118・メイドの後日談
委員長の家にいるキキーモラのメイドのキィ視点です。63話と84話が少し関係ありますよ
ご主人様が萌香さんを好きだと知ったのは遅れながらも、ご主人様が修学旅行に行く1ヶ月前、ちょうど紅坂高校の文化祭の日です。
「ご主人様、メールが届いていますよ」
ご主人様の部屋で風邪をひいたご主人様の看病をしていると、机の上に置いてあった携帯にメールの通知が着ました。送り主はご主人様のお友達である水戸部さんから。そして、私は携帯をご主人様に差し出します。
「キィ、ありがとう」
熱があって頬をほんのりと赤く染めているご主人様は仰向けになってメールを読みました。と、その時。突然、ご主人様は耳まで真っ赤にしながら飛び起きたのです!何事かと思い私も携帯の画面を見ると、なんと本文と共に全身を写したミニスカメイド服姿の萌香さんの写真が添付してありました。しかも黒色のニーハイがもう、それはそれは萌え萌えですよ。
「かわいい〜」
あらっ?なぜ水戸部さんから萌香さんのメイド服姿の写真が送られて来たのでしょうか。ご主人様の友達だから?それとも、かわいい子を共有したいと思う男心が水戸部さんにあったから?
「ふむふむ『宮川さんの絶対領域、恐るべし!』」
本文の一文を読み終えた私は萌香さんの太ももに食い込むニーハイを凝視しました。なるほど、これが絶対領域ですか。うーむ、太ももとニーハイの間に指を入れたくなりますね。恐るべし!
「『宮川さん見て風邪治せよ。ついでにその勢いで告っちまえ(笑)』」
「キィ、朗読しないで」
「すいません」
ええぇ!まさか、告っちまえって言うことは、ご主人様の好きな方って萌香さん⁉︎そう言えばご主人様は萌香さんとご一緒に泊まりに行った事があったりしましたよね。
「うわー!」
「どうしたんだ?」
私…私ったら萌香さんの前でご主人様には好きな方がいますって言ってしまいました。でも、ご主人様から萌香さんとお付き合いしていると聞いたことはなく、はたまた告白したと聞いたこともないので、今のところご主人様の片想いと言うわけでしょう。
* * *
そして現在はと言うと、どうやらご主人様はこの修学旅行中に萌香さんに告白しました。しかも、ご主人様は萌香さんに彼氏がいると知った上で、フられると分かった上で告白したのですよ。
フられてしまったのにも関わらず修学旅行から帰ってきたご主人様はいつもと変わりはなく、もしかして、強がっているのかと思った私はご主人様を慰めようとしたらスッキリとしたお顔で『大丈夫だからね』と言われました。本当にいつもと変わらなかったのです。
あっ!そうだ。唯一違うとすれば一人称が僕からオレと変わりましたね。理由は昔のヘタレな自分との決別だそうです。
「そう、ご主人様の恋路は終わってしまったのですね」
ご主人様が寝静まり、深夜2時ごろ、私はリビングにあるソファーに座り、窓からこぼれる月明かりに照らされながら一人静にぼやいていました。
私が働くいぬがみコーポレーションでは社員全員、社員寮から出勤するのですが、私は他の方と違ってご主人様のお家から通わせて頂いています。その理由は『ご主人様の恋路を近場で密かに応援したいから』だったのですが、ご主人様の恋路が終わった今、私がご主人様のお家にいる理由がなくなってしまったのです。
「私、ここにいても良いのでしょうか」
仕事の帰り道、12月の凍てつくような空気に触れながら私は考えました。きっとお優しいご主人様の事ですからいつまでもお家にいて良いよと言うはずです。
でも…ご主人様のご家族はご主人様以外、私の事が視えない。だから、ご主人様がリビングで私と会話すればお姉さまから不審な目を向けられたり、私がいることで返ってご主人様に迷惑がかかっているのでは?と改めて考えてしまう今日この頃。私がいぬがみコーポレーションの社員寮から通おうと思えばいつでも通える。
本音を言ってしまえば、ご主人様が素敵な方と結婚するまでこのお家にいたいです。それに、一度忠誠を決めたご主人様に尽くすのがモットーの私。まぁ、ベリトの場合は半分、嫌々でしたけど。
「あとは自分の気持ち次第」
その日の夜、お姉さまがお仕事でいない9時頃、私はご主人様のお部屋にノックしてから入ります。
「ご主人様、改めてお話が御座います」
「ん?どうしたの?」
ご主人様は勉強中でしたが、手を休めてこちらを振り返ってくださいました。そして、私はご主人様に自分の思いを告げるのです。
「非常に私のわがままなのですが、ご主人様が素敵な方とご結婚されるまでこのお家でお仕えしたいのです。ですかー」
「ちょっと土下座するのだけはやめてくれ!」
私よりも先に素早い動きで土下座しようとするのを防いだご主人様は私を部屋からリビングに連れて行き椅子に座らせると、その反対側にご主人様が座ります。
「オレからも良いかな?」
「はひ?」
あっ、噛んじゃった。
「オレが結婚するまでじゃなくても、別にこの家にいつまでもいて良いからね。それと、ここからはオレのわがままだけどさ」
「はい」
「ご主人様って呼ぶのは無しでお願いします」
テーブルに頭を付けるくらいの勢いで頭を下げるご主人様に私はあたふたとしてしまいました。ご主人様が頭を下げるくらいと言うことは、本当にお願いしている意味。ですが、ご主人様はご主人様。そこは、メイドの性分として譲れないものがあったりしますが。
「ごめんなさい!これからも、ご主人様と呼ばして下さい」
「いや、ご主人様って呼ばれるのは」
「慣れてしまえば問題御座いません」
ガクッとな。ご主人様はずっこけました。
「うーん、キィは家族の様な感じだし、口調を今から変えるのは難しいけど、ご主人様って呼ばれると主従関係に感じてさ。オレとしては主従関係よりも家族関係になりたいなと」
あれ?お年頃的にご主人様と呼ばれることが嫌なのかと思ったのですが、違うのですね。主従関係ではなく家族関係。本当にご主人様はお優しいですね。
「では、ご主人様ではなく『おにぃちゃん』とお呼びした方が家族っぽー」
「やめて!それはやめてください」
「ふふっ」
かくして私はご主人様のお家に住まわせて、いや、改めて家族になったわけです。さてさて、おにぃちゃんがダメならなんてお呼びしたら良いのでしょうかね?




