七
翌日、鈴城の約束、宇木さんの伝言通りにコンビニに集合した僕は鈴城に連れられて、古い一軒家にやって来ていた。
勿論、鈴城の家である。
勿論と言いながら、ここまでの展開は全くの予想外だった。
「入れよ」
鈴城に促されて、僕はお邪魔する。葵ちゃんは不在のようだ。
「ちょっと、俺の部屋で待っててくれ。飲みモン持ってくるから」
鈴城の部屋に案内された僕は、適当に中を見回す。
黒を基調とした調度品が配置され、壁は外国のロックバンドと思われる人のポスターで支配されている。隅には雑誌が乱雑に積み重ねられていて、その傍に脱ぎっぱなしの服が捨てられている、そんな部屋。いかにも男子の部屋だった。
ていうか、どうして鈴城は僕を部屋に呼んだのだろうか?
いや別に理由がないなら遊びに誘うな、鬱陶しい、というつもりも考えもないのだけれど、本日学校を欠席した人間がやっていいような行動ではない気がする。
まぁ、これは小心者の僕の考え方だから、鈴城はきっとこんなことには気を留めないのだろう。良い悪いは別にして。
しばらくしてから、鈴城が二リットルのペットボトルコーラを両手に抱えて持ってきた。見た限りではコップは手にしていない。
「ホレ」
何食わぬ顔で鈴城は僕に片方のコーラを手渡してきた。
「コップとかは?」
二リットルの重さを腕に確かめながら、僕は問うた。
「ん? そのままでいいだろ。男なんだから、豪快にいけ」
いやいやいや、これを直はないだろう。それともワイルドを期待されているのだろうか?
確かに二リットルサイズのコーラを直でいくのは豪快かもしれない(百歩どころか、数万歩譲っての認識だ)けれど、その行為は下品極まりない。男とか関係ない。っていうか、単純に飲みにくい。
ジーっと。
心の内を目で訴えてみる。
「どうした、炭酸嫌いか?」
僕の視線の意味を取り違えた鈴城は、ニッリトルの飲料をグビグビと喉に通していく。
すげぇ、豪快だ。コーラをグビグビってきつくないの?
ここまでを見て、鈴城に二リットルのコーラをコップに注いで飲むという概念は存在しないようなので、豪快にいこうと鈴城を模倣する僕。
「うぐっ、ぐほっ。ゴホゴホ」
しかし、すぐさま咽た。
「はははっ、何してんだよ、笹村」
愉快そうに笑う鈴城。
笑うな。確かに吹き出してしまってもおかしくない光景だったかもしれないけれど。
「よーし、笹村」
コーラを水同様の勢いで飲み干した鈴城は、
「んじゃ、早速、穴開けるか」
当然のように、そう言って、右の手で銀色の先がとがった裁縫に使うにしては大きすぎる針をクルクルと回した。
「は? 穴? どこに開けるの?」
まさか、壁をくりぬいて、葵ちゃんの部屋を覗こうなんてことは考えてないだろうな。そんなことをしたら、ただじゃ済まさないぞ!
