【エピソード2:プロローグ】
槞牙「前回までのあらすじを担当の俺様が説明するぜ! 突然のロリッ子転校生の柚菜は、〈パステル〉って云うファンタジー100%のタネなしマジックを使う、とんでもない奴だった。だが俺も覚醒し、見事に柚菜を打ち負かした。こうして、また新たな『槞牙様伝説』が誕生したってわけだ。 メイドの柚菜を従えて、いざ行かん!ピンク・オブ・ヘヴン! ……それにしても、更衣室にいたショートヘアーの娘は良かったな〜。ザ・ポニーも捨てがたいが…。」
閉めきったカーテンが朝の爛々とした日差しさえも遮り、部屋を暗晦な空間にする。
部屋の真中には一人の少女が座っていた。
その少女の右手には、人をモデルにした人形が握られている。
首のない、無残な姿をした人形が。
目覚し時計の針が六時を指した瞬間、部屋に騒々しいベルの音が鳴り響く。
少女は立ち上がって目覚し時計の頭を軽く押した。しかし壊れているのか、鳴り止む気配を見せず、音は更に大きくなっていく。
何度か押しても、やはり止まらない。
やがて少女は舌打ちをすると、煩い時計を右手で掴み、軽く放り投げた。
そして虚空を移動する時計に、左の掌を向けた。
少女の手が白く発光し、その光は掌の前方で収束され棒状の物体となった。
刹那――
光は掌を離れ、暗い空間に射出された。それは瞬時に時計との距離を駆け、衝突と同時に短い爆音を立てる。
時計は空中で爆発し粉々になる。
最後には鼻腔にまとわり付くような、嫌な焦げ臭さだけが残った。
少女は平然と身仕度を済ませ、部屋から出ると、玄関に向かった。
「瑠凪ちゃん。その……、朝ご飯は?」
三十代後半の気の弱そうな女性が、瑠凪という少女に言った。
「いらない」
瑠凪は靴ひもを結びながら、陰気な声で呟く。
「今日も帰りは遅いのかな? 夕飯はどうする?」
「いらない」
女性は両手を胸の前で組んで、悲しみに満ちた顔をする。
瑠凪がドアの把手に手を掛ける。
「で、でも……、今日は瑠凪ちゃんの大好きな――」
「行ってきます」
乱暴にドアを閉める瑠凪。女性は苦悶の表情を浮かべ、その場で泣き崩れた。
瑠凪は無表情のまま、学校とは反対の方角に向かって足を進めた。
角を曲がると一台の黒い車が駐車してあった。
瑠凪は当然のように助手席に乗り込み、口を開いた。
「現金は前払いよ」
運転席にはサラリーマン風の中年の男。
「相変わらず可愛いね。瑠凪ちゃん」
気味が悪い声色だ。まるで耳にべっとりと張りつくような。
瑠凪が手を出すと、男は財布から一万円札を三枚だし、瑠凪に手渡した。
「商談成立……。早くデートに行きましょ」
抑揚のまるで感じられない語調だが、男は満足気な顔だった。
車は軽快な音を立て走り始めた。