プロローグ
コメディー九割、シリアス一割です。
ていうか、プロローグなのでまだつまらないと思いますが、二話後にコメディー始まります。どうかお待ちください。
これは、昨日の話だ。
俺は昨日、いつもと少しズレた出来事に遭遇した。
頭の中で、情報整理と言う名の時間稼ぎをする。
俺が、まだ認めたくはないが変わってしまう前の話。
物語が始まる前の話。
説明の話。
本当のプロローグ、を始めさせてもらう。いや、もらいます・・・。
◇ ◇ ◇
俺には、四人の家族がいる。
父さん、母さん、弟、そして妹だ。
それぞれ名前を、修二、舞、駆、梨花と言う。
名字は、宮野。
父さんは、アイドルのプロデューサー。などと言うわけではなく、普通のサラリーマン。アイドルのプロデューサーは、父さんの友達の佐藤さんだ。基本的に家族思いで、家族の事はすぐ信じる。それで、いつも母さんに騙されてるんだが・・・。ちなみに、父さんは純日本系。黒髪だ。
母さんは、主婦。働いてない。働いてない筈なのに、金を無尽蔵に持っている。ていうか、金が日に日に増えてる気がする・・・。普段はふんわりした雰囲気だが、怒ると止まらない。この前は、校長に土下座をさせていた・・・。恐れを知らない性格なのか、ウチに忍び込んだ泥棒を撃退し、家の外(庭。コンクリートではない)に放り投げていた。恐らく、純日本系。
駆は、三歳離れた弟。中学二年生。俺のことをよく慕ってくれている、自慢の弟だ。運動神経が(母さんゆずりか?)よく、バスケ部のキャプテンになった。ていうか、バスケ部を作った。最近の悩みは、成績が十位(八十人中。進学校)しか取れないことらしい。十分、すごいと思うが・・・?ちなみに、バレンタインの時にはいつもチョコを大量に持って帰ってきている。・・・。
梨花は、俺の妹だ。歳は九歳離れている。まだ、小学二年生。体が弱く、病気がち。いつも病院にいて、俺も数回しか会ったことがない。その頃の俺は面倒くさがって、病院に行くのをやめてしまった。梨花は俺のこと恨んでいると思う。理由は聞いていないが、目が赤い。恐らく、病気が影響しているのだと思う。
次は、俺自身の説明をしようと思う。
俺は、蓮。駆のように才能があるわけでもなければ、梨花のように体が弱いわけでは無い、普通の高校生。テストはいつも学年ちょっと上。スポーツテストは、CよりのB(マックスはA)。いつも普通に生きていて、どこか変化を望んでいる、普通の高校生だ。友達と自信を持って言える人は、二人いる。ちなみに、俺は眼鏡だ。俺の裸眼の視力はD(最低)以下。ぶっちゃけ、何も見えない。運動神経はいい方かもしれないが、俺は活躍できない。なぜなら、見えないから。
て、長々と俺たちの説明をしたが、ぶっちゃけ今はそんな場合では無い!
今は、時間が無いんだ!
「兄貴ー!」
と、催促の声が聞こえる。
今のイイ声は、駆の声だ。
昔は、俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでくれていて、弱い弱しくて守らなきゃいけなかったのに・・・。今では、俺より背が高くなって、甘えることも無くなってしまった。
「早くしてくれよ!兄貴!」
俺の部屋の扉を開け、未だに準備の終わらない俺を、駆は廊下から急かす。
「先、行っててくれ!」
「わかった。車で待ってるからな」
一人じゃ車にも乗れなかった駆が変わってしまったのは、いつだろう?
兄として、駆に接するのに劣等感を覚え始めたのは、いつだろう?
