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002 怪異との遭遇

 妻斗はすぐに少女を店内に運んだ。俊行は2階にある居間のソファに彼女を寝かせ、妻斗に近くについているように言って台所の方に行った。大怪我はしていないようだったが、そのまま転がしておいていい理由にはならない。

「う…」

 少女が低く呻く。そして、その目がゆっくりと開いた。

「…う…私…は…?」

 少女の目が、ゆっくりと周りを見渡す。日本人離れした、澄んだ碧眼だった。

「気付いたか?」

 妻斗に声を掛けられ、少女がゆっくり口を開く。

「此処は…?」

「shadowって喫茶店だ。アンタ、ウチの裏で倒れてたぜ。何があったんだ?」

「…!私はもう失礼します。面倒をかけて申し訳…ッ!」

 少女が立ち上がろうとして、肩を押さえた。打撲でもしているらしかった。

「無理すんな。今ウチの店長が食うもん作ってるから。腹減ってるか?」

「いえ、そう言う訳では特に…」

 少女がそう言ったとたん、ぐるるるる…と音が聞こえた。少女の顔がちょっとだけ赤くなる。

「…すみません、御馳走になります…」



 俊行が持ってきたサンドイッチを食べ、二言三言話してから、少女はまた眠りについた。わずかにあどけなさの残る寝顔は、その碧眼と同様に日本人離れしていた。ひょっとしたら、本当に人種が違うのかもしれない。

「俺、今夜は此処で寝ますわ。」

「おう、すまんな。だが、やましい事すんじゃねえぞ。」

「しませんって。」

 俊行は妻斗に釘を刺してから、寝室に引っ込んでいった。ちなみに紗奈恵は先ほど帰ってきて、今は風呂に入っている。

(…しかし、何なんだろうな、この子。何でウチの庭なんかに…)

 考えてはみたが、やっぱりわからない。

「…ま、いっか。俺も寝よ。」

 もごもご呟いてから、妻斗は床に敷いた布団に潜り込み、忍び寄って来る睡魔に身を任せた。





「…本当に申し訳ありません。食事をごちそうになった上、寝床まで貸していただいて…」

「いいって事よ。んじゃあ、気をつけてな。」

「有難うございます。では、私はこれで。」

 少女は丁寧に頭を下げてから、店を去って行った。

「しかし、変わった子だったね。ガイジンさん?」

 紗奈恵が言った。黒のタンクトップにカーキ色のズボン、頭にバンダナを巻いた、20代後半くらいの女性だ。

「たぶんそうだろうな。さ、今日もお仕事だ。」

「了解っす。」

 妻斗は人差し指と中指をそろえて敬礼のまねごとをしてから店内に入った。すると、カウンターテーブルに何か置いてあるのを見つけた。

「んだ、これ?」

 ブローチか何かの様だった。金色の綺麗な装飾が縁に施され、真ん中には赤いガラス玉の様な物が埋め込まれている。

「紗奈恵さん、これ紗奈恵さんのですか?」

「え?あたしのじゃないけど。」

「さっきの子が忘れてったんじゃねえのか?」

「だとしたら困ってっかもな…俺、探して届けて来ます。」

「おう、気をつけてな!」

 妻斗は卓上のブローチを掴むと、店の外に走り出して行った。





 駅前で少女を発見した妻斗は、すぐに駆け寄って彼女にブローチを渡した。

「すみません、迷惑ばかり…」

「いいのいいの。次から気をつけろよ?」

 また頭を下げる少女。本当に律義な子だ。


「…見つけた。」

 そんな言葉が、不意に聞こえた。

 言葉の主はすぐに見つかった。もうすぐ夏に差し掛かろうという今時分に、黒の革ジャンと長いジーンズを着た、20代後半くらいの男だ。

「お前は…!」

 少女がふいに一歩後ずさり、険しい表情を作る。知り合いか何かだろうか。

「丁度いい。お前を消すついでに、この場にいる人間の魔力もごっそり頂こうか。」

 わけのわからない事を言って男が取り出したのは、銀の鍵の様なものだった。刺す部分の反対側にエメラルドの様な装飾が施され、何かの紋章が描かれている。男は革ジャンの前を開けると下に着ていたシャツの首の部分を下に引っ張った。そこにあったのは、長方形の小さな穴。ちょうど、手にした鍵が刺さるくらいの…

