112・修学旅行2日目 ~前編~
美ら海水族館を美ら○水族館と表記してあります。
修学旅行2日目は美ら○水族館で巨大なジンベイザメを見た後、船で移動し沖縄から少し離れた島で暮らしている、漁師さんや農業を営む方達のお宅に民泊する予定です。
「あの魚、料理したいな」
「もえちゃん!魚が逃げてるよっ!」
只今、美ら○水族館でイワシを見ています。別に見学は班行動って決められているわけじゃないから、私はいつものメンバーで水族館をゆっくりと、目利きをするように魚を見てはどう調理をしたら美味しくなるのかと考えていました。
「あの水槽にいるマグロとか料理したくならない?」
「ならない、ならない」
隣で水槽を見ていたゆいちゃんにあっさりと否定されてしまいました。こればかりは仕方が無いよ、だって自然と手がうずうずしてくるんだもん。鱚なんかを見た時は、頭の中で天ぷらを思い出していたし、カニを見たら鍋か刺身にしようかって考えてたかな。
「料理したいー」
「そう言えば、もえかちゃんいつも自炊してるもんね」
「一人暮らしだっけ?」
あやのちゃんとめいちゃんの質問に私は水槽の中にいる色鮮やかな魚を見ながら答えました。
「自炊してるけど一人暮らしじゃないよ」
「あれ?一人暮らしじゃないんだ」
「そうだよ。あっ!ねぇねぇあのエビって」
「背、向けたね」
水槽の中にいたエビは何かを感じたのか、体をビクつかせると急いで私たちから背を向け、水槽の一番奥に行ってしまいました。
「萌香に料理されるって本能で分かったのかな」
「したくても、出来ないよ」
一応、お母さんと一緒に暮らしていた時、アパートの部屋にいた料理が上手い浮遊幽から包丁なしで調理する方法も教えてもらったけど、今、目の前にはガスもなくて、もし出すとしたらお刺身くらいしか出せないかも。
「綺麗だね」
「おぉ〜」
ゆいちゃんと話しながら前を見ずに水槽ばかり見て歩いていたのがいけなかったらしく、私は大勢の人にぶつかってしまいました。
「うぷっ!」
「大丈夫?」
「委員長、ごめんね」
ぶつかった人が10人を越えた時、なんと、私がぶつかってしまったのは委員長の背中でした。すぐに謝って、ゆいちゃん達の方に戻ろうとしたけど周りを見回してもゆいちゃん達は見つかりません。
「いない」
「宮川さんも迷子?」
「『も』」
委員長の周りを見るけどいつもいる水戸部さんや芹沢さんがいない。それに、委員長が言った『も』と言うことは、もしかして。
「夏祭りの時と同じだ」
はい、迷子決定です。確かに、今日の美ら○水族館には私たち以外の修学旅行生やバスのツアーで来たお客様が大勢いて迷子になるのも無理はない。私はなんとか、ゆいちゃん達と携帯で連絡を取ろうとしても『通話中です』とか『電波が届かないところにいます』と機会音に言われ連絡が取れませんでした。
「委員長も迷子」
「そうだね」
この水族館に居られるのも残り30分くらい。さて、どうしよう。
「宮川さんが良ければ一緒に見に行かない?」
「えっ…」
「あっ、気が乗らないなら」
「ううん、違うよ。じゃぁお願いしようかな」
今、戸惑ったのは、鬼さんから言われたあの一言を思い出してしまったから。もう、なんで鬼さんはあんな事を言ったのかな。おかげで委員長の一言に色々と考えちゃう。
* * *
そんなモヤモヤとした気持ちのまま、私と委員長の水族館見学は始まりました。と、そんな気持ちは水槽の中にいる美味しそうな魚を見たら一瞬で宇宙の彼方へと飛んで行きましたよ。
「あれは、煮付けかな。うーんでも、あんかけも良いかも」
あー、料理したいな。毎日料理をしているから、一日でも料理をしないとすごく違和感がある。それに、鬼さん昨日はちゃんと夕飯を食べたかな。修学旅行に行く前夜、自分で自炊するようにって言ったから作り置きなんてしてこなかった。あっ、でもコンビニ弁当って言う可能性もあるか。
「委員長って料理が上手なイメージがあるなー」
「そうかな?」
「キィさんと一緒に作ってそう」
「キィか」
おっと、委員長のお顔が曇ってしまいました。これは一体、何かあったのかな。委員長にちょっと探りを入れてみると、どうやら、最近のキィさんは委員長を見ては、産まれたての子鹿のようにふるふると動きだし、なぜか謝りながら土下座をしようとするらしい。
「委員長、まさかあなた」
「昼ドラじゃないから」
委員長曰く、キィさんが謝っている内容はどうやら、私に何かを言ってしまったことらしい。その何かについて聞かれたけど思い当たる節が見つからない。と思っていたけど、一つあった。
それは、キィさんと初めて学校で出会った時だ。確かあの時、キィさんに委員長の秘密を教えてもらったんだよね。もしかして、その事?
