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大人になるということ

作者: なんくるないさ

「大人になるということ」

☆心


心はいつ成長するのだろうか・・・。

子供の頃の記憶・・・と言うよりも気持ちや感覚と言ったものが他の人よりもリアルに残っている私にとって心の成長はほとんどないと言った方が良いのかもしれない。


「はい!みんな右手をあげて」

向かい合うように立つ先生が右手を挙げる。

ほとんどの友達が左手を挙げていて、「なんで分からないのだろう。」

先生が右手を挙げながら私たちと同じ向きに体を回すと「え~~~!?」

まるで先生が手品でもしたかのような歓声が起こる。

子供心に時間の無駄だと冷めていた。

転んですぐに泣いたり、お菓子が買ってもらえないと駄々をこねては転がっている子供を子供の私は呆れていた。

どうしてそんなことをするのか理解出来なかったし、特に泣くことに関して言えばそれはとても恥ずかしい事のように感じていた。

その捻くれたというべきか、既に人生を重ねてきたかのような冷静さとは裏腹に私はとても繊細だった。

友達の中では私が一番不細工だろうと感じていたし、みんなの前に出て何かを話すという事はとてつもなく怖かった。笑われてしまう。私の言うことは受け入れてはもらえない。

結果、「どうしてあなたは何も言わなかったの?」

右手と左手の区別もきちんと付いているのに、言わなければそれは誰も気づかない。ただの面倒な子供に大人からも子供からも思われていたのだろう。

それを感じていたことには気づかなかったが、身体はとても正直だった。

その日を境に私のお弁当幼稚園から帰宅をして開けると、朝詰めたときのそれと同じだったという。



☆記憶


記憶がリアルに残っているはずだったが、すっぽりと消えてしまっている記憶もある。

幼稚園の頃はお弁当を食べるのが楽しみで仕方がなくて、当時は海苔を持っていくのが流行って海苔だけを銜えてパリパリと友達と食べていた。



キャンディーのようなチーズが羨ましくて母にねだり買ってもらい楽しみにしながら食べたそのチーズが衝撃的に口に合わなかったこと。

その味までも覚えているはずなのに、お弁当を食べずに持ち帰っていた日々が続いた記憶だけはスッポリと抜けている。

子供にしては繊細過ぎて、神様がその気持ちと記憶を消してくれたのかと思うほどに空っぽだ。

しかし、もっと幼かった頃の恥ずかしかった記憶は残っている・・・。

何を基準に神様が記憶を操ってくれているのか・・・それは大人になってもわからぬままだ。



決心


心の成長はほとんどないと述べたがそれはもちろん全てではない。

パーマンのマントを被ったからといって本当は飛べない事。

キョンシーが来たらと息を止めてから眠りについた夜も、キントーンに乗って夜は散歩していると言って爆睡していた兄との思い出もそのどれもが私を子供らしく信じてワクワクさせていた。

そんな事もあったのだと少し安心する。

でも、何故かそういった記憶はやはり少ない。

 

 祖父母の家に泊まりに行くことは夏休みの一大イベントだった。

親戚も多かったため、ちょこちょこ御小遣いがもらえた。

それを貰う度に必ず母に渡していた。

それなのに、その夜に母は「貰ってない」

そう言って怒っている。確かに渡した。まだ幼稚園の私よりも大人の方が正しいとみんなが思い込んでいるのが腹立たしかった。

それから少し経ってから母のサブバックからお金が出てきて

「あった~~~!ごめんねごめんね~」

笑ってる。笑って許される。

 牛乳を飲んでついこぼしてしまった時も「ふざけているからよ!」そう怒鳴られるのに父がこぼしたときは怒らない。

大人はそれを当たり前と思っているようだったが、私は違った。

私はふざけてはいない。わざとではない。まだ小さな手で上手く飲めなかっただけだと今なら分かる、その時はこぼしてしまう理由などは分からない。ただただ故意ではないという事実だけが心に残る。そして、絶対にこういう大人にはならないと決心する。


☆自信


物事を子供らしく考えられなかったせいなのかは分からないが、私は自分自身に自信がなかった。そして大人の顔色を無意識に窺がうがあまり損をすることも多かった。

その日は私と兄は従兄の家に泊まりに行った。

伯父も伯母は私たちを回転寿司に連れて行ってくれたり、洋服を買ってくれたり特に女の子が欲しかった伯母は私を可愛がってくれていた。

夕飯を食べ、家に向かう途中でコンビニに寄って兄はアイスを食べたそうに眺めていた。

伯母が買ってくれると言ったが私は断った。

普段夜にアイスは食べた事がなかった。それに何より母に怒られると思ったからだ。

帰宅して、その事を母に話すと「食べればよかったのに」

その言葉に拍子抜けする。食べて良かったのだと・・・。

素直に喜んで食べていた兄は大人からしたらさぞ可愛かっただろう・・・。

私は大人びた表情できっとそうとは思われていなかったに違いない。

何をするにも考えてしまうだけで一歩も踏み出すことの出来ない私は自分のすることが正しいのか正しくないのかを自分では判断することが出来ずに、いつも後になってから大人の言葉に一喜一憂させられるのだった。

