないのに頼むんだよ」
「この前さ、今の203号室に住んでる萌香が。イワシ料理を作ってくれたんだ」
「『作ってくれた』じゃなくて勝手に食っただけだろ」
そう言って、いぬがみは着ていたよれよれのワイシャツの袖を両方とも捲り、注文したナスの田楽を頬張った。
「やっぱいらない。カッパ、魚好きだったよな。はいこれあげる」
「は?なんでソウキさんが一口かじった魚をワシが食べなきゃいけないんッスか!」
「だって、臭みがあって不味い」
「ガキか!」
結局はじゃんけんをして負けたカッパが渋々、飲んでいたゆず酒と一緒にイワシの梅生姜煮を食べることとなった。
「萌香が作るイワシ料理は臭みもなくて味がしっかりしてて、イワシが食べれない僕でも食べられたんだ!これ凄くない⁉︎」
「はいはい、凄い凄い (棒読み)」
「最近、いぬがみの僕の扱いか酷いよ。助けてカッパもん」
「カッパもんって、ワシは青タヌキロボットじゃないんッスよ」
酔っているせいか、ソウキは大笑いして痙攣までしていた。それを冷めた目で見るいぬがみ。
「その、萌香って女の子、確か今の住人ッスよね。名前聞いたんッスか?」
「違うよ。萌香は、僕のことは見えてないみたい。名前は、高校の教科書に、萌葱の萌に香るの香が書いてあったから分かったんだ」
「あの子、高校生だったのか?それにしては、ちっこかったな」
「いぬがみは萌香に会ったことあった?」
「前に、お前を部屋まで運んだ時にな」
いぬがみは焼酎を飲みながら萌香について話した。
「その時、ちょいとぶつかってな。タヌキに戻っちまったんだよ」
「普段は人間の姿なのにちょっとしたことで直ぐにタヌキに戻るんッスよね、いぬがみさんは」
「うるせっ!」
「戻って、その後どうなったの?」
「かわいいー、って言われて抱きしめられた。」
「あー、分かるッス。タヌキ姿のいぬがみさんは、かわいいッスもんね」
かわいいと言われるのが嫌なのか、いぬがみは一気に焼酎を飲み干しまた新しい焼酎を頼んだ。つまり、やけ酒。
「その、萌香ちゃんに会ってみたいッスね」
「本当、ここに連れて来たいよ。だって、料理は美味しいし、作るの上手し、大きな目に小さい体とか、かわいくない?小動物みたいでさ、ぎゅーってしたくなるよ。それに、寝顔もかわいいし、身長が小さいことを気にして毎日、牛乳を飲むところとか、あとは勉強してる時の集中した顔、普段は優しそうなのにキリッとしてて、そのギャップがまた良いんだ!」
「ヤバイッス。ソウキさんが変態に見えてきたッス」
「変態どころじゃねぇ、警察に通報するべきだろ」
惚気るソウキをまたも冷めた目で見る。と、話題をそらすように突然、カッパがソウキの服のことについて話した。
「そういえば、前から思ってたんッスけど、ソウキさん、服変えたんッスね。甚平、涼しそうッス」
「確か、前の住人が忘れていった服を着てたんだよな?」
「そうだよ。この前、テーブルの上に新品で2枚の甚平が置いたあったから着てるんだよね。しかも欲しかった青色で服のサイズもピッタリでさ」
「小柄な女の子なのに大きい服なんて買うッスかね?しかも、色も男っぽい物ッスし」
「まぁ、本人が気に入っているなら、それでいいじゃねぇか。追求するとめんどくせぇ」
幸せそうなソウキは、いぬがみとカッパが話していることは全く耳に入っていないようだ。ここで、いぬがみは古い長方形のカバンの中からある物を取り出した。
「俺の会社で作った物だ。良かったら使ってくれ」
「あっ、これ萌香が使ってるやつだ」
「携帯ッスか?」
「スマートフォン、つう機械だ。電話したりゲームしたりメールしたり写真撮ったり、人間が使う便利な物だ」
「写真も!」
「水の中は使えるッスか?」
「あぁ、もちろん防水で水の中でも使える」
ソウキとカッパはおもちゃを買ってもらった子供のように目を輝かせ、拝んでいた。そして、カッパは貰ったばかりのスマートフォンを…
「てめぇ、なにしてるんだ!」
「本当ッスね〜。水に入れても壊れないッスよ〜。ハハハハ〜」
