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わーるど ちぇんじ  作者: 焼き黄粉餅
プロローグ
3/7

プロローグのエピローグ

 そうだ。思い出した。

 昨日、変な女の人に出会ったんだ。

 そして、「変わりたいか?」って聞かれて・・・。

 俺は、『梨花に元気になって欲しい』と願った。

 それなのに、どうしてこんなことになってるんだ?

 あの、女の人の変われるって言葉を信じた訳じゃない。だけど、今のこの状況。あの出来事以外、説明がつかない。

 俺が・・・。俺が・・・女の子に・・・なってしまっているなんて・・・どうやったら、説明できるんだよ・・・。

 もう、認めざるを得なかった。

 鏡の中も、服の中も、髪も、手も、足も、声も、何もかも・・・。同じところなんて、思考回路だけ。

 堪えていた涙が、溢れ、零れる。

 外の雨の様に、涙が流れる。

 ボヤけた視界のまま見た鏡には、泣いている、か弱い小さな少女。

 俺の欠片も何もない、ただの少女。

 その事実が、さらに俺を苦しめる。

 これから、俺はどうすればいいんだろうか・・・。

 だって、家族が認めてくれるわけが、


「兄貴!朝だ・・・ぞ?」


 認めてくれるわけがない。

 そう、思おうとしていた矢先、駆が俺の部屋に入ってきた。

 俺を見下ろす駆は、驚きに染まっていて、昨日までの県大会出場の喜びが、一気に冷めたような顔をしていた。

 俺は、慌てて弁解に入る。


「えっ、と・・・。かけ、る・・・」


 泣き声で、鼻声で、途切れ途切れな声で、俺は言葉を繋げる。


「お、れは・・・れん、だ」


「ど、どうして、兄貴の部屋にいるんだ?」


 動揺は隠せていないが、子供をあやす様に、俺に接する駆。


「だっ、から、おれ、が・・・」


 なかなか落ち着かない俺に見兼ねたのか、駆は「ちょっと、待っててくれ」とだけ言って、扉を閉めて何処かに行ってしまった。

 部屋に、俺の泣き声と啜り声だけが響く。

 情けない。何が、変わりたいだよ。弟一人にも言いたいことを言えずに、何が駆に相応しい兄になる。だよ・・・。

 俺は、兄とも見られて無いじゃないかよ・・・。

 涙が、止まらない。

 女の子になるなんて言う事態があったにしても、俺はここまで泣かなかったはずだ。

 ・・・。やっぱり、女の子になったんだな。と、俺は自分で自分を苦しめていく。


「く、く・・・そ」


 恐らく、駆は母さんか、父さんに伝えに行ったんだと思う。

 もし、母さんを呼ばれていたら、俺は弁解する間もなくこの家を追い出されてしまうだろう。

 だけど、父さんはすぐに人を信じる、分かりやすい性格だ。きっと、父さんなら俺を信じてくれる・・・。

 俺はそう考えて、少しでも落ち着こうとした。その甲斐があってか、ようやく涙は止まり始めた。駆が戻って来るのが遅くて助かった。

 無意識にしていた、ペタンとする女の子座りから、立ち上がる。

 顎のところに、鏡の頂点がきているところを見て、また俺が女の子になったと再確認してしまう。

 部屋を見回しても、狭く感じていた部屋が大きく見える。何もかもが、俺には大きく見えてしまう。

 駆が部屋に入ってきてから、五分くらいが過ぎた頃。ようやく、扉が開かれた。

 俺の希望通り、そこには父さんがいた。後ろに駆もいた。


「おれが、れん、なんだ!しんじてく、れ!」


「・・・お嬢ちゃん。どうして、ここにいるのかな?」


「っ・・・!」


 そうだ、父さんは、子供が嫌いだ。

 自分の子供は大丈夫だが、他人の子となると父さんは途端に無愛想になる。

 つまり、俺の言葉は信じられていない。

 父さんの顔は、まるでゴミを見る様な目で、俺を二重の意味で見下していた。


「だから!おれがれんなんだっ、て!」


 部屋に甲高い声が響く。


「・・・何を言ってるんだ?」


 やっぱり、信じていない。


「おれは、みやのれん!このへやにおれはいないだろ!」


 父さんの目は、やはり家族を見る目ではなかった。

 俺の言葉など、完全に聞き流されていた。


「・・・。今なら、許してあげよう。出て行きなさい」


 父さんの言葉が、胸に刺さる。


「そうしないと、力尽くで追い出すぞ?」


 その言葉が言われた瞬間。俺は、あの泥棒の事を思い出した。

 そして、


 俺は逃げ出した。



 ◇ ◇ ◇



 家から、出て何分たったんだろう・・・?

 俺は雨の中、裸足で歩いていた。

 濡れた髪とジャージが重い。寒気がしてきた。

 端から見れば、俺は変な子供だろう。

 雨の日に傘もささずに、上だけ大きなジャージを着て、裸足で歩く少女。

 近寄り難いに決まってる。

 案の定、何人か人とすれ違ったが、俺に話しかけた人は誰もいなかった。みんな、哀れんだ目を向けていただけだった。

 擦り切れた足が痛い・・・。水にしみる・・・。

 雨は、止む気配がない。むしろ、どんどん強くなっている。

 俺の今の心の様に、空は真っ黒だ。

 朝起きたら女になっていて、家族に見捨てられて・・・。

 何もかも、最悪だ・・・。

 そう悔やんでいると、


「こんにちは」


「・・・!」


 目の前に、傘をさしたあの女がいた。

 俺に、黄色い飴玉を渡した、あの女。おれを、こんな目にあわせたあの女。


「お前!」


 俺は、思わず叫ぶ。


「その様子を見ると、変われたようだね」


「ふざけるな!何が変われただよ!俺は、梨花が元気になって欲しい。って願ったんだよ!」


 幼い少女の声が雨の音にのまれる。

 だが、一応あの女は聞き取れていたようだった。


「梨花の病弱体質は治った」


「なに、言ってるんだよ・・・?」


 梨花は、体が弱かったんだ。

 病気じゃない。治るはずがないもの何だぞ?


「後は、君の行動次第。梨花を元気に出来るかどうかは、ね」


「ま、待て!」


 女は、家と家の路地に入って行った。

 後を追う為、路地を見たが誰もいなかった。あの女の姿は無かった。

 もちろん、通路の先まで俺は進んだ。

 狭く、暗く、足場が悪い通路に、俺の足は限界がきていた。元々、風邪気味なのもある。そして、体力が落ちているのもある。

 俺は、既にフラフラになっていた。


「はあっ・・・はぁっ・・・」


 だけど、あの女は何処にもいない。

 諦めるわけにはいかない。俺は、あいつに絶対元に戻させるんだ。

 そう、奮い立たせたのも虚しく、


 俺は数度目の転倒で、意識を失った。

 ◇ ◇ ◇ 次回予告 ◇ ◇ ◇


蓮「う、うわぁっ!?女になってる!」


駆「・・・。誰?」


蓮「だから、おれが・・・」


駆「そうか、君は『れん』って名前なのか。俺の兄貴と一緒だな」


蓮「そうじゃなくて・・・」


二人「次回、二年生の俺」


蓮「そっか、君は二年生だったのか」


蓮「・・・」

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