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わーるど ちぇんじ  作者: 焼き黄粉餅
編入編!
5/7

転入生と問題児

 俺は、鏡の前に立ってみた。

 そこには、白い髪を腰まで伸ばして、赤いランドセルを担いだ、小さな美少女がいた。

 強いて言うなら、地味な服が残念な気もするが、それは仕方が無い。

 だって、この美少女は俺なんだから。

 敦子あつこさんに借りている部屋。通称子供部屋に、俺は今いた。

 子供部屋。と言っても、勉強机や文房具、ランドセル。服類などが入ったクローゼットなどしかなくて、とても子供部屋には見えない。

 自分で言うのもなんだが、殺風景でつまらない部屋だ。

 だけど、それでいい。

 別におもちゃが欲しくないわけじゃない。子供になったからか、やけにおもちゃが欲しく思えたが、我慢した。一つも買ってもらわなかった。

 俺は、居候なんだ。

 籍の上では家族になっているが、俺の中で既に主従関係は完成している。

 本当は、家族の様に接してくれていることも忍びないのだけど・・・。


れんー!そろそろ起きなさい!」


 ・・・もう、起きてます。

 敦子さんの声に、俺はランドセルを置いて部屋から出る。

 ちなみに、現在時刻は七時だ。


「おはようございます」


「おはよう」


 俺は、挨拶をして椅子に座る。

 座った場所は、敦子さんに指定された場所だ。勝手に座ってなどいない。

 机の上には、既に料理が置かれていた。

 薄めの食パンを半分にしたフレンチトースト。ポテトサラダ。牛乳。

 どれも量が少ない・・・。と思ったりもしたが、この体になってから、俺はハンバーガーすら食べきれなくなった。

 あ、ハンバーガーは昨日買い物後に食べたやつな。


「食べていいわよ?」


 俺が座ったきり何もしないのを見て、敦子さんが声をかけた。

 ・・・腹も減ったので、俺は手を合わせた。


「いただきます」


 男だった時は適当にやっていたことだが、今はしっかり感謝している。感謝の対象は食材じゃなくて敦子さんだが。

 フレンチトーストの二口目を食べようとした時、敦子さんが微笑ましい顔をしながら、俺の方を見ているのに気づいた。

 敦子さんはまだ、一口も食べていない。


「・・・どうしました?」


 俺はフレンチトーストを皿に戻して、敦子さんに訪ねる。

 さっきから敦子さんは俺のことばかり見て、何もしていない。

 微笑ましい顔の裏に、何か考えでもあるのだろうか?


「あ、ごめんね?気にしちゃった?」


「い、いえ。そう言うことでは・・・」


 よく考えれば、『俺のことばかり見ている』なんて自意識過剰すぎる。

 寧ろ、俺が気にさせてしまった。


「ただ、一口も召し上がってないので・・・」


 召し上がるとか、貴族かよ俺。

 ま、最大限にへりくだったら、こうなっちゃうよなぁ。


「夢を、見ているようだから」


「夢?」


 俺は聞き返す。

 少なくとも俺は、寝ていないと思う。

 この顔も、寧ろ目はパッチリとしている方で、眠そうな顔はしていない。

 もちろん、目もつむってない。


「私の、夢が叶ったから・・・」


 敦子さんの夢・・・。

 おおよそ、察しはついている。

 恐らくだが、敦子さんは家族が欲しいんだと思う。

 言ってなかったが、敦子さんは一人暮らし。この大きな家には、俺を含めても二人しかいない。

 この家を賑やかにする。それが敦子さんの夢なのだと、俺は思った。

 だから、俺を助けたんだろう。


「・・・」


 つまり、俺は敦子さんの願いが叶うまでの繋ぎだ。

 三十代前半。見た目も性格もいい敦子さんなら、結婚のチャンスはまだまだある。

 でも、俺がいたら、子持ちということになり、マイナスになってしまう。

 そうなれば、邪魔者扱いされるだろう。

 もし、敦子さんに将来のパートナーができたら、俺は静かに消えようと思う。

 敦子さんに、拒絶される前に、俺は消える。

 それまでの間、敦子さんの『家族ごっこ』に付き合う。

 別れたくなくなる一線は越えずに、敦子さんと過ごす。

 もう、誰かに拒絶されるのは嫌だから・・・。

 ・・・。

 敦子さんが食べ始めたので、俺も食べるのを再開する。


「そんな事より、今日は本当に一人で行けるの?」


「はい、大丈夫です」


 もちろん学校に、だ。

 俺は敦子さんの押しに負け、小学二年生になってしまった。

 ・・・今さら九九かよって思ったが、一年生よりはマシ。だと思う。

 ランドセルも買っちゃったしな・・・。


「・・・気をつけてね?」


 本気で心配している様子の敦子さん。


「大丈夫です」


 俺はついて来そうな勢いなので、念を押した。

 俺の為に仕事は休んで欲しくない。


「恋なら、友達も沢山できると思うから、ガンバって」


 優しい敦子さんの言葉が、今の俺には痛い・・・。

 この、四月の終わり際という微妙な期間の転校生・・・転入生か?。目立たないわけがない。

 ちなみに、通うのは籠目かごめ小学校。

 昔、俺やかけるも通っていた。

 まさか二度も通う事になってしまうとはな・・・。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


 食べ終わった俺は、手を合わせて敦子さんに感謝する。

 ちなみに、敦子さんはもう食べ終わっていた。

 俺、食べるの遅すぎるよな・・・。



 ◇ ◇ ◇



「お前が、栗林くりばやし恋だな?」


 敦子さんの家から出て、俺は今、籠目小学校の教務室にいる。

 ソファーに座らされ、ランドセルを置いた机を挟んで男と向かい合っている。

 男は、二十代前半の見るからにクールそうな見た目だ。

 ちなみに、イケメンでメガネ。


「はい」


「もう少ししたら、俺と一緒に来てくれるか?」


 ・・・キザな奴だな。

 六年生くらいだったら、惚れるやつもいるんじゃないか?