そのほとんどが一憂だったので自信なんてついてはこなかった。


☆大人


子供の頃の想いがそのまま記憶となって残っている私は早く大人になりたかった。

大人になれば楽になれると思っていたからだろう。

しかし、思い描いていた大人の世界と子供の頃の私の世界はまるで同じで何一つとして変わらなかった。

あの頃、右手と左手が分からず先生の手品だと思い込んでいた友達たちはその記憶すらないらしい。

いつからか大人という物がもっとハッキリとした何か具体的な物があるものかとばかり思っていた。大人になれば全てが分かる。何を尋ねられても答えられる。

当たり前だがそんなことはないと分かってる。でも子供の頃の私はそれを期待していた。しかし小学校、中学校、高校、短大と同じように時が流れていくだけだった。

唯一の変化は泣くということ。

普通は逆なのかもしれないが、私は子供の頃はほとんど泣かなかった。

それなのに大人になるにつれてすぐに涙が流れてくるようになった。

それが大人になるということとは到底思えない。

ただ、人前で泣くという事が出来るようになったのは一つに成長だったのかもしれない。

信じるということ。自分を委ね、さらけ出せるということ。

そういう場所は私にもあったはずなのに、素直でなかった私はやっと見つけ出したのだと感じだしたのは高校生の終わりくらいだった。

それを気づかせてくれたというより、引き出してくれたのは友達だった。

みんなそれぞれの悩みを抱え、不安を抱きながらも何をしても笑っていたキラキラしたあの頃。臭いセリフを並べては恋について語ったり泣いたり。それはちっとも恥ずかしい事ではなかった。

かと言って恋に積極的にはなれなかったのは、染みついてしまった私の人格からとでも言うべきだろうか・・・。


☆恋


18歳の頃初めて恋人と呼べる人が出来た。

彼に恋をしていたわけでもなく、ただただ友達と思っていたし、私には何年も片思いしていた人がいてその叶わなかった思いを無駄にしないために、次に好きな人が出来たら自分から告白する!と意気込んでいた。

しかし、そんな人は現れず気づいたら友達だと思っていた人が恋人になっていた。

今まで、結婚するわけでもないしとりあえず付き合ってみてもいいかも!友達には言えても自分はダメだった。

なのに彼とは違った。何とも思っていなかったはずなのに手離してはいけない気がしたのだ。彼は私とは全く違っておちゃらけた世渡り上手なムードメーカー。

今思えば顔もそこそこなのに、それを掻き消すようなキャラクターに誰もが親しみを抱いた。特に私の母親だ。

少女漫画などで読んだカップルは女の子は本当に女らしく清潔で綺麗だった。

でも私は不器用だし、完璧な女の子にはなれない。ちょっぴりぽっちゃり気味だしすぐに嫌われてしまうのだろう。

そんな不安を掻き消すかのように彼は無邪気だった。

ただ一緒に居て同じ物を見て、食べて、笑って。それだけでいいって事がどんなに心地良かったことか。

ここで私は、甘えてもいい事を教えてもらった。もっと甘えていい。寄りかかっていい。

頑なに拒んだ私の右手を私が差し出すまで何往復も歩いて彼はありのままの私を受け入れてくれた。とてつもなく自然に。

それは子供の頃の捻くれた心を紐解いていく魔法のようだった。




☆大人になるということ



それはとっても幸せな事だった。

恋人が出来て世界がまるで変ったかのようなあの温かい時間が私を変えていった。

過去の全てを話、その捻くれた私を主人公に絵本を作ると彼は泣いた。

絵本と言っても当時学校ででた宿題だったのだが、それでもとても嬉しかった。

ずっと一緒に居ようなんて約束も本気で信じ切っていたし、絶対そうなると思っていた。

でも・・・私にとっての現実はそうではなかった。

安心が不安に変わり、素直になることと甘える事が上手くコントロールできなくなっていった。

何かを知り得るとまた一つ何かを知り・・・どうしてか私たちをかき乱す。

それを繰り返すうちにその恋は終わった。

恋は人を成長させるなんて耳にするけど、それは嘘だった。

それからの私は孤独だった。

一番大切だった人を失った事が受け入れられないというよりも、意味が分からなかった。

毎日そこに在ったものが一瞬にして消えたその世界を生きていくことが出来なかった。

こんなことを世の中の男女は繰り返し、それでもまた誰かと一緒になり生きていくのだろうか。

どうしてみんな笑っていられるのだろうか。

どうしてあの人はもう私を見てくれないのだろうか。

約束はもろく儚く、カラオケで歌い飛ばされるほどに惨めになった。


大人になったと思っていた。

誰かに寄りかかれる、自分は自分のままでいいと教えてくれたあの恋に。



☆子供と大人

子供から大人になると言っても結局は自分自身でそれは何者でもない。

冷静に考えるようになったのは結婚してからだろうか。

あれから何度か恋をして、失敗もした。

どうして私はみんなのように上手くいかないんだろうかと落ち込んでは、初めての恋人を思い出し泣いていた。

運命の悪戯のようなものがあり、その彼と偶然の再会をした時にはもう既に悲しみは消えていて切なさだけを残していった。

大どんでん返しなんてドラマみたいな事は起きずに平凡な毎日は過ぎていく。

いちいち大人になることや子供とは・・・なんてそもそも考えたのがいけなかったのかもしれない。

それは全て私の人生そのもでしかないのだから。


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