117・ずっと前から好きでした
萌香視点、元に戻りました
突然、現れた委員長に驚いています。それと同時にいつもと違う雰囲気の委員長を見た私は今から何が起こるのかという言い難い不安が心の中で渦巻いていました。
「宮川さん、今って時間ある?」
「…あるよ」
そう言われて、私は躊躇いながらも頷く。余程、私が硬かったのか委員長ははにかみながら身構えなくていいよと言ってくれたけど、ごめん、それは無理だよ。だって、委員長の雰囲気と言い今の時間帯や場所や修学旅行の最後ら辺、しかも今は2人きりという様々な要因が重なると『もしかして』と思ってしまう。
「ちょっと場所変えても良いかな」
「うん」
違っていたらものすごく恥ずかしいけれど。でも、そうやって思ってしまうのは仕方ないよね?自惚れているとかそういうのじゃなくて、キィさんからの情報もあるし鬼さんからの一言もある。それに、旅館に来る前のバスの中で鬼さんの話をしたら今まで見たこともないような複雑な表情をされたし。
そう思いながら委員長の後を着いて行き辿り着いたのはクラス写真を取った浜辺でした。今日の空は一切、雲がなく満月の明かりが真っ暗な海を照らしていてとても綺麗です。空を見上げると星々が輝いていました。
「ここら辺かな」
目の前に広がる海を見ながら委員長は立ち止まった。そして、半回転し、私の方に向くと委員長は口を開きました。一方、私は委員長の話を静かに聞きます。
「ちょっと聞いてほしいんだけど実は僕には好きな人がいるんだ」
ゆったりとした口調で伝えられる事実。でも、それはキィさんから教えてもらったので知っています。
「その子は料理上手でいつもポジティブで困っている幽霊とか妖がいるとすぐに助けるすごく優しい子なんだ」
メガネを掛けていない委員長に見据えられると体の中心からじわじわと熱くなってくる。
「それで、僕と同じクラスで同じ視える子」
同じクラスで幽霊とか視える子といえば私の知る限り『私』しかいない。
あぁ、やっぱり…
「宮川さん」
静かに名前を呼ばれる。心臓が痛い、自分の心臓の鼓動が早く大きくなるのが分かる。今までこんなに緊張したのは初めてで、やけに海の音が大きく聞こえた。そして。
「ずっと前から好きでした」
時間にして僅か5秒にも満たないけど、私の体感時間では何百年もの長い間、その場に立ち止まっていたような感じだった。もう、海の音も心臓の鼓動も聞こえない。聞こえてくるのは委員長の声だけ。
そう、委員長が真剣に言ってくれたんだ。今度は私の番、だからちゃんと答えないといけない。ここで、ちょっと待ってだなんて答えを先延ばしにしたら委員長に失礼だと思うから。
「私を好きになってくれてありがとう」
今、私が思い出しているのは委員長と始めて話した時のこと。確か、のっぺらぼうみたいな幽霊を見て気絶した委員長のカバンを届けに行ったのが始まり。それから、委員長が私と同じ視えると分かってちょっと親近感が湧いたんだ。
鬼さんの愚痴を聞いてもらったり夏祭りには本のひと時だけど一緒に回ったし知り合いのお坊さんのお寺に行ったな。
委員長に言った『ありがとう』は、もちろんこんな私を好きになってくれてありがとうの意味と今までのお礼の意味がある。でも、私には。
「ごめんなさい、私、委員長の気持ちには応えられないです」
「うん、知ってる」
「…っ!」
私の答えを聞いた委員長は悲しむのでもなく呆れているのでもなく、どこかすっきりとした表情で微笑んでいました。今、私、委員長をフってしまったのになんで、なんで、そんな爽やかな表情が出来るの?
「宮川さんってソウキさんの話になると声が弾むしにやけるし、結構、顔に出るから分かり易いよ」
そうだ、さっき鬼さんから電話が掛かってきた時、つい、声を弾ませちゃったし、ゆいちゃんたちの前で暴露した時も顔が緩んじゃった。私ってそんなに顔に出易いのかな。
「だから、宮川さんがソウキさんの事が好きなんだなって分かったんだ」
それに気が付いたのは修学旅行中だけど、と付け加えて委員長は言う。私が鬼さんの事を好きだと知りつつも委員長は告白してくれたんだ。しかも、委員長は私のことが好きなのに私ったら委員長の前でなんてことを!そんなことを思っていると自然と目柱が熱くなってきた。
「委員長の前で私っ!」
泣きたいのは委員長の方なのに私の方が泣いてしまう勢いだ。いや、もう既に視界が歪みつつある。
「違うよ」
委員長は私に近寄って頭を跳ねるように撫でてくれた。私は涙を堪えて委員長に質問をしました。
「分かってたのに何で」
フられると分かってたのになんで委員長は私に告白なんかしたんだろう?だって、そうしたら委員長が傷付いてしまうのに。
「これは、単なる僕のわがままなんだけど、このまま宮川さんがソウキさんの事を好きだって知りつつ自分の気持ちを引きずっていたら、いつまでも宮川さんを諦められそうにもなくて」
自嘲気味に笑いながら話す委員長。
「だから直接、宮川さんの口から答えを聞きたかったんだ」
わがままじゃないよ。
そんなの、全然わがままじゃないから!伝えようとしても声が震えて上手く言えない。
「オレの方こそありがとう」
潤んだ目で見た委員長は月明かりに照らされているせいか大人っぽく見えました。
* * *
次の日
帰りの空港に向かうバスの中で私は隣に座っている委員長といつも通りに話していました。会話の内容は一人称について。
「委員長が『オレ』って言うと違和感あるなー」
委員長曰く、一人称を変えたのは昔の柔な自分と区切りをつけるためだそうですけど、私としては今まで通り『僕』の方がしっくり来るんだけどな。
「委員長が変わるなら私は坊主にしよう」
「一度髪を剃ると天パーになるんだって」
「何その情報!」
冗談で坊主にすると言ったらまさか委員長から衝撃的な情報がこぼれ落ちました。えっ、でも、その情報って嘘でしょ?嘘だよね?額に冷や汗をかきながら、委員長を見つめていると。
「冗談だよ」
「なんだ〜」
委員長に笑われてしまった。そして、私も笑う。あまりにも委員長がしれっと言うものだから、つい信じちゃったよ。と、こんな風に一夜明けた私たちはお互いにギクシャクした感じもなく、いつも通り?ううん、他所から見たらいつも通りだと思われるけど、私たちからしてみれば前よりも仲良くなった感じです。
「帰りは飛行機なんだよね…」
「そうだけど。あっ、高いところが苦手なんだっけ?」
今から飛行機に乗ると思うと気分が憂鬱になります。
今回のテーマは
『爽やか』&『青春』の2つ
それに、委員長の性格を考えて告白する言葉は『ずっと前から好きでした』を言うかなと思い描写しました。
シンプルでベターなセリフだけど
それが彼に似合っているかな?
これにて修学旅行編は終わります
お付き合いありがとうございました