「宮川さん、何か知らない?」
「知らないなー」
キィさんから内緒ねと言われているので、本当は嫌だけど委員長に嘘をついてしまいました。それにしても、なぜこのタイミングでこの話が出てくるの?タイミング良すぎでしょ。
私は現実逃避をするように、目の前にいたアナゴを見ました。そして、ふと思ったことを口に出してしまったのです。
「このアナゴ、天ぷらにしたら鬼さん喜びそう」
「鬼さんって、この前の」
「うん、委員長とバス停で会った鬼さんだよ」
笑顔で委員長に言うと、困ったような悲しそうな複雑な表情をされてしまいました。
ねぇ、どうしてそんな顔するの?と言い掛けそうになり、慌てて口を押さえ、他の話題を探したけどこう言う時に限って何一つ思いつかない。
「本当に外見は鬼に見えなかったな」
「えっ、う、うん。そうだよね。私も初めて見た時は人間かと思ったもん」
「好きなの?その鬼さんの事」
優しげに笑ったその表情にはどこかさみしそうな影があり、私はしばらく固まってしまいました。どうしてだろう、なんでこうも心臓が炙ってるのかな。昨日のあやのたちといた時は自然に好きって言えたのに、と言うか惚気だったけど、とにかく委員長には言いにくい。
「あの、その…」
ピンポンパンポーン
なんと答えようか迷っていると私たちの真上にあるスピーカからアナウンスが聞こえてきました。
『紅坂高校の生徒様、バスの時間が近くなってー』
「変なこと聞いたね」
本当にタイミング良すぎでしょ。そんなタイミングの良さに疑問を抱きながら、アナウンスの方に向けていた顔を委員長に向けるといつの間にか複雑な表情からいつも通りの柔和な微笑みになっていました。
「じゃぁ、行こうか」
「は、はい」
私は委員長に何も言えないまま自然と差し出された右手をとって人混みの中をゆっくりとバスが止まっている駐車場まで歩き出しました。
①本編では出ていないけどゆいちゃんとあやのちゃんも迷子になりました。
そして、彼女達は運良く、チンアナゴを見ていたほのかちゃんとめいちゃん達に会い合流し、萌香を捜しながら水族館を堪能。
結局は、もうそろそろ集合時間だしバス乗り場にいるんじゃないかと考えて、行ったら萌香と委員長に会いました。
②委員長の友達、水戸部と芹沢は旅行団体さんの流れに巻き込まれ委員長と離ればなれに
そして、ようやく旅行団体さんの流れから脱出して集合時間ギリギリにバス乗り場に着きましたとさ。
* * *
萌香に見られていた水族館の魚たち
イワシ「食われる!みんな、逃げろー!」
鱚「やばい、あれは獲物を狩る目だ」
カニ「そんな目で見るなよ…」
エビ「イマノシセンキケン!」