なんてことを心で叫んだ。
しかし、鈴城の穴は僕の馬鹿な考えとは微塵も関係ないようで、
「穴って、ピアスつけるために耳に開けるに決まってんだろ。それとも何か、笹村は舌とか鼻とかの方が良かったか?」
「耳にも舌にも鼻にもピアスの穴なんて開けないよ!」
僕は両手をブンブンと振る。
「はぁ? 別に痛くねぇよ」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、何でだ?」
鈴城は真顔に疑問符を浮かべた。
「何でって、そりゃ校則に引っ掛かるからだよ。鈴城が見逃されている理由は不明だけど、僕は遠慮しとく」
「なんだ、そんなことか。先公なんて無視しときゃいいんだよ」
僕のさっきの言葉は決して『ピアスしたいんだけど校則があるからさぁ』という意味ではないのだけれど。そういう体での拒否だったのだ。少しは察してほしい。
「ほら、いい感じだろ」
言って、鈴城は僕にピアスを差し出してくる。よく見てみると、鈴城がつけているものと同じだった。
シルバーメタルスカルが笑っている。
「僕はつけないよ」
ここはしっかりと言っておかないといけない。ピアスをつける気など毛ほどもないのに曖昧模糊とした返答はいけない。
僕にとっても。
勿論、鈴城にとっても。
「いいじゃねぇか。つけようぜ、ピアス」
「つけないよ」
しつこかったので、不機嫌さを装って拒絶するように、僕は言った。
すると、鈴城は一瞬、戸惑った表情を見せたが、無理そうに笑って、
「ピアスが嫌なら、髪染めるか?」
ピアスを離した鈴城の手が次に取ったのは、これまた鈴城と同じに、金メッシュに髪を染める染料だった。アクセントとして、鈴城が金メッシュに混ぜているピンクも逆の手に握られている。
「な、いいだろ?」
そう言って、唇をさらに大きく笑顔にする鈴城。
僕がピアスを断ってから、笑顔が嘘っぽい。
というより、嘘だった。
虚勢の笑顔。
同じピアスをつけることを断られたのがそんなにショックだったのだろうか?
「笹村も染めればきっと格好良くなるぜ」
僕の目の前まで寄ってきて、鈴城は手の中の金メッシュを左右に振った。
「簡単だからすぐに終わるぜ」
鈴城の。
片側の唇がヒクヒクと動いている。
鈴城の。
顔が何だか泣きそうな笑顔になっている。
らしくもない。
コンビニでカツアゲをされている少年を助けたヤンキーらしくもない。
第一、鈴城らしくない。
何故?
何で?
どうして?
……そんな顔してる?
「な?」
力なく、鈴城は問いかけてくる。
断ったら、幼稚園児のように泣き出してしまいそうだ。
だからといって、お情けで髪を染めてピアスの穴を開けるわけにはいかない。
ピアスをつけることや髪を染めることが直接的には結びつかないにしても、道を外れるわけにはいかない。
「安心しろ、髪もピアスも問題なく、終わるぜ」
いやいや、安心できないから。
終わった後に問題が噴出するから。
鈴城は僕のためにすべてを用意してくれているようだが、そんなものは何一つ、僕のためになっていない。
だから、言おう。
鈴城にダメージを与えてしまうことになろうとも。
鈴城を怒らせてしまうことになろうとも。
結果、殴られても構わない。
「髪を染めるのもやめとくよ」
「……」
鈴城は停止した。
手にしていた金メッシュを床に落とし、固まったままで動かない。
「……」
作っていた笑顔も消え去って、顔には何の感情も映されていないように見えた。
沈黙が僕達を襲った。
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鈴城が口を開く気配がないので、僕から何かを言って、この沈黙を切り裂こう。
ムサい男が真正面から至近距離で向かいあって無言とか、居心地が悪くっていけない。
気持ち悪いことこの上ない。
「あ、あのさ鈴城 」
そんなことを思って僕が言葉を発した時。
「な……何でだよ……?」
掠れた弱弱しい声が鈴城から聞こえてきた。
「俺たち友達なんだろ……? なのにどうして、オマエは俺を拒むんだ? 何でピアスをしない? 何で髪を染めない?」
言葉を吐き出すうちに声量を増していく鈴城の、声。
「頼んだじゃねぇかよ! 言ったじゃねぇかよ! 友達になってくれって! いいよって、言ったじゃねぇかよ!」
鈴城の右手が僕の胸倉を捕らえた。
「俺たち 友達なんだろ⁉」
