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【エピソード4:エピローグ】

そこは何もない暗闇が、一面に敷き詰められた空間。繞崎槞牙は気が付くとそこの中央に倒れていた。

身を起こし界隈を確認。

黒、闇、ダーク。

ワンポイントに他の色が欲しいな。

呑気な思考は、急に意識を失う前に引き戻される。

槞牙はソラに敗北したのだ。最後の一撃を思い出し、感触がすでに無き痛みを呼び起こす。波紋のように広がり、体中に悪寒を走らせた。

槞牙は起き上がり、歩を進める。嫌な記憶を一時でも紛らわす為に。

静かだ。生物や風の鳴き声すらも聞き取れない。

本当に現実か?

そこで槞牙は前方に黒以外の色の存在に気付いた。

白亜のドア。

存在感が抜群のそれは、確かに視覚が捉えた。

ドアの周りを確認するも、他には何もない。つまりはRPGでいう所の『入りなさい』ドアだ。変り者はドアを周囲を一周したりする代物。

行く当てもない主人公が体験する未知のゾーンともいう。

槞牙は全身を警戒モードにし、ドアを開いた。光が白い壁となって視界を遮る。目を細めて前を見ているのが精一杯だ。


(眩しすぎだろ。眩しいのは宝と称されたエロ本で充分だ)


無駄な思考回路が作動している内に、徐々に視界が良好になる。


「こ、これは……っ!?」


思わず声を上げた。

ドアの奥には地上で最も高価な宝石――ザ・女で溢れ返っていた。しかも、どれも美女ばかり。

美女、祭りじゃっ!!