・・・。
いや、そんなことはどうでもいい。今は、急がなければいけない。
どうして、こんなに急いでいるのかと言うと、今日は駆の初試合だからだ。
部活を立ち上げてまで、バスケをするその志。見届けない訳にはいかない。と言うことで、家族四人で俺たちは試合を見に行くことになった。
で、案の定。朝早くってのがキツく、俺は寝坊した。ほんの十分でも、寝坊には変わりが無い。
そう思いつつ、俺は階段を駆け下りる。子供部屋は三階にあるのだ。
玄関で靴を履き替え、更に下に降りる。つまり、一階は車庫になっていて、三階建ての住居だ。
俺は、車(大型車。いつも母さんが運転する)に乗り込む。後部座席には、俺と駆。運転席には母さん。助手席には父さん。いつもの、席だ。
「遅いぞ?駆」
呆れた顔の父さん。面目次第もござりません・・・。
「母ちゃん!そんなことより、早く!」
「はいはい」
ふんわりとした声の後、車が爆進した。
恐らく、スピード違反だが・・・。いつもの事過ぎて、何も言えない。
ちなみに、スピード違反は犯罪だ。しないようにしてくれ。
公道でドリフトとかしないでくれ・・・。
と、呑気な事を言っている間に、試合会場。隣町の中学、妻門中学。いまここに、この地区の中学バスケ選手が皆集まっている。
ちなみに、駆は車からもう降りた。ちょうど良く、チームメイトが歩いていたので、そいつと一緒に集合地に行った。
俺たちは、車を止めて観客席に向かう。
妻門中学の体育館は、かなり大きい。メチャクチャ大きなギャラリーもあり、まるで試合の為に作られたような、体育館。
その体育館があるだけあって、妻門中学は運動系部活の名門校だ。全国大会の常連校。特に、バスケとサッカーが強い。
正直、格上の相手だ。
興味の無い、俺が知っているくらいに、ここら辺。いや、ここ新潟県では有名だ。
ちなみに、俺が住んでるのは新潟県だ。説明が遅れて申し訳ない。
この際だから続けて説明するが、駆の中学の名前は、籠目中等教育学校。中高エスカレーター式の、学校だ。前に述べた通り、進学校。部活は強い人が数人いる程度で、部活自体は適当だ。
だが、他の生徒曰く、バスケ部は他の部活とは違うらしい。創設二年目だが、県で二校だけの県代表にもなれるのでは・・・?という程の実力と噂されている。
熱気溢れる体育館の再前席に、俺たちは座った。
席を取ったのはもちろん母さんだ。まぁ、まだ早い為か、結構空いているのだけど・・・。
「早過ぎたみたいね」
母さんが呟く。
早過ぎた原因はそのドライブテクニックだと思う。
「いいんじゃないか?おかげでいい席を取れたし」
確かに、父さんの言う通り、ここはいい席だ。
二つあるコートの内、駆の試合を全て見る事ができる(駆の試合は、片方のコートに固まっていた。ちなみに、七チームの総当たり戦。県大会に出れるのは、二つのチームだけだ)。
出るからには、駆には頑張って欲しい。
駆は、俺と違って才能があるんだから・・・。
二人の話を聞き流しながら、ケータイゲームのパヌドラをしながら、そんな事を考える。
パヌドラは、大人気スマホゲームだ。
無料で出来て、独特なルールスタイルなのが、人気の理由だ。
俺も、最近始めたが、まだルールを理解しきれていない。
ふと、画面の上に表示されている時計を見ると、時間が九時になっていた。
辺りを軽く見回すと、ギャラリーは観客に溢れかえっていた。熱気が、更に増していた。
九時ってことは、始まるな。
何が?と聞かれたら、開会式がだ。
陽気なアナウンスの声で、選手入場が伝えられる。
もちろん、一番最初に入って来たのは、妻門中学。さすがは、全国レベル。と、言わざるを得ない風格を見せている。全員、中学生なのか?と言いたくなる程、背が高い。
駆たちは・・・あ、最後か。
最後に体育館に入って来た駆たちは、少しその空気に気後れしながらも、堂々と入場した。
その後、長々とした挨拶、注意。風格のある、妻門中学部長の選手宣誓。そして、試合が始まった。
第一試合は、妻門VS燕。籠目VS漣。
もちろん、見るのは籠目VS漣。
漣中学は、去年県大会に出た、格上校。海沿いにあって、給食が高級魚とかが出て、とても豪華らしい。
挨拶をして、すぐに試合が始まった。
隣のコートの盛り上がりが凄いが、それをものともせずに、試合は進んで行く。
母さんは、ビデオ撮影の為、声を出していない。父さんは、静かに見守っている。
だが、俺は驚きを隠せずにいた。
だって、籠目が漣を圧倒しているんだから。現在、十一点差。籠目がリードしている。
俺は、バスケをよく知らない。だけど、チームの動きの違いは、見れば明らかだった。
・・・結局。勝ったのは、籠目。
その後も籠目は快進撃を続けて行った。
現在、首位は四戦四勝の妻門と籠目。
そして、お昼前最後の試合は、妻門VS籠目だった。
だけど、俺は開始二分で見るのをやめて、体育館から出た。親には、トイレと言っておいた。
なぜなら、見ていられなかったからだ。
これ以上、圧倒的な展開を見たくなかったからだ。
・・・。
さて、どうしようか・・・。
試合観戦を途中で放り出して、駆の事を最後まで見ないで、俺は何をすればいいんだろうか?