「いけません、逃げて!」

 少女が叫ぶのとほとんど同時に、男は鍵を刺した。すると、男の体から緑色のオーラの様な物が噴出。そして、それが収まった時、男の姿は一変していた。

 有機的な緑の体。細長いがか弱さがみじんも感じられない手足。両腰に刺さった、ナイフ状の武器。逆三角形型の頭の両端には、大きな複眼。そう、まるで人間カマキリだ。

 それを見た近くの人間は、目の前の現象を面白そうに眺めていた。奇術か何かだとでも思ったのだろうか?

「ハアァァ!!」

 カマキリ男は気味の悪い声を上げると、一番近くにいたサラリーマン風の中年男に一瞬で駆け寄り、右手を一振り。

 次の瞬間、胸に大穴を穿たれた体が、鮮血を噴水のように噴出して倒れた。

「「「「……うわああああああああああ!!!!」」」」

 たちまちパニックが起こる。そんな光景をよそに、カマキリ男は犠牲者の死体に歩み寄ると、頭を乱暴に掴んで持ち上げると自分の顔を近づけ、口を大きく開く。キスでもするのかと思った瞬間、瞬間、中年男の口から、黄色いエネルギーの流れの様な物がカマキリ男の口との間の数10センチの空間を横切っての口に入って行き、そしてふいに止まった。

「ふいー、ごっそさん。」

 カマキリ男は死体を放り出して口を拭うと、新たな犠牲者を殺害し、また何かを喰らいだした。

 妻斗は動けなかった。パニックを起こした人々の様に、逃げ出す気力も起きなかった。

「…何だよ…これ…?」

 すると、腕を引っ張られるのを感じる。先ほどの少女が、妻斗に訴えかけた。

「逃げてください、早く!」

「逃げるって…お前はどうするんだよ!」

「奴の一番の狙いは私です。私が奴に向かっていけば…」

「止めろよ、お前死ぬ気か?大体、アレは何なんだよ!?」

 妻斗の問いに、少女が答えた。

「…あれはホムンクルス。人智を超えた、怪異です。」

「ホムン…クルス…?人造人間か?」

「詳しく説明している時間はありません。早く!」

「待てよ。お前あいつのこと知ってるのか?だったらなんかないのか?アイツを倒せる武器みたいなのとか!」

「いいえ。」

 少女の答えに、妻斗は絶望的な気分になった。一方カマキリ男は、出動してきた警察の特殊部隊に襲いかかっていた。銃がまるで効かない。9㎜弾をものともしない化け物にそれでも必死の抵抗を続ける警察を、カマキリ男は素手でやすやすと殺しまくっていった。

「…武器はありませんが、手段はあります。でも、私にそれを使うことはできません…」

「だったら俺がやる!どうするんだ!?」

「いけません!」

「どうして!?」

 少女は厳しい表情で言った。同時に、警官隊を皆殺しにしたカマキリ男が、こちらを向いた。

「一度それを使えば、貴方はあのような怪異と戦う運命から一生逃れられなくなる。貴方は別の生き方を選べなくなってしまうのです!だから!」

「どうせこんなところに遭遇したんだ!もう完全にこれまでどおりの暮らしが送れるなんて思っちゃいねえ!頼む!俺にやらせてくれ!」

「何故貴方が!?」

「一度助けたあんたが危ないんだ!此処で見捨てたら本物のクズだろうが!」

「……」

 少女が逡巡する間にも、カマキリ男は迫って来る。

「……分かりました。でもその前に!」

 少女はいきなり両手を前につき出した。

「目を逸らして耳をふさいで!」

 妻斗が言われたとおりにすると、少女の方から凄まじい光がちらりと見えた。

「グアアッ!」

 カマキリ男が目を押さえて悶絶する。スタングレネードの様な物を使ったらしい。

「今です!」

 少女は物陰に妻斗を引っ張って行った。



 物陰で、少女は妻斗に問いかけた。

「何か刃物はありますか?」

「え?あ、ああ。一応、こいつが。」

 そう言って、妻斗はベルト止めに小さなカラビナで引っ掛けたアーミーナイフを取り出した。軍用っぽい名前だがレジャー用品だ。小さなナイフの他に栓抜きや爪切り、ハサミなどが付いていて、何かと便利なため妻斗は常に持ち歩いている。

