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【エピソード6:プロローグ】

槞牙「やあ、諸君! この俺様が送る、素晴らしき時間がやってきたぜ。ああっと、飛ばすなよ?    いよいよ〈プテイレイン〉の連中もマジになってきやがって、さすがの俺も悪戦苦闘だな。だが希望はある。これからは〈チーム・パステル〉としての俺たちで敵に挑むからだ。    そして密かに宣言! 俺はメンバーと更に絆を深めるために、これからは『遠慮なく』極限のサービス・ショットを諸君に提供してやるぜ! ウハハハハ! どうよ? まあ、俺様としては半ば仕方なくってか、避けては通れないというか……。そう、あれだ! 限界突破でハ

澤村流派の生活スペースの一角には、とても機能的な厨房がある。

広大なU字型をしていて、調理道具を収納する場所も多く設けられている。流しは二つあり、防音。やたらと大きい冷蔵庫に、食器洗い機、最新の電子レンジとフル装備だ。

どこも隅々まで、きちんと清掃されている。

そこで一人の少女が鼻歌混じりに調理を行なっていた。

端整な顔。腰まで届く黒髪に、黒の瞳。少し吊り下がる目尻は優しい印象を与える。繞崎雫だ。

雫はフライパンに菜箸を突き込み、野菜を掻き回す。野菜の色が満遍なく変化したのを確認してから、火を止めた。

野菜炒めを、近くに置いてあった弁当箱に詰める。

赤く丸い小さめの箱と、青くて四角い大きめの箱の二つにだ。

大きい弁当箱は槞牙の分である。普段なんだかんだ言ってても、結局は作るのだ。

完成した弁当を、慣れた手つきで風呂敷に包む。それを丁寧な動作で鞄に入れ、準備は完了。あとは槞牙の部屋まで届けるだけである。

時計を見る。


「うーん、少し早いけどいいよね。……でもお兄ちゃん、どうせ朝ご飯を用意してないんだろうなぁ」


届けた早々に弁当の蓋の開封を試みる兄を想像する。溜息。ややあってから、よし、と胸を張って気合いを入れた。


「途中でパンでも買っていってあげよう」


独白も、かなり明るい。

それというのも、この時間帯における槞牙の素行を思えばのこと。今頃は朝練の最中だろう。

彼は一見すると面倒臭がりな人間だと思われがちだが、その実、努力家なのだ。独立前でもそう。例え膳邇に言われなくとも、自ら訓練に励むはず。

だから膳邇も、口には出さないが槞牙を信頼している。そうでなければ、独立などさせる訳がない。

雫も、そんな槞牙だからこそ全幅の信頼を置いているのだ。決して兄妹という関係だけで、簡単に形成された物ではない。

普段は恥ずかさで言葉にはしない。だが、

……信頼してるよ。お兄ちゃん。

鞄を片手に、玄関に向って歩きだす。行き先は信頼している者の住まい。

さあ、行こう。

……例え、自分が信頼されていなくとも。



玄関まで来ると、そこには何故かメイド服の集団が揃っていた。こんな早くから、それも一片の焦燥すらなく。

まるで、昨日の帰宅時から此処に居ました、と主張するようだ。


『行ってらっしゃいませ、お嬢様』


寸分の狂いもなく、一斉に綺麗なお辞儀を極める。

いったい彼女らは、いつ休んでいるのか? そう思うと苦笑が自然と零れた。

何時も通り、居たたまれなくのお辞儀返しをしてから、外へ。

玄関となる、和と洋が半々の門を潜る。

その先は木材で造られた桟橋がある。唯一、洋の侵略を回避した風情重視の橋だ。

一歩を踏み出すと目に入るのは、やはり門番の男。

チョンマゲ袴な変人である。毎度のように土下座の姿勢を維持している。

しかし今日に限っては違う動作を見せた。

立ち上がり、思い詰めた表情で口を開いた。


「そ、その……槞牙様は、いつお戻りになられるのでしょうか?」


「え?」


その言葉に、雫は呆然とした神色を作った。

だが、俄かぎこちない笑みで隠した。


「いきなり、どうしたんですか? 兄のことを尋ねるなんて……」


疑問に、門番は沈痛そうに嘆息を漏らしてから、半ば伏せていた目線を正面に移す。


「……実は、膳邇様が……。槞牙様が移住されてからというもの、覇気がなく、憔悴されておられるのです」


「お爺ちゃんが!?」


これは驚愕の一言に尽きる。

あの心身ともに鋼の性質に近似した膳邇が、それだけのことで心労しているのだ。家臣や親族は勿論の事、澤村朋香でさえ仰天するだろう。

雫は深呼吸を数回で、なんとか気を静める。

その間に門番は土下座の姿勢に戻り、地面を声で打ち付けた。


「不躾とは存じ上げながらも、お頼み申し上げます! どうか……、どうか槞牙様に屋敷に戻られるよう説得して頂けませぬでしょうか?」


振り上げた顔は、涙で埋まっていた。


「このようなこと、雫様にしか……。我ら家臣一同は、どうしたら良いのか解りません!」


喉から振り絞られた声は、微かに枯れたもの。

雫の全身に悲痛な思いが伝わり、身の震えを感じた。息を呑んでから、上手く機能しない口を懸命に動かした。


「あ、あの……貴方たちの気持ちは解りました。私からも兄に言っておきます」


「誠でございますか!? 有難うございます。このご恩は一生忘れません」


「でも期待はしないでください。ご存じの通り、あんな兄ですので、私の意見も聞かないと思いますし……」


「うう……。有難うございます。これで膳邇様も……。有難うございます……」

