妻が残した最後の"モノ"
「うわああああああああああああッ!!」
真っ暗な部屋の中で、俺は昨日まで"大好きだった"お金に囲まれている。
金がゴミのように、散らばる。
そして、俺は札束を破いた。
――俺が、こんな物に固執しなければ……。
何故このようになったか、それは逆上る事5年ほど前の事。
俺は、1人の女性と結婚をした。
その女性は、穏やかでのほほんとしており、怒った顔を一度も見せた事のない、典型的なお嬢様タイプだった。
……だからこそ、金遣いが荒くないように、そう思って彼女の財布を絞りに絞った。
小遣いは月千円にし、その他必要経費は俺に申請する事。
そうやって生活して1年が過ぎるとつやつやだった彼女の肌には吹き出物がたくさんできて、女として見れなくなった。
――いや、むしろ人間として見ていなかった。
太っているわけではないけれど、いつも目の下にはクマができ肌の色も不健康そうで……。
その時から、妻の上司から口うるさく"妻と別れろ"というメールがきていた。
その度に、妻の小遣いを差し引いた。
……身動きができなくなるように……。
その結果、妻の小遣いはなくなったし周辺にある物はほとんど売って金に買えた。
そして、半年前に妻が消えた。
月に一度、大量の金が入り込んできた。
――だから、何処かで妻は生きている。
そう思って、あえて妻を探さなかった。
――だって、妻と俺は愛し合っているから、必ず妻は戻ってくる。
そして、昨日の事だ。
また、妻の上司から妻と別れろと催促をされた。
"加奈子の寿命は後半年なんだから、もう開放してやってくれ。金は十分貰っただろ……?"
――金、何のことだ……?
暗いような顔で俺に迫る妻の上司に、俺は事情を説明するように求めた。
すると、妻が消えたあの日、何と妻は病気になっていたそうで。
治療を薦めた医者に、妻は嬉しそうにこう言ったそうだ。
『よかった、光君に保険料が入るよね……。そうしたら、喜んでくれるかな?』
その後、会社も止めたそうだ。
そして、二ヶ月ほど前にソープで働く妻を発見し、病院に入院させた。
……あの時に、治療をしておけば手遅れではなかったそうだ。
そして、現在俺は妻の金をばら蒔いている。
愛してくれた人の子供が欲しい、だから節約した結果が"コレ"だ。
病院に行くと、加奈子は起きない。
静かに眠ったまま、二度と動く事はない。
……そう、植物人間だ。
何がいけなかったのか、節約がそんなに駄目なのか。
――何もかも、わからない。
妻の持ち物は、ほとんど売ってしまった……。
写真も、全て妻の両親が持っていった。
残っている物は、金という紙切れのみ。
破いて投げると、綺麗にひらりひらりと舞う。
――嗚呼、加奈子と出会った時は桜の舞う春だった。
そんな事を考えながら、俺は金を放り投げた。
破って投げるたびに、加奈子がそこで笑っている気がした。
さくらさくらを歌いながら、俺は金を中に投げる。