とりあえず、開放されている本校舎の屋上に向かう。
どこにあるのかは分からないが、上にある事は確かだろう。
案の定、屋上はあった。
俺は、特に理由もなく、屋上の扉を開けた。
二mくらいの高さの緑のフェンスに囲まれた、屋上。
普通の屋上であるそこの、フェンスに俺は手を絡ませる。
ギシギシ、とフェンスが軋む。
「・・・。俺は、逃げてばっかりだな・・・」
いつも、いつも。何事からも目を背けて・・・。
駆からも、梨花からも・・・。
「どうやったら、変われるんだろうな・・・」
「変わりたいの?君」
「っ!」
俺は、すぐ近く・・・耳元で囁かれた声に、思わず振り返る。
俺に囁いた人は、俺の腕が当たらないように、しっかり距離を開けていた。
「こんにちは」
「え、あ、こんにちは・・・」
目の前の、女の人の挨拶に俺は答える。
・・・。背が高くて、まるでモデルみたいな人だ。と、素直に思った。
「で、どうなの?君、変わりたいの?変えたいの?」
いきなり何なんだろう。この人。
まさか、俺の呟きを聞いてたのか・・・?
「どこから、聞いてたんですか?」
俺がそう聞くと、彼女は「あとつけてきたから、最初からよ」と、悪気もなく言った。
確かに、こんな日に屋上に行く部外者も悪いと思うが、彼女も絶対部外者のような気がする。
「で、どうなの?君は変わりたいの?」
・・・。
俺は、とりあえず答える事にした。とりあえずだが。
「・・・変われるなら・・・」
目線を虚ろにして言った言葉を聞いた彼女は、「ふーん」と呟いた。
大人で「ふーん」と言う人を、俺は母さん以外で初めて見た。
「じゃあさ、何が変わりたいのかな?」
一体、何がしたいんだろうか。この人は、俺に何か思い入れでもあるのか?
「・・・何もかもだ」
俺は、ポツリと呟いた。
駆のこと、梨花のこと、学校のこと、家のこと・・・。
俺には、変えたいものが多過ぎる。
「それなら、これ。いる?」
彼女の手には、黄色い飴玉の様な物が、握られていた。
俺は、疑問に思った。
なぜ、飴玉・・・?
「これを飲むと、変われるわよ。何もかも」
彼女は、不敵に笑った。
まるで、試しているかの様に。遊んでいるかの様に、笑っていた。
正直、真面目に答えた自分がバカらしくなってきた。
何が「変われる」だよ。そんな、飴玉で変われる訳ないじゃないか・・・。
「これを飲みながら、願いを願えば、願いが叶うわよ」
「・・・」
どこか、凄みがあった。
彼女の雰囲気は、とても重々しかった。
「どうする?飲む?」
あれを、飲めば変われる。なんて事はあり得ない。だけど、もしかしたら彼女は、俺にきっかけをくれているのかもしれない。
変わろうとしても、動けなかった俺を、なぜかは知らないが、助けようとしてくれているのかもしれない。
「わかった・・・。飲んでやるよ」
「ほいっと」
俺は、投げられた飴玉を危なげにキャッチした。そして、お礼を言おうと再び正面を見ると、
「あれ・・・?」
女の人は、消えていた。
夢?とも思ったが、手には黄色い飴玉が握られていた。
「・・・」
俺は、願いを考える。
騙されてやることにした。だって、変わりたいから。きっかけ無しに動けるくらい、俺は強く無いから。
そして、俺は飴玉を飲んだ。
口の中に、予想に反してリンゴ味が広がる。レモン味だと、思ってたのに・・・。
まぁ、何はともあれ、俺は願った。
『梨花に元気になって欲しい』
それが、俺の願いだ。
梨花には、俺は何もできなかった。見守ることも、元気付けることも、何もできなかった。
駆に相応しい兄になるのは、その後だ。
俺は、梨花に許してもらう。
許してもらえなかったとしても、それは仕方ない。悪いのは俺だ。
だけど、今度は目を背けない。逃げない。諦めない。
俺は、何度だって頭を下げる。
動くのは、明日朝早くだ。
本当は今日動きたいが、面会には予約がいる。
だから、俺は今電話をかけて、明日の早朝に訪れることを、病院の人に伝えた。
あの、黄色い飴玉をきっかけに、俺は変わろうと動くことが出来た。俺は、感謝していた。
この時はまだ、感謝していた・・・。
◇ ◇ ◇ 次回予告 ◇ ◇ ◇
駆「くっそー!負けちまった!母ちゃん、ご飯くれ!」
舞「はいはい」
修二「まだ、後一試合あるんだろ?どことだ?」
駆「燕中とだよ」
舞「そう言えば、蓮はどこに行ったのかしらね」
修二「トイレだろ?」
駆「トイレかよ」
三人「次回、プロローグのエピローグ」
駆「なんか、胸騒ぎがする・・・。兄貴・・・大丈夫かな・・・」