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101/150

101・買い物という名のデート②

門の前にはSPのような黒いスーツにこれまた黒いサングラスを掛けた同じ顔の厳つい男が2人いました。多分、双子だと思う。見た目は人間っぽいけれど少し違う点を挙げれば、それは背中から黒くて大きな翼が生えていることです。


「人間は入国手続きをしてくれ」


門に着くなり強面の片方に連れられて来たのは門の隣にある小さなプレハブ小屋。鬼さんには外で待っててもらい私は中で入国手続きをしました。ちなみに鬼さん達のような存在は入国手続きなしでそのまま門を(くぐ)れます。


「お嬢ちゃん、ここに来るなんて物好きだねぇ」


入国手続きをしてくれたのはさっきの強面の烏天狗ではなく、プレハブ小屋の中で机に突っ伏して寝ていたやる気のなさそうなちょいワル親父風の烏天狗、胸ポケットに付いていたネームプレートには『黒山(くろやま)』と書かれていたので私の勝手ながら黒山さんと呼ばさせてもらいましょう。


「鬼さんから妖怪界(こっちのせかい)の方が物価が安いと聞いたので」


入国手続きは実に簡単で白い紙に名前と住所を書いて左手の甲に複雑な模様の赤いハンコを押してもらうだけなのですが黒山さんは話し好きなのか、もう入国手続きは終わっているのにも関わらずなかなか私を帰してくれません。私としては早く買い物に行きたいのにな。


「そうかそうか、まぁお嬢ちゃんの場合、迷子じゃないし任意で来たから、別に記憶を消して人間界(むこうのせかい)に強制送還しなくてすむな」

「消すの⁉︎」


黒山さんが言うには任意で来た場合、妖怪界(ここの)にきたという記憶を消さずにそのまま人間界にお帰り。で、迷子の場合は黒山さんが妖力を使ってここに来たという記憶を消してから人間界に強制送還するそうです。そして、記憶を消す理由は。


「色々とめんどいじゃん?」

「投げやりですね」

「それに、迷子って言っても年に1、2人くらいしか来ねぇし。正直暇なんだよ。門番のあいつらは頭固いし、冗談通じないし」


いつまで続くのこれ〜!

そろそろこっちから切り出さないと本当に買い物する時間が減る。うーんと悩んでいると黒山さんが机から身を乗り出して、またも話しかけてきます。


「で、話変わるけどよ、さっきの鬼はお嬢ちゃんの彼氏か?」

「手続きありがとうございました」


笑顔で話をぶった切り、私はさっさとプレハブ小屋から出ました。本当はこう言うことはダメだけど、こうでもしないと話が終わらないと思う。


「鬼さん、お待たせしましたー」

「長かったけど、何もされてない?大丈夫?」

「ただ単に話の長いおじさんに絡まれただけだよ」


実はあのプレハブ小屋は防音で部屋の中の声は絶対に漏れないようになっているそうです。この情報も黒山さんから聞きました。


「絡まれたぁ?」

「鬼さん、変な意味で解釈しないでね」


鬼さん、声色が怖かったよ。




* * *




門の前にいる厳つい2人の烏天狗さんに左手の甲を見せつけ、ようやく中に入ることが出来ました。そこで私が見たものは、活気に溢れる様々なお店やたくさんの妖怪たち。


「江戸時代の城下町だね」


どこをどう見ても時代劇に出てくる城下町。まるで、江戸時代にタイムスリップしたようです。でも、いぬがみさんに人間界と同じ作りだと教えてもらっていたから、てっきりビルとかがあって現代風かと思っていたら違うのね。


「ここは田舎だからこういう作りなんだ」

「田舎と言うことは都会もあるんだよね」

「あぁ、都会の方は人間界と同じ作りになっていて、田舎よりも物価は少し高いかな。それでも、人間界に比べたら安いと思うけど」

「じゃぁ今日は田舎と都会、両方行きたい。できれば全部ゆっくり見たいな」

「それには時間が掛かるから都会はまた今度にしよう」

「それなら、明日行こうね。ちょうど我楽多屋のバイトは無いしさ」

「了解」


こうして、明日も妖怪界(こっちのせかい)に来ることを約束しました。はぐれないように手をしっかりと繋ぎながら歩き、どの店で買い物をするのか考えます。右を見れば魚屋や油屋、左を見れば芝居小屋や寺子屋らしき建物。


「あっ、鬼さん。あそこの魚屋がこの通りの中で安い!」

「ちょっ、萌香!」


鬼さんと繋いでいた手を離し、私は子供のように目的の魚屋まで走ります。魚屋の店主らしき妖怪は茶色い猫耳が特徴な猫又の男。猫だ!柔らかそうな毛並みとか抱きしめたいなー。


「可愛い人間のお嬢ちゃんだね。今ならサービスするよ」

「本当ですか⁉︎」

「萌香、勝手にいなくならないで⁉︎」

「ごめん、ごめん」


だって、安いお店があるよレーダーが反応してしまったのだから仕方が無いよ。


「あっ、向こうに美味しそうな食べ物屋がある!こっちには可愛い小物もあるよ!」

「待って、オレも行くから」


ごめんね、目移りしちゃって止まらないんだ。もちろん魚は後でさっきの魚屋で色々買います。


「かわいいー!安いー!」

「萌香、移動するの早いな」

「だってだって」


安いお店と可愛いものに興奮しています。


「ハハッ!」

「鬼さんが当然、笑った⁉︎」

「萌香が楽しそうだから見てるこっちも楽しくなるよ」


確かに今の私は、こっちの世界を楽しんでいる。それが鬼さんに伝わったんだ。なんだかこういう雰囲気って良いよね。

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