11・カッパとの出会い
昨日は大変だった。それはそれは、鬼さんを退かすことですよ。あの後、泣きながら寝落ちした鬼さんから抜け出すのは一苦労。おかげで腕が筋肉痛。
そして今日も、学校の夏期講習にゆいちゃんと一緒に行ってきます。玄関を開けると熱風が目に染みる。
「あっつぅ」
「うわぁ」
いつも間にか鬼さんも私の後ろにいましたが、どうやら玄関を出られない様です。見えない壁が邪魔するかんじかな。でもなんで金曜日の夜だけは外に出られるのだろう?
まぁ、それは置いといて行きますか。
* * *
時刻は朝の7時30分。ゆいちゃんとは、いつも一緒に行くけど、今日は家の都合で車で学校に来るらしい。クーラーが効いた車中で移動とは羨ましいよぅ。歩いて登校する私を見習いなさい!なんて思いながらゆっくりと歩いています。
今、私が通っているのは両脇に木が植えられ、その木の下には高く育った雑草が大量に生えているまっすぐな一本道。まだ朝が早いから辺りには私以外に誰もいない。おまけに両脇に木が植えられているから日陰ができて涼しいです。
「ゔぅ」
「わっ!」
どこからか呻き声が聞こえてきました。なななな何だ!ゾンビか、それとも亡者か。声のする方は前の方からで、その前の方をよーく見ると雑草の中から薄緑色の水掻きがある手が片方だけ伸びていました。
あの手は見たことある。あれはカッパの手だ、手が出てると言うことは倒れているのかな、それに呻き声もするし、気になって前に進むと、そこには俯きに地面に倒れ込んでいるカッパさんがいました。
カッパさんはイラストに描いた様な丸っこい体で、見たところ危害を加える様な雰囲気はないです。それよりも、なにか言ってる。
「・・・・ず・・・み」
ずみ?声が掠れて聞き取りにくい。耳を澄まして聞いてみると。
「み・・・・ず・・・・・・」
水だそうです。本当だ甲羅とサラを触ってみると潤っていない。しかも肌のウロコはパサパサだ、小さい頃他のカッパさんと関わったことがあるけど、カッパは常に潤っていないとダメらしい。
その情報を踏まえて私は、カッパさんを置いて夏期講習のため先を急ぎました。だって、カッパは悪戯好きで悪さはしないっていう伝えがあるけど、実際は川に引き摺り込んだりする結構な悪だよ?
私も川に引き摺り込まれかけたことがあるからね。あの時は知り合いのお坊さんに助けてもらったから良かったけど、あれがなかったら今頃私はこの世にいないよ。
と言うことでここはスルーさせて頂きます。
「へ・・ルプ・・・・ミ」
なぜ英語⁉︎
「み・ず・・」
今度は日本語!
「だ・・・れか」
あぁもう仕方がない、本当はスルーしたいけど、よくよく考えればここで私がスルーすると、このカッパさんを見捨てるってことだよね。そんなの私が悪役みたいじゃん!でも、もし小さい頃、私を襲ったカッパみたいに今目の前にいるカッパも襲ってきたら?
ここで、私の天使と悪魔が脳内にひょっこりと顔を出してきました。
天使萌香「今、一つの命が失われようとしているのよ!それを、あなたは見捨てる気なの⁉︎」
悪魔萌香「おいおい、もし助けても襲ってくるかもしれねぇだろ?」
天使萌香「いいえ、このカッパさんは襲いません。ですから、どうか助けてあげて」
悪魔萌香「襲ってきたらどうする、近くには自分助けてくれる知り合いのお坊さんはいないんだぜ」
天使萌香「悪魔は黙って!ねぇ、本当にここで見捨ててしまうの?」
そして、結論は。
「まぁ、襲ってきたら殴って怯んだ隙に全速力で逃げれば良いか」
とりあえず、私はこの近くに黒沼池があることを思い出して、カッパさんの片足を掴みそのまま引きずりながら黒沼池を目指した。
ズルルル、ズルルルと引きずられるカッパさんは、カエルみたいに見えてきました。
「ぃでで・・・砂が・目に・・入るッス」
黒沼池は直径50mの池。ここから少し離れた場所で遠くはないから直ぐに行けるんだ。ほら、もう付いたよ。
まずは学校カバンを置いて。
カッパさんの両足をしっかりと両手で持って
ハンマー投げの様にカッパさんごと一緒にグルグル回って。
飛んでけー!!!!
