104・タヌキとカッパと○○の飲み会⑤
会話文が多めです
とある休日の夜7時頃。ここは、妖怪界にある人ならざる者が集うネオン街の片隅。つまり幽霊や妖怪たちがわんさかいる歓楽街、そこにある『遊楽亭』という居酒屋で、いぬがみコーポレーションと言う会社の創始者である子ダヌキのいぬがみ (今は人間の姿)と、話し方が体育会系のカッパがカウンターでちびちびと酒を飲んでいました。
「最近、ソウキさん来ないッスね。寂しいッス」
「一応今日も誘ったんだが断られた。まぁ、あいつは彼女と一緒の方が良いからな」
「えっ!ソウキさん彼女出来たんッスか⁉︎」
「なんだお前、知らなかったのか」
いぬがみは日本酒を煽りながらカッパにソウキについての情報を与える。
「あいつが住んでる部屋に人間がいたのは知ってるだろ」
「確か、萌香って言ってたッスよね」
キュウリの浅漬けと一緒に白飯を頬張りながら聞くカッパ。追加で店主の手長にささみのごま昆布和えを頼む。
「結局の話、萌香は視えていたんだ」
「どゆことッスか?」
頭にはてなマークを浮かべているカッパにいぬがみは懇切丁寧に事情を話す。
「なるほど〜そうなんッスか。でも、何がともあれ萌香と仲睦まじくやって行けて良かったッスね。はぁ、ワシもソウキさんみたいに嫁さんと仲睦まじく出来たら良いんッスけどねぇ」
「ついでに、お前の言う嫁さんが萌香だ」
「はぁ?」
突然の事実に開いた口が塞がらないカッパ。ちょうど味噌汁を飲んでいたところだったので黄色いクチバシの端から味噌汁がこぼれている。
ガタンッ!
「そんなのは認めないッス」
席から立ち上がり大声で否定するカッパ。
「まぁ、落ち着け」
「嫌ッス、証拠がない限りワシは認めんッス!」
「証拠って言われても」
「証拠がないなら嫁さんはソウキさんの嫁さんじゃないッス。だから、まだ嫁さんはワシの嫁さんッス」
「お前、自分の都合の良いように物事を言うなよ」
もう、どうでも良いと呆れるいぬがみ。
「今の言葉、あいつが聞いたらどうなることやら」
いぬがみは自然と背後が気になって、振り返るが当然ソウキはいない。ついでに周囲を見回す。
「いぬがみさん、何キョロキョロしてるんッスか?」
「ソウキが居ないか確認、もしあいつが居たらお前は妖気で押し潰されるか、存在を消されるかのどっちかだなって思ってた」
「嫁さんはワシの嫁さんッス。だからそんな心配は無用ッス」
「曲げねぇな」
カッパの必死さに苦笑して焼酎を煽り、枝豆を食べる。
「まぁ、人と妖がくっ付くのは稀に見るもんじゃねぇし、温かく見守ってやるのがこっちとしての礼儀だよな」
「そうッスよね。いぬがみさんもワシを応援してくれるんッスよね!」
会話が噛み合わない上に面倒くさいのでスルー。
「スルースキルをここで発動するんッスか!酷いッス、薄情者ッス。みんなにもふもふ可愛がられて、次の人生は綿あめにされて食べられろッス」
「海に沈めようか?」
海ではなく、カッパの顔面はカウンターにのめり込んでいる。と言うのも、いぬがみにげんこつをくらっただけなのだが、その威力が凄かったので、カウンターにのめり込む羽目となった。
「おい…おめぇら、カウンターの修理代はきっちり払ってもらうからな?」
他の客に料理を作っていた店主の手長がこちらを向き、人間姿のいぬがみの時よりも鋭い眼光で、2人を睨みつける。妖力を当てていないのにも関わらず、威圧感で押し潰されそうになり背筋に冷や汗が流れ落ちる、いぬがみとカッパ。
「「すいませんでした」」
謝るが勝ち、ということで2人は謝ります。
* * *
店主の怒りが収まり、いぬがみとカッパが飲み始めてかれこれ2時間が経った頃。程よく酔ったカッパがとある情報を口にする。
「そう言えば、昨日、田舎町の方に珍しく人間の女の子と妖のバカップルが来たらしいんッスよ」
「バカップル?」
「ワシの友人から聞いた話なんッスけど、お団子を食べさせあったり、道を歩きながらキスしたりイチャイチャしていたらしいッス」
「イチャつくのは良いけど場所を弁えろよな」
眉間にシワを寄せながら話すいぬがみ。
「いやいや、それがまた微笑ましかったらしいッスよ。こう、付き合いたてで初々しいというか、見ている側がにやけるくらいのほのぼのバカップルって言ってたッス。ワシも見て見たかったッスねー」
「ほぉ〜」
近くに人間と妖のカップルがいる、いぬがみは興味を示したのかカッパの話に食いつく。
「それで道を歩きながらキスした後に何て言ったと思うッスか?」
「どうせ、愛してるよーとかだろ」
「ちっ、ちっ、ちっ」
カッパの態度にイラついたが、いぬがみは話の先が気になるので我慢する。
「もう何度、友人からその話を聞かされた事やら」
「もったいぶるなよ」
「良いッスか?それではキスした後、行くッスよ。
コホンッ!
「周りの目があるんだけど」
「オレ、そんなの気にしないよ」
「私が気にするの」
「じゃぁ、2人っきりの時は良いの?」
「うん」って言ってたッス。しかも、人間の女の子は恥じらいながらッスよ!」
「とんだ、バカップルだな」
大笑いする2人。その声はガヤガヤと騒がしい居酒屋の中に響いた。
「はぁ。それだけ見せつければ、どこの誰かって分かるだろ」
「それが、分からないらしいッス」
「へぇー」
「でも、この話はもう大勢に広まっているッスから、分かるのも時間の問題ッスね」
口を潤すため梅酒を飲むカッパと枝豆を食べるいぬがみ。その時、いぬがみの左隣の席から知っている声が聞こえてきた。
「バカップルって、うわぁあ恥ずかしいわぁ」
「あの時の萌香、可愛かったな」
「鬼さんやめて!せっかく記憶から消したのに、また戻ってきそうだよ」
知っている2つの声の方に首を向けると、そこにいたのは、なんと萌香とソウキだった。
「嫁さんっ⁉︎」
「お前らなんでここにいるんだ!」
驚きのあまり、カッパは飲んでいた梅酒を吹きそうになり、いぬがみは手に持っていた枝豆をテーブルの上に落とした。