僕の顔面を殴ろうとした鈴城の左手は振り上げられたところで思いとどまってくれたようだ。
「なぁ!」
鈴城にきつくゆすられる僕。
「はて、僕は鈴城に『友達になってくれ』って言われた時『うん、いいよ。僕らは一生友達だ』って言ったけ? 僕には『うん』って言った記憶もないのだけれど」
何言ってんだ、僕。
わざわざ、状況をややこしく、深刻にする必要はないだろ。
しかし、それでも冷たい言葉が出てしまったのは鈴城に腹が立ったからかもしれない。
手前勝手にピアスと金メッシュを要求してきたことが僕から冷静さを奪ったのかもしれない。
言葉は冷たくっても。
心は熱かった。
畜生。
変な心持ちだ。
「は……? 今、笹村……?」
鈴城は僕の言葉を受けて、両の腕をだらりと床につけて、俯いた。
言ってしまった後でその言葉の威力をさらに知る、僕。
「友達じゃねぇのかよ、俺たち……?」
「い、いや、そうじゃないよ」
そうじゃない。
僕と鈴城は、友人だ。
あまり話さなくても。
一緒に帰らなくても。
それでも。
僕と鈴城は、友人だ。
だから誤解を解こう。
いや…………釈明か。
「鈴城とは友達だよ。あの言葉は意地が悪くなっちゃった。ゴメン」
「……」
「でもね、鈴城。僕があんな言い方をしたのには鈴城のせいでもあるんだよ」
「……俺?」
「うん。僕はピアスも金メッシュも断ったのに、それなのに鈴城が一方的に迫るから」
「……同じことをすんのが友達じゃねぇのかよ? 嫌でもタバコ吸って、酒飲んで。やりたくもねぇことしてたり、無理に笑ったり。一緒に一人をいじめたり」
顔を起こす鈴城。
「俺が今まで見てきた友達関係にある連中はそんな奴らばっかだったぞ」
「それは友達じゃあないよ」
「……」
「そんな関係の人間はトモダチという知人にしか過ぎない。今、鈴城が僕にピアスと金メッシュを求めてきたのは煙草と酒と一緒だよ」
「……」
「馴れ合いでつながっているのと、友情でつながっているのとじゃあ、雲泥の差だ。馴れ合いの関係なんてトモダチの典型だと僕は思うよ」
だから、僕は友達が少ない。
なんてのは、友人が少ないことに対する体の良い逃げ口上なのかもしれないけれど、本心も少なからず混じっている。
いや、言い方が悪い。
本心は多分に混じっている。
「……」
「それと『勉強の意味が分からないから、勉強なんてやらない』と考えていることで僕と鈴城が友人関係にあるという考えにおける関係もトモダチだ。残念なことにこの関係を友達だと誤認してしまっている」
鈴城の顔がどんどん青ざめていくのがわかる。可哀想だけれど、もう少し我慢してほしい。
あと、キレるのも出来ることなら控えてほしい。僕には拳を交わらせてわかりあえるだけの武力は持ち合わせがない。一瞬で戦闘不能になってしまう恐れがある。
「おまけに僕を道から外れさせようっていうんだから、いい迷惑も甚だしい。ともに堕落していくのは麻薬に頼るように、惨めな墜落に等しいよ。その上、お互いにお互いを友達だと思っているなんて痛々しいにも程がある」
台詞が台詞だから仕方ないのかもしれないけれど、自分の物言いの冷たさには寒気を覚えた。
これじゃあ、鈴城を突き放しているみたいではないか。
少なくとも突き放されていると捉えられてしまっても、それに対して返す言葉はないし、釈明の余地もないだろう。
「宇木や桐生とは友達なのか?」
「勿論、僕は友達だと思ってるよ」
「ふざ……ふざけんじゃねぇぞ」
ゆっくりとした動作で鈴城が再び僕の胸倉を掴んだ。
「何なんだよ、オマエ。宇木や桐生とは友達で、俺とは偽りの惨めなトモダチなのか。何がしてぇんだよ?」
「何もしたくないよ。いつの間にか鈴城が僕をトモダチって思い込んでいたから、仕方なかったんじゃない?」
「……それじゃあ、笹村は俺をいじめていた奴らと変わらねぇんだな」
鈴城の拳に力が込められた。
「ははっ、俺ぁつくづぐ馬鹿な奴らしい。トモダチは作れても、友達は無理ってか。全然うまくねぇよ、てめぇは。ドヤ顔で語ってんじゃねぇ、気持ち悪ぃ」
「泣き顔で言われても怖くないよ」
「いいさ、今からボッコボコにしてやるから。それで少しは恐怖を覚えるだろ」
言って、鈴城は腕の力だけで僕を立ち上がらせて、さらに僕を宙に浮かす。なんて力だ。
っていうか、怖くないってのは嘘だから。本気にしないでくれませんか? 顔面をマイナス方向に整形だけはご勘弁を!