中身が白日の下に晒されれば、行動はマッハを超越する。

喰いつかんばかりの勢いで、速攻ナンパ。


「ねえ、君。名前は何ていうの? 良かったら夜景が見える海の下、大気圏に突入した隕石よりも熱く愛し合わないかい?」


アホ、爆誕。

爆誕。それは突然変異により爆発するように誕生した奇跡のアホを指した単語である。

当然こんなことでは勝てん。何に、とは愚問。あの爆乳にさ。

しかしその女性は気品に満ちた笑みで、


「そのつもりで、ここに集まって居りますわ。どうぞ、そちらのお席へ」


と歓迎ムード一色。

案内された席は、まさに王様の椅子。何だか身体が小さく見えるデメリットを抱えるが、贅を尽くしたキラキラなスペース。

座ると同時に美女集る。

左右に二人。肘掛の部分を柔らかヒップが独占。

一人は足の間に割り込み、豊満な胸を押しつける。

槞牙は最初に右隣の女性に話し掛けた。

青のショートヘアーに暗碧の瞳。白いビキニは、素晴らしいプロポーションの暴露布だ。


「きみ、名前は?」


霧島奈瑞菜キリシマ ナズナです」


「奈瑞菜ちゃんか〜。そのボディに負けない、いい名前だなぁ」


ゆるゆるな口調。

今度は左隣。


「君は?」


赤い髪に同色の瞳。吊り気味の目が、気丈な印象にプラス・アルファ。

こちらもビキニ。色は黒。白い肌にみめ美しいそれは、彼女の魅力を更に引き立てる。


進藤瑠璃シンドウ ルリよ」


「こっちは瑠璃ちゃんかぁ。仲良くしようぜ」


強引に肩に手を回す。

スベスベとした肌触りが最高。


「肩だけでいいんですか?」


足の上に陣取った女の子が妖艶な微笑で言った。

腰まである黒髪。おっとりとした目付きで、その中に潜むは黒い瞳。

胸を境に、ぱっくりと中の開けた大胆な赤いドレス。


里崎雫サトザキ シズクですわ」


察し良く円滑に自己紹介を済ませる。

槞牙は先程の台詞を吟味し、疑問で返した。


「というと?」


「槞牙様が望まれるなら、どこでもお触りは自由ですよ」


奈瑞菜が代わり答える。

その一言で槞牙の理性が宇宙の彼方へ去った。

いち早く動いたのは腕。

奈瑞菜と瑠璃の胸を外側から鷲掴みにする。すぐさま手や指に『軟質、百パーセント』の感触。


「ぐはーっ、最高!」


感想を述べたと同時。前方には、いつの間にかステージが用意されていた。

そこには一人の女性。

こちらは雫よりは短い、セミロングの黒髪。可愛らしい白のリボン頭上に聳えている。

他とは違い私服姿だ。


「あの娘は白石鈴香シライシ リンカです。今から服を脱ぎまーす!」


奈瑞菜がとんでもなく嬉しい発言。


「うっひゃー! マジ?」


言い終わる前に、すでに上着を脱いでいた。

豊潤な旬の果実は、ピンクのブラジャーに支えられ美味そうに実っている。

スカートを脱ぐと、こちらもお揃いのピンク。

胸や尻。主張するように、艶めかしく振りブラのホックに手を掛けた。


「いいぞー! 取っちゃえ、取っちゃえ!」


完全にエロ客と化した槞牙の声援。

鈴香か一度、槞牙と目を合わせ、重力に逆らえなくなったブラから手を放す。

ついに、胸が――と、そこで乳質星人襲来。視界にはドアップの胸の谷間が。


「ずるいですわぁ。お二人のだけ触るなんてぇ」


雫は自慢のバストで槞牙の顔を飲み込む。

槞牙は胸中で喚声を上げた。

天国だ。夢なら無理に醒めないで、こちらを現実にする。


「もう、雫ちゃん。それじゃあ、私が見えないよぉ」


いじけた語調の鈴香。


「見たい! ぜひ見たい!」


底知れぬパワーが沸き上がり、雫を弾き飛ばす。

しかし勢い余り槞牙の体勢は大きく崩れ、顔から地面に接近した。

反射的に目を瞑る。

今まで何度が体験した顔面強打の場面が記憶の引き出しから飛び出す。



激痛――は感じられなかった。確かに衝突したのだが、なぜか柔らかい物体。

目を開くと誰かの膝の上。仰向けになると一人の少女の顔が瞳に映った。

端整だが幼い。明るい緑色のショート。ライトグリーンの瞳。表情からは、一片の油断も見受けられない。


「……君もお触り自由?」


訊くや否や、その少女の胸に手を当てた。

そこで不自然なことに気付く。あの美女軍団の中の一人にしては、ボリュームが全くない。揉み応えもない。

訝る視線を送る槞牙。その先にも、こちらを訝る視線。いや、訝るというには殺気が混じり過ぎている。