門番は土下座よりも身を低くし、泣き崩れた。もはや、後の雫の台詞を聞いてはいない。

雫は慟哭する門番を、必死に宥めた。



早朝。時刻は六時半を廻ったくらいだ。

空気は緩やかな風に流れる。そこに生じた微少な肌寒さが、逆に爽涼感をくれる。

遠慮がちに明るさを見せ始めた空が、やけに初々しくもあった。

その空の下。川原に三人の男女が居た。一人は男。残りは二十歳前後の女性と、背丈の低い少女である。

少女は目の前で戦闘を行う二人を、無表情で見つめている。

緑色の髪と瞳。幼いが、キレのある顔立ち。落ち着き払った利発そうな雰囲気は、年齢とのギャップを感じずにはいられない。

虹野ソラだ。

忙しく瞳を動かし、風を生む二人の動作を追う。

女は光の棒を左右に薙いだり、正面に突きを放ったりしている。

一方の男は、棒の軌道から巧みに逃れては、隙を窺い拳や蹴りでの反撃を繰り返す。


「いまいち気合いが入らんな……。ってか小森さん、本気でやらない? 俺も本気でその乳、揉むから!」


明るめ茶髪に気抜け顔――繞崎槞牙は棒を受け止め話し掛ける。

相手の小森は、うーん、と唸り、


「模擬戦では、あまり本気が出せませんねー」


などと、やる気のない声で末尾を無視した回答。

その容姿。

頭上で団子状に結わいた茶色の髪。顔立ちは美麗だが、どこか間の抜けている。均整の取れた体付きの中で、その豊満な胸だけが独立戦争を起している状態である。現在はサマーセーターにロングスカートといった私服姿だ。

小森は槞牙の拳を避け、左足を軸に回し蹴りを放つ。槞牙は頭を急降下。避け切った直後に反撃はしなかった。

代わりに眼前の光景を見て、ニヤけ面。蹴りの軌道に合わせて首を動かし、その足が着地すると落胆の吐息を漏らす。

ソラは片方の眉をピクッと吊り上げ、拳を握る。

不真面目な分は、後で制裁が必要ね。……必要不可欠ね。

黙考していると、二人の動きを確認するのが遅れた。今は互いに距離を取っている。次の一手を探り合っているのか、流れは鈍い。

小森は、のほほーんな笑顔で口を開いた。


「ではー、少しだけ本気でいきましょー」


そう言うと、左手を前に出し広げた掌から緑色の光を発射する。

光は飛んだ直後、空気中に埋まるようにして消えた。一瞬の沈黙。

その後に行動したのは槞牙だった。槞牙からしてみれば、行動しなければならなかったのだ。

左に跳躍。同時に今居た空間を光が貫いた。地面を突き抜け、穴を作る。

槞牙は地面を蹴って前方へ。周りに出現したビームの嵐を掻い潜り、小森に接近していく。

数歩で懐に飛び込み、赤い光を纏った拳を突き出す。拳は、小森が防御のために前へと構えた棒に衝突。間から光が飛び散り、そこに生まれた力を顕示させる。最初は拮抗。

そこから、やがて槞牙の優勢となり、終には障害物となっている棒を突き破った。

勢いをそのままに拳が腹部に突き刺さった。

小森は衝撃により背後に身を持っていかれる。

宙の浮遊散歩。それを満喫してから地面に倒れた。

槞牙は両手で虚空をモミモミしつつ、小森と距離を詰める。

ソラは痴漢野郎に裁きの鉄槌を放った。目標の周囲に陣を創り、雷撃を発生させる。


ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!


陣から黄色の円筒形の光が天に向かい、浮き上がる小石は破砕の力を知る。


「しゃぺれれれっぱー、ひぎゃあああああああああああああああっ!」


槞牙は新手の断末魔を上げ、昏絶した。

代わりに小森が復活し、


「? 全然、痛みはありませんねー」


確かめるように腹部を擦っている。


「ええ、大丈夫よ。槞牙は手加減したから。当たる直前に〈パステル〉を消す配慮は流石ね」


「だったら何で攻撃する!? ってか、お前が手加減できてないぞ? 配慮がないぞ? ついでに胸な――」


ソラの飛び蹴りが槞牙に炸裂した。黒焦げ男は錐揉みし、顔から地面に倒れる。ソラは溜息を吐く。

……まったく。優秀なんだけど、どうして不真面目、不誠実なのかしら?

まるで始末に負えない生徒を受け持ってしまった、担任の胸中である。

思うと、また溜息。今度は嘆息含みと木の抜けた表情もプラスして。

するとこちらを見ていた小森が、


「あらあら……くすっ」


と意味深な、温度よろしで弓状にした目の微笑。

なんとなく気恥ずかしくなったソラ。とりあえず槞牙を踏む案を思い付いたので実行した。


「?」


あった場所を踏むが、そこは固い土の感触しかしなかった。

下を見た直後、背後に悪寒が走った。同時、尻を押される感覚を得た。


「付き合ってくれてサンキューな、ソラ」


ソラは両手で尻を押さえ、半目で槞牙を捉えた。槞牙の顔は、こちらの肩の上方にある。

もう一度、尻をタッチされる感触。振り向くと、槞牙は背中を見せていた。

小森にも礼を言うと、斜面を上っていく。

ソラは薄く笑う。

先程のは卑猥な行為ではなく、スキンシップの類だろう。普段は破廉恥な行動をするが、適度に弁えてはいる。このぐらいなら許せてしまいそうなのが、槞牙の不思議なところだ。

だからソラは五割減の威力で、技を打ち込んだ。

……本当に、驚くほど寛容だわ。

聞き苦しい声が限界突破なので、カットしました。御了承ください(笑)

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