 俺は、惚れたりしないが。

 そもそも、心は男だからな。

 若干心の中で毒づいてから、俺は答える。


「はい。わかりました」


 さすがに、教師になれてるんだ。ロリコンの変態野郎ではないだろう。

 てか、俺。いつの間にか敬語が染み付いちゃったな・・・。

 このキャラのまま、静かに過ごそうか・・・。


「・・・」


 俺は、職務中のはずなのに堂々とケータイをいじっている、男に冷たい目を向ける。

 ケータイと言っても、パカパカ開くやつじゃなくて、スマホだが。


「・・・なんだ?どうかしたか?」


「いえ。何も」


 俺は、誤魔化した。


「そうか」


 男は、再びスマホに目を移す。

 こいつ・・・チラリと見えたが、パヌドラやってやがる。

 俺は更に冷ややかな目を向ける。

 だって、職務中にゲームだぜ?

 しかも、生徒の前で。


「何かあるのか?」


「・・・いえ」


「あぁ、俺はくれな善吉ぜんきちだ。紅先生と呼んでくれ」


 思い出した、と言う様に名乗る善吉。

 とりあえず、心の中では喧嘩売っておく。


「わかりました」


「お前は、挨拶を考えてあるのか?」


「挨拶?」


「転入生なんだ。クラスの前で挨拶してもらうぞ?」


 挨拶?

 ・・・。

 とりあえず、考えておこう。


「挨拶、ここでしてみろ」


「はぃ?」


 声が外れた。恥ずかしい・・・。

 ていうか、この野郎。俺が考えようとしてる最中に、してみろだと?

 嫌がらせか?

 しかも、ニヤニヤとしてるし・・・。

 ドSか?ドSなのか?


「どうした?まさか、考えてこなかったのか?」


 二年生への対応じゃないだろ・・・。

 まだ、一応七歳なんだぞ?


「は、はい・・・」


 俺は、俯きながら答える。

 こいつ、楽しんでる・・・!


「じゃ、考えとけよ?」


「はい・・・」


 絶対、いつか泣かせてやる・・・。

 挨拶の内容より、俺はそっちに頭がいっていた。


 そして、チャイムが鳴った。


「行くぞ」


 善吉が俺の先を歩いて、教務室から出る。

 俺はそれに続く。

 籠目小学校は通常棟と特別棟に分かれている。

 通常棟は、一年から六年の教室と、体育館がある。特別棟は、教務室、理科室や保健室などがある。

 渡り廊下二本で、この二つの棟は繋がっていて、図書室は二階、玄関は一階。の、渡り廊下にある。ちなみに、もう一本の渡り廊下には何もない。

 で、今俺たちは渡り廊下を歩いて、一階の二年生教室に向かっている。

 教務室は二階なので、一回階段を降りることになる。

 以上。二回目の学校情報でした。

 ・・・。

 俺は、挨拶の内容を考えながら階段を降りる。

 どうしようか・・・。

 階段を降りきった所で、


「あ、名簿表忘った。ちょっと、待っててくれ」


 と、言って善吉は階段を上って行った。

 ・・・ばかだ。

 俺はそう思いながら、水でも飲もうかと足を進め、



「う、うわああああっ!?」


 そんな、声変わりもしていない少年の声が右方向から聞えた。かと思い右を向いた瞬間。


「うあっ!?」


「うわああっ!」


 俺は右方向からの衝撃に、倒された。

 どうやら、人にぶつかられたらしい。


「痛ててて・・・」


「・・・」


 今の状況を説明する。

 ぶつかってきた少年は、足で俺の体を跨ぎ、両手は俺の肩のすぐ上の地面に置かれている。

 顔は、数十cmの距離だ。

 ・・・はい?

 まてよ。どうぶつかったらこうなるんだ?

 ていうか、最近の子供はこんなに過激なのか?

 説明はもう、いらないと思う。

 だが、あえて述べる。


 俺は、少年に押し倒されていた。

 生まれて初めて、異性に押し倒されていた。

 ・・・今は、女だけど。

 ◇ ◇ ◇ 次回予告 ◇ ◇ ◇


善吉「くそっ!落ちなかった!」


敦子「また、ケータイゲーム?」


善吉「ああ。パヌドラだ」


敦子「お姉ちゃんとして言わせてもらうけど、ゲームしすぎよ?」


善吉「お、お姉ちゃんって!それは家が近かっただけで・・・」


敦子「昔は『敦子お姉ちゃん』って言ってくれてたのになぁ」


二人「次回、うざい奴」


敦子「女装も可愛かったのになぁ」


善吉「や、止めろぉぉぉ!」

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