ひゅるるると、効果音が出そうなくらいの勢いで黒沼池の中心に飛んで行ったカッパさんはそのまま、大きな音を立てて池にドボンっ。
ここの池は綺麗な水だからカッパさんにも良いだろうしね。なんなら私も入りたいくらいだよ。本当、朝から暑いな。
さて、これでお仕事は終わったし、池に引き摺り込まれるのは嫌なので、カバンを拾ってとっとと退散。
「待つッス」
「ん?」
可愛らしいショタボイスが聞こえてきたと思ったら、池から貞子のようにカッパさんが這いずって出てきました。長い黒髪があったら絶対に貞子に見える。池から出てきたカッパさんはとても潤っていた。そりゃそうだわさ、池に投げられたんだもん。
「この度は、助けて頂きありがとうッス」
なぜ話し方が体育会系なのだ。私の中で『〜ッス』はスポーツをする人が使うイメージがあるな。そんな事はどうでも良いか。でもまぁ、あそこで誰にも気付かれずに過ごすよりかはまだいいよね。
「いいよ。私も学校に行くついでだったし」
「その、お礼と言うッスか、その」
「お礼とか、要らないよ?それじゃぁ」
「あっ、待つッス。待って下さいッス!行かないでくれッス!」
やたら『ッス』が多いな。しかも右足にすがりついてきたぁ。池に引き摺り込まれたらどうしよう。でも、本人にはその気はないように見えるけど、ちょっと怖いかも。あと、何気に力強いな。
「お礼にワシの嫁さんにな」
「断るっ!」
即答ですよ。誰が好き好んでカッパさんのお嫁さんになりますか。私は昔、川に引き摺り込まれそうになったトラウマがあると言うのに。ついでに、右足にすがりついていた手を退かしてその場を去ります。こんな時は去るが勝ち。それにショタボイスで『ワシ』は、かなり違和感があるかも。
「じゃぁ!じゃぁ!」
私の行く手を阻むように目の前に飛び出してくるカッパさん。思わず身構えてしまった。
「この恩は、キュウリで返させていただくッス」
あっ、キュウリなのね。
「今なら、鮎もつけるッス」
セールスマンか!しかも土下座までされて言われたら断るのも断れないしな、ここはどうしたものか。
「分かったよ。じゃぁ、キュウリと鮎でお願いします。それと私はこの後、学校があるからそこを退いてくれると嬉しいんだけど」
「それは、すまなかったッス」
潔く退いてくれた。どうやら、池に引き摺り込まれる心配はなさそうだ。
「明日、届けに行くッスね」
「はいはい。それと、これからは干からびないように気をつけるんだよ?」
「了解ッス!ありがとうございましたッス」
ビシッと敬礼して私の後を見送るカッパさん。さて、今は何時かな?携帯を見ると8時ちょい過ぎ、しまった。後少しで授業が始まる。しかも、ゆいちゃんからメールが入ってた。
「うわぁー!急がないと」
炎天下の中、私は学校までの道をひたすらに走ったのは初めての経験だった。
* * *
次の日の朝、少し期待を込めて玄関を開けると、そこにはなんと!何もありませんでした。キュウリのキュの字もございません。鮎のあの字もございません。ただ、熱風が吹いてくるだけでした。
「あれー」
明日、届けに行くとか言ってたよね。私の聞き間違いかな?でも、ちゃんと明日って言ったよね。
朝からショックを受けつつ、私は今日も炎天下の中、夏期講習に行くのでした。
【カッパ】
・一人称は『ワシ』
・実は鬼さん(ソウキ)といぬがみの飲み仲間
・ショタボイス
・イメージ的には、カッパを丸くデフォルメ
にした感じ、可愛らしいが合ってるかな
・体の色は薄緑色
・体育会系の話し方。〜ッス、が特徴
*余談*
池の名前は最初、火ノ江池か黒沼池かの2つで悩みました。
ですが、火ノ江町に火ノ江池、名前が被るので黒沼池にしました。
黒沼の方が不気味っぽそうと言うのが名前の由来です。そんなノリですね♬
本当は最初、カッパとの出会いは怪我をして血を流しているカッパを萌香が助けると言う風に考えていたのですが、私、流血描写はあまり好きではなく。
ちょうど場面は夏なので干からびてしまったカッパを助ける方が夏らしく、これなら苦手な流血描写がないなと考えて今回のようになりました。