ふざけたことが心に鳴る。
この調子だと、平生を取り戻せたみたいだ。
「覚悟はできたか?」
さっきまでの蒼白な顔から戦闘モードに切り替えられた鈴城の双眸が僕を睨む。
「覚悟はできてるよ」
いや、嘘だ。殴られる覚悟はできてない。しかし、それくらいのことは言った。
「でも」
「でも 何だよ?」
「殴られる前に一つだけ、鈴城に言いたいことがあるんだ」
本当に一つにできるかは約束できないけれど、言いたいことがある。
それで僕たちがトモダチでさえいられなくなるのか、または友達になれるのかが決まる。
「……」
どうやら無言は了承らしい。
それでは。
「『勉強をする気がないから、一緒に堕落しよう』という繋がりじゃあ、僕らはトモダチだ」
「たった今からは、仮初でもなくなるけどな」
僕は曖昧に笑って先に進める。
「マイナス方向にともに進むなら、僕らはトモダチ。ここで一切関係を断ち切る つまり、絶交してしまえば、ただの空気同然のクラスメイト。そして、プラスの方向にともに進めば、それは友達」
「何が言いてぇんだ? 回りくどいのはやめろ」
……見せ場なのに。
けどまぁ、確かに言いたいことを一つだけにするのに遠回りはいらないか。
「つまり、僕と鈴城がプラスの方向、毎日の学校生活を平均以上に真面目に取り組めば、友達でいられると思うってこと。ここで喧嘩別れとか、二人そろってヤンキー道とかじゃあ、あまりにも悲しいでしょ?」
「……」
鈴城は僕から目を逸らした。
「モラトリアム」
「エリクソンがどうした」
「さて、どういうものでしょう?」
僕は面倒くさいヤツらしい。言いたいことを言うまでに一本道ではたどり着かないみたいだ。
「人が成長して、社会的義務の遂行を猶予される期間のことだろ」
「そう。この間に僕たちは社会でやっていく術を身に着ける。知識だったり、礼儀だったり、色々とね。しかし、それらを身に着けるためには勉強が必要なんだ」
「俺ら一般人には勉強して良い生活を得ようとするしかねぇってか」
「ま、僕は賛成具合五十パーセントだけどね。勉強は全てじゃあない。でも、生きる術だ。そして、社会に出るまでの猶予、モラトリアム。僕と鈴城が悩んでいられる時間もあと少しだよ」
「……」
「だから、一緒にモラトリアムを生き抜こう」
「……」
「『勉強をする気がないけど、今から一緒に見つけよう』って繋がりでなら、僕達は友達になれるはずだよ」
「……笹村ぁ、てめぇ、いまさら何言ってやがるんだ?」
胸倉を握っていた拳が少し、上にあげられ、苦しくなる。
「俺とは友人じゃねぇんだろ! そんなつもりなかったんだろ! ましてやすべてを偽ったトモダチでさえねぇんじゃねぇのかよ! 俺見て笑ってたんだろ⁉ コイツ馬鹿だなってよぉ!」
「それは、違うよ」
喉元が鈴城の手で圧迫されていて、喋りにくい。
「あぁ?」
「僕が鈴城を馬鹿にしていたなら、友達になろうなんて言わないさ。噛みつかれた時点で飼い犬は捨てられるようなものだよ。二度と関わろうとは思わない。ましてや喧嘩の強いヤンキーってんだから」
それに、と一拍置いてから、
「僕が鈴城をあざ笑いながら、鈴城と過ごしていたなら それが二日に一遍のペースだとしても、鈴城は気づいていたはずだよ。コイツは悪い奴だって。まぁ、鈴城が宇木さんたちを『良い人達だ』と見抜いたことを信じるならの話だけれど」
「……」
話が逸れたので元に戻そう。ちょうど鈴城の返しがなかったことだし。
「ともかく、勉強の意味を探そうよ。お互いいいライバルとしてさ。その過程で、勉強の意味、意義を夢に結び付けられれば最高だけど、目標が出来ればきっとクリアだよ」