「どうすればいいんだ?」

「まず、貴方の左手の甲に、血で魔法陣を描いて下さい。」

「魔法陣!?んなもん、描いた事も…」

「六恾星を丸く囲った程度の物で構いません。重要なのは、それが貴方の血である、という事なのです。手順が終われば、傷はひとりでに癒えます。」

「…分かった。」

 妻斗は刃を出したアーミーナイフを握ると、自分の腕を浅く切った。焼けるような激痛が走る。それを必死でこらえて指に血をつけると、少女に言われたとおり、手の甲に六恾星を描き、それを丸く囲む。

「っつう…次は…どうすれば…?」

 少女はずっと嵌めていた右手の黒い手袋をはずし、手の甲を見せた。そこには、黒い魔法陣が刻み込まれていた。

「貴方の血印と、私のこれを重ねてください。」

「っああ…分かった…」

 少女の黒い印と、妻斗の赤い印が重なる。すると、そこから光があふれ出た。

 少女の体がまばゆい光に変換され、妻斗の左腕を覆う。光が晴れると、左腕には変化があった。

 左腕全体を、ミラーシルバーのガントレットが覆っていた。手の甲には丸い半透明のパーツがあり、中指の付け根のあたりに、何かを差し込むためと思しき穴がある。

『使い方は、分かりますね?』

 ガントレットから少女の声が聞こえる。これは、彼女が変身したものなのだろうか?

「使い方?んなモン分かる訳…」

 そう言ってから、妻斗は気付いた。

 分かるのだ。この、得体のしれない道具の使い方が。まるで、生まれた時から体の一部だったように。ごく自然に。

「ああ…ばっちりだ。」

『では、あのホムンクルスを…』

「分かった。」



 ホムンクルス―ソードマンティスの前に、妻斗が立ちはだかった。

「ガキ、お前死にた…!?」

 ソードマンティスの挑発的な声は、途中で凍りついた。妻斗の左腕を覆うガントレットを見て。

「お前、まさか…」

 妻斗が右手に持っているのは、鍵だった。ソードマンティスが変身に使ったのと似ているが、装飾の色は黄色で、刻まれた意匠は雷の様な物だ。妻斗はガントレットの穴に鍵を差し込んで90度回転させ、手の甲で中に押し込む。

『チェンジ:サンダー!レディ?』

 少女の声が、ガントレットから響く。その直後、妻斗は両手を腰の横で構え、ガントレットが装着された左拳を天に突き上げた。

「魔導変身、王牙!」

 そして胸の前で両腕をクロスさせてから横に大きく広げ。

「着装!」

 両拳を、勢いよくぶつけた。

『ゴー!』

 次の瞬間、妻斗の足元に黄色い魔法陣が現れ、上に向かって上がって行く。そして、魔法陣が通過すると、妻斗の体には黒いラインが入った黄色いスーツが装着されていた。首から下を完全に覆い尽くす、体にフィットしたスーツ。

 そして、頭上に到達した魔法陣から、ガントレットと同じミラーシルバーの装甲が出現。妻斗の体の周りを素早く2周ほどした後、両脚に、右腕に、胴体に、装甲が装着されていく。そして兜の様なフルフェイスのヘルメットが頭に装着され、ゴーグル状の赤いアイスリットが下りる。

 全身を隈なく覆うアーマー。人間とほぼ同じながら、それよりも力強いシルエット。特撮番組のヒーローを思わせる姿だ。

「…賢者の…魔導師…!」

 ソードマンティスが震える声を絞り出すとともに、妻斗――魔導戦士オウガは拳を構えた。

 いかがでしょうか、オウガ初変身です。雰囲気十分伝わったかな?

 次回、いよいよ戦闘シーンです。結構派手な感じになる予定ですが、僕の文章力で伝えられるかどうかは不明です。

 ではでは。

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