少女が黄色く光る右腕を、振り下ろし――


「って、おわぁーーー! こ、殺す気か! ソラ!」


這いずって、数メートル距離を取ってから叫んだ。


「膝枕までは許容してあげたわ」


怒気を押さえ込みながらの口調でソラ。


「わりぃ、わりぃ。余りにも素晴らしい夢だったからさ、現実との区別がちょっとな」


「視たくないから、夢の内容は思い出さないでくれると助かるわね」


安全を確認した槞牙は這った姿勢のままソラに近寄る。


「ん?」


そこで視界の片隅に入った物体に目を奪われた。

目を細め、僅かに開いた玄関の隙間を凝視する。


「どうしたの?」


ソラは怪訝顔。

槞牙は大まかにその物体の正体を認識した。

人だ。しかもビデオカメラを装備した。

背後には、横流れする薄紫色の髪。狐目。四角く細長い眼鏡は、下方だけに通ったフレーム。


「う、あああああ……おおおおお!」


声を成さない音質。驚きだけが感情を支配する。

あれは間違いなく沁銘院真一。次に焦燥。

やばい。揉んだシーンを撮ってるよな? ってか、犯罪ですよ。お兄さん。


「待て、真一! これは誤解だー!」


全力ダッシュ。おそらくソラとの戦い以上のスピードが出ている。


「気取られたか。…………とおっ!」


真一はマンションの壁を越え、飛び降りた。ついでに説明しておくと、生身で降りたら、まず助からない高さだ。

槞牙は体当たりする形で壁にしがみ付き、眼下を見下ろす。


「はーっははははは!」


真一は背中のパラグライダーを展開し、地面に着地していた。すぐに切り離し、上機嫌な高笑いを響かせ街並に消えた。


「戻ってこい、親友! ってか用意周到すぎるだろ!」


槞牙は明日からの学園生活を思い浮べて、ぞっとした。何としても、奪取しなくては。

だが、それは今は置いとき部屋に戻った。


「なあ、ソラ。今のは本当に誤解だからな?」


「…………」


「ソラ?」


ソラは俯き沈黙を保っているが、やがて顔を上げた。気力に欠いた表情だ。


「大丈夫か?」


唯事でないことを察した槞牙は、ソラの両肩を掴んで揺さ振った。


「さっきのことは、もういい。それよりも、よく……聞いて……」


声量も極薄になっている。聞き取るのが、やっとな程。


「多量の〈パステル〉を使用で、ボクの意識が眠ろうとしてる……。だからボクが戻るまで、一つだけ約束して……。〈プテイレイン〉の幹部……との、戦闘……は……避け……て……」


ソラの身体から力が消えた。ネジの切れた人形のようにぐったりとしている。

槞牙は焦燥感に刈られた。この後、どうしたら良いのか判断できない。

起きるまで、自分の部屋で預かれと言うことか?

困惑ばかりが心の奥底に積もる。

だがその時、ソラが再起動した。

槞牙はソラを抱き抱えた状態で、迎え入れる。自然と柔らかくなる相好と共に。ぱちくり、と目を開けたソラ。にやーっと微笑み、その第一声――


「がお?」


「…………」


背筋に、かつてない悪寒が走った。

これはもう一つの人格。野性児のソラだ。

ソラは思い切り息を吸い込む。そして、吠えた。


「がおーーーっ!」


「うぎゃあああああああああああああ!」


珍獣の咆号。痴漢の悲鳴。部屋を暴れ回る、尋常ならざる騒音。

名も無き曲のオーケストラが始まった。長い、長い物語の中の、ほんの序曲。

少なくとも、槞牙にはそう聞えた。



次の日。

話題の揃わない会話で賑わう教室。特に多いのは『疑惑の判定』がどうのやら。そんな愚にも付かない話の種を撒き散らす。

槞牙は珍しく遅く登校し、席に着くと同時に机に突っ伏した。

そんな槞牙になず――ではなく柚菜がちょっかいを出す。脇腹を指で突いたり、髪を軽く引いたり。


「なんかしろよ、槞牙」


子供のように催促する。

実際、年齢的に微妙だし、肉体的にはもっと微妙だが。


「俺は芸人じゃねえんだ。休みたい時は休ませろ」


「なんだよー。つまんないなぁ」


不満たらたらで、渋々と席でじっとする柚菜。

槞牙は机に溜息を吹き掛けた。

昨日のソラときやがったら、夜遅くまで暴れやがって。あんな獣並みの体力をした化け物のお守りなんてさせられたら、身が持たん。俺様の『薔薇色の学園生活』の計画にも支障を来す可能性すらある。いや、障害だと断定できる。