「それは、水じゃねぇ!酒だ酒っ!というか、渡した直ぐに確かめるな!壊れるぞっ!」
グラスに入った梅酒に何度もスマートフォンを漬け込む。どうやら、酔っているようだ。
「いぬがみが怒ってる〜。ほらほらこっち向いて〜。はいポーズ!」
「やめろっ!カメラで撮るなっ!」
「カッパ見てよ、いい写真が撮れたよ。僕、才能あるかも」
「その写真、欲しいッス!後で送っといて下さいッス」
ケラケラ笑いながら、スマートフォンを見せ合うソウキとカッパにいぬがみは素早く鉄拳を入れた。
「ふざけるのもいい加減にしろよ?」
「鬼だぁ」
「鬼はお前だろ!」
「ナイスツッコミッスね」
カッパは、梅が入った梅酒を飲み干す。
「あっ!」
その時、突然カッパが大声をあげる。
「どうしたの?」
「舌でも噛んだか?」
「違うッス。今日はどうしても話したかった事があるッスよ!」
カッパの慌てぶりに、ソウキといぬがみは驚き真面目に話を聞く。
「実は、昨日の朝、遠くの川にいるワシの幼馴染のカッパァ子ちゃんに会いに行こうとしてたッス。」
「へぇ、幼馴染なんていたのか」
「ほぉ、アッパー子ちゃんね」
いぬがみの驚いた顔とソウキの変なボケを無視してカッパは話を続ける。
「でも、昨日は朝早くから暑かったッスよね?そしたら、黒沼池の近くでワシの大切なサラと甲羅が乾燥して力尽きたんッスよ」
「サラと甲羅はカッパの命だもんね。乾いたら動けなくなるって昔、聞いたな」
カッパは口を潤すため、新しく追加したビワ酒を飲む。
「サラと甲羅が乾燥して、もうダメかも思った時、目の前に人間の女の子が現れたんッスよ」
「幻覚か?」
「違うッス。その時は意識朦朧としてて顔ははっきりと見えなかったんッスけど、その女の子がなんと、ワシを池に連れて行ってくれたんッスよ」
「つまり、お前を助けたのか⁉︎」
「そうッス」
「その子ってどんな感じの子?」
ソウキの質問にカッパは待ってましたと言わんばかりに食いついてきた。
「それはそれはもう、可愛い小柄な女子高生で、品があって優しくて、つい嫁に来て欲しいって言ったら断られたッスけどね。」
「そりゃ、いきなり言われたら普通、断るだろ。ましてや人間の女の子だ」
「というか、その女の子カッパの事が視えたんだね」
「まぁ最近は俺たちを視えることのできる奴は少なくなって来たな。俺が知ってる限りじゃぁ、二階堂の千代さんと我楽多屋の蓮さんの2人だぜ」
「そんな人いるの?」
「ソウキは金曜しか外に出られないから知らないかもな」
ソウキは悲しげに目を伏せて自分の杯に入っている酒を見た。
「はぁ、萌香も僕のことが視えたらいいのに」
今にも泣きそうなソウキを慰めるように、いぬがみは焼酎を差し出した。
「そんな顔してっと酒が不味くなる。まぁ、これ飲んで機嫌直せ」
「い、いぬがみ母さーん。でも、僕は焼酎じゃなくてワインが飲みたいよ〜」
「知るかボケッ!」
ソウキといぬがみが言い争っている隣でカッパは、話の続きを話し始める。
「ワシ、今日その子にお礼としてキュウリと鮎を渡す予定だったんッスけど、その子に住所を聞くのを忘れて、まだ届けに行ってないんッスよね……」
「その子、かわいそう。せっかくカッパを助けたのに、なんの見返りもないって、うわー、無いわー」
「でも、きっとまた会えるッス。あの可愛い子に、何が何でもお礼はするッスよ。それで、また求婚するッス」
カッパの無邪気な笑顔にソウキといぬがみは
「カッパだからフラれるよ」
「無理だな」
「えぇー!そんな、応援くらいしてくれたっていいじゃないッスか」
冗談で言った言葉に慌てふためくカッパの反応が面白かったのか、ソウキといぬがみは笑い合う。つられてカッパも笑っていた。
こうして、ソウキ、いぬがみ、カッパの飲み会は朝まで続いたのだった。
いぬがみは焼酎派で荒っぽい口調
お酒に強い
カッパは果実酒派、味はなんでもOK。でも
酔いやすい。口調はお馴染みで『〜ッス』
鬼さん(ソウキ)は、なんでも飲める
いぬがみよりも弱いけどお酒は強い方かな