「……」
「うまくいかなくて、途中で現実と折り合いをつけることになっても鈴城がいれば、宇木さんたちに鈴城が加われば、きっと、今よりずっと、楽しくて心強くなれると思うんだ。勿論、鈴城自身もね」
「……笹村」
「だからさ」
やっとやり直せるから。
「もう一度、僕らと友達になろう」
言いたいことは言った。
あとは鈴城しだいだ。
力が抜けたようで、鈴城は膝から床に崩れた。
鈴城から離された僕は床に倒れそうになったけど何とか踏みとどまった。
僕は何も言わない。
今は鈴城の返答を持っている。
たえと、それが、
『オマエなんかとは友達になりたくもねぇ。頼まれたってゴメンだ。さっさと帰れ』
であっても構わない。いや、構わないというよりも仕方がない。僕の言い方が悪かったのだ。
「……」
無言のまま鈴城は顔をあげて、僕を見た。
そして。
「笹村……」
鈴城の口が開かれた。
「確かに言い方は気に喰わなかったけど、オマエの言っていることは間違っちゃいねぇのかもしれない。きっと、今日のさっきまで俺とオマエはトモダチだったんだな」
はぁ、とため息を吐く鈴城。
「実は俺、笹村が宇木とか原谷たちと仲が良さそうなのを見て、焦ってたんだよ。もしかしたら、コイツはいつか俺を嫌っちまうんじゃねぇかって。俺からオマエが離れるのが怖かった」
「僕を異性みたいな感じで言うのはやめてくんないかな?」
ていうか、まさか本当にそっち系ってことはないよね。
「はははっ、そうだな」
力ない笑みだったが、今の鈴城の顔に無理はなかった。
「でも、似たようなモンだと思うぜ。人間関係なんだからよ」
まぁ、そう言われると、そうかもしれないけど。
「とにかく、そういう訳で俺はオマエにピアスだの金髪だのを強制しちまったんだ。悪かったな、笹村。俺が馬鹿だったから」
「いや」
僕は首を横に振る。
「僕の方こそ、冷たいこと言ってゴメン」
お互い様だろう、今回は。
「くくっ」
「ふふっ」
そうして、僕らは笑った。
声を出しての大笑いではなく、ゆっくりとほほ笑んだ。
どうやら仲直りできたようだ。
「っと、んじゃケジメとして丸坊主にでもするか」
鈴城は膝の力だけで立ち上がる。
ぼ、坊主?
「何で?」
「『何で?』って、そりゃあ、やり直すためだろ。てめぇの言葉への返答がイエスだってことだ」
ポンと僕の頭を叩く鈴城。うう、痛い。
でも、鈴城も平生を取り戻してくれたようだ。
「いくらけじめって言っても、丸坊主にはしなくていいんじゃないの? 髪を黒く染めなおすとかで」
「んん? 坊主は校則違反なのか?」
ポケェ、とした顔で鈴城は勿論、黒くは染め直すぜ、と付け足した。
「そういう訳じゃないけど、坊主って何かきつくない?」
「そうかー? 俺は別に何とも思わないけど」
「サイドにそり込みとかはなしだよ」
「ああ、入れねぇよ」
どうやら鈴城はヘアスタイルが坊主でも平気な人らしい。ちなみに僕はちょっとだけ抵抗がある。
そういうことで、鈴城は早速、頭を丸めて、黒くするらしいので僕も手伝うことになった。
まずは髪染めとバリカンを買いに行かないと。
「よっし、じゃあ行くか」
「うん」
そうして、僕と鈴城は揃って歩き出した。
僕らが少年でいられる猶予はあまり残されていない。
『少年猶予』これにて完結です。
初投稿作品を無事完結できて良かったです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。