だからと言って、もう一人のソラは放って置けない。経験上、ああいった出現場所不明の正義感を持った奴は、『さし違えても』の精神が強い。

敵が強大な力を持つなら尚更だ。戦って、傷ついて、やがて倒れてしまう。

今時は流行らない破滅型のヒーローのそれであろう。とんでもないものを背負わされちまったな――

その『とんでもないもの』が教室のドアを開いた。

今日も元気だ、紅ほっぺー♪ 開口一番、雄叫びー♪ そして二番は、槞牙いじめー♪


「重いわっ! このロリモン!(ロリッ娘モンスターの略)」


のしかかってきた猛獣を槞牙は投げ飛ばした。

くるり、と宙で弧を描き着地するソラ。今の格好は一際目を引くピンクの怪獣の着ぐるみ。なんとなく、以前の授業中に柚菜が書いたデザインに似ている。

ノンシャランとしているのが特徴だ。


「これ以上、おいたをしないようヒーヒー言わせてやるからな」


槞牙は教室内で拳を構える。傍から見れば、ただのいじめっ子だ。


「ろ、槞牙さん。喧嘩はいけません。相手は小学生なんですから」


片側だけの喧嘩腰だが、仲裁に入ろうとする菻音。

そんな菻音に火の粉が降り掛かった。


「大体な。こうなったのも少なからず菻音が関わっているんだぞ?」


「え? そうなんですか?」


「そうだ!」


槞牙は一息溜めを作り、菻音の胸を指差し、声を張り上げた。


「この胸の所為だ! 従って争いを回避するには、その体格には似合わない膨よかな胸を触診しなくてはならないっ!」


菻音のバック(背景)に雷が走った。菻音は逆光が取れぬまま、打ち拉がれたような表情を維持。


「そうだったのですか……。全ては私が……。仕方がありません。無益な争いを回避するため、差し出します。どうぞ……!」


「そんじゃ、遠慮なく」


掌同士を擦り併せ、古式然な動作のディナータイム待ち。

そんな槞牙に雫キックが炸裂した。


「どさくさに紛れて胸を触ろうとしないの! あと白石さんも騙されないで」


雫の勇敢な行動により、無垢な少女の胸は救われた。しかも槞牙劇場だったムードも崩れ、場について来れない生徒達も彼女を讃えた。

最後に残るは、女子からの評価が著しく低下した、槞牙の世間体のみ。

そんな中、なぜか柚菜とソラは和気藹々と会話をしていた。



蒼然とした空間。

赤い絨毯が中央を通り、横に居並ぶのは団々たる柱。その柱に背中を預ける影があった。

肩で波打つ暗碧の髪。吊り気味の細い目の中に、琥珀色の瞳。全体的にきりっとした風貌に、色香の漂う大人の女。

霧島麗華である。

格好は白を基調としたチャイナ服。スリットからは、服よりも白く艶めかしい太股を覗かせる。

絨毯の続く先。

比較的に段差の低い階段を昇ると見えてくる、黒く大きな扉。

その扉が部屋中に重低音が響き渡らせ、ゆっくりと身体を二つに分けていく。

間から人影が一つ。全身に黒いローブを纏い、顔は見えない。

しかし大男だ。身長はドアの高さと同じで二メートル弱。体格はローブからでも屈強な感を醸し出す。


「報告しろ」


男の声が室内を飲み込む。全てを威圧するような厳とした声。

麗華は他の柱に寄り掛かる二人の男を見た。右隣と正面。いずれも沈黙を保っている。

どうやら報告することがないらしい。

それを確かめ、麗華は静かに言葉を発した。空気に優しく触れる程度の音色。


「〈パステル〉使いである私の妹と戦闘したけど、途中で邪魔が入ったわ。繞崎槞牙とかいう坊やよ。それと最近、彼の周りに〈パステル〉使いが集まってるわ」


「その後は何もせずにのこのこ帰ってきたのか?」


右隣の男が、僅かに侮蔑の意の籠もった口調で訊いた。赤い瞳が薄暗い中で、異様に光る。


「坊やも少しはできるし、報告を優先しただけよ。今回は遅かったわね?」


その質問は大男に。


「準備をしていた」


大男は異常に無感動な語調で答え、話を続けた。


「その繞崎槞牙と、集まった〈パステル〉使い達を抹殺する。作戦は私とロッソで行なう」


「はっ、仰せのままに」


麗華の右隣の男――ロッソは、同行することに簡潔な意志を示した。

麗華は自分が選ばれなかったことに、分かりやすく眉をひそめた。

情報を提示したのは私なのに……。

それは正面の男も同じだった。


「ロッソなんかに止めて、俺にやらせてくれよ。誰だろうと、切り刻んでやるからさ。ひゃはははは!」


耳を突く、甲高い声。

その言葉にロッソが引き結んだ唇から、不快感を露骨に表した。


「控えろ、グリス。命令は私に下されたのだ。それに従え」


「けっ、分かってるよ」


グリスはそう吐き捨てた後、暗闇に姿を同化させた。麗香も煮え切らない感情を、自身で暴発しないよう丁寧に捌いた。

そして扉に背を向け、そのまま振り返らずに嚮往した。

    次回                  リバティー パステル!             【エピソード5:夏だ! 祭りだ! コスプレ喫茶だ!?】                       槞牙「次回もサービスショット全開だぜ!」

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