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【エピソード3:副業は正義の味方!?】

陽光に焦がされる大地。その上を私服の生徒が歩いている。

もう夏真っ盛りといってもいい気温である。当然、薄着な――おっと、失礼。

『露出度が極めて高い』服を身に纏う女子生徒。

中でも前方の二名。

一方は紫外線の直射攻撃をも跳ね除ける白い肌に、髪は軽くパーマの掛かったお嬢様風味の娘。

もう片方は小麦色の肌と金髪のツインテールが絶妙にマッチしている娘。

キャミソールから膨れ上がっている豊満なバストは、引力の影響を受けずに立派に実っている。

その、お姿。控えめな大きさでも味わいの詰まった西瓜の如し。

初夏の段階で日焼けしていることから水泳部だと予測も着く。

二人とも美人で、揃ってミニスカート。それも実に浮力に弱そうな生地のものだ。


『やぁんっ!』


モノローグに同調してか、突然の強風が吹いた。狙ったかのように抜群のタイミングである。

瞬くに間に浮き上がるスカートから、色違いな生地が顕になる。

お嬢様風の娘はピンク系統。見た目、映えてはいるが大胆すぎてはいない自重気味の桜色。シンプルだが着用する本人がおっとりとした雰囲気のためか、余計に強調される。

次に水泳部。

こちらは世間一般で云うところの清純派タイプの白。ただ、太股辺りの肌にまで小麦色が行き渡る事によって生じた明と暗の色合いにより、白地の部分は格段に目立っている。

また前側の左右、足の付け根付近はレースになっており、アダルトな意匠を含んでいる。活発的な印象からの色気は、彼女自身の魅力の引き立たせる。

どんな時かは、さておき。二人は頬を赤らめ、周りを見た。

後ろには女生徒しかいなかったのを確認し、顔を見合わせ安堵の笑み。

実に、にこやか。廉恥心――とは大袈裟だが、その恥じらう初々しい態度はポイントが高い。

誰からのポイントなのかというと、それは……。



生徒が登校する道の真正面。大きさにして三階ほどの建物の屋上に、双眼鏡を手に先程の様子を見ていた一人の男子生徒がいた。

明るめ茶髪で、端正だが凛としない顔。体格は良い部類には入りにくく、平均がいいとこ。

勿論、繞崎槞牙だ。

屋上では微風が吹く。身体を往復するように流れ、涼気を保っている。


「うっはー! 堪りませんなー!」


一声で勇健だと分かる語調。


「次はどの娘にするかな。つーか、可愛い娘が標的だと多過ぎて無理だな。いやー、レベルが高すぎるのも考えものだ」


興奮し独り言が進みまくる。三杯目の白米も容易い饒舌振りだ。

槞牙は双眼鏡を地面に置き、左手に意識を集中させていく。緑色の光が手に纏う。それを軽く空に振って、光を払った。

すると風が巻き起こり、見る見るうちに緑色の渦状となった。それは一気に降下し、女生徒の喫驚を誘う。犯人は腐れ主人公だったのだ。


「おおっ! あの娘、おとなしそうな顔してすげーな! ……うはははっ! そのリアクション最高!」


誰かこいつを止めろ。

株で大儲けした人間のようなバカ笑いをする槞牙に、影が重なった。

槞牙は身体をビクッとさせ、背筋を伸ばして凍り付いた。

後ろの人物を畏怖するあまりの、ある種の条件反射だ。この嫌なタイミング。

それだけで槞牙には、その人物を想像できた。

彼が地球上で最も恐れる生物。魔神シズクである。

槞牙は唾を飲み込み、額から溢れる冷や汗を拭ってから、深呼吸。

不自然に鈍い動作で後ろを振り向いた。

そこには少女がいた。しかし雫ではない。

ライトブルーのショートの髪。ぱっちりした目に、青みの掛かった黒い瞳。

高校生離れした幼い顔と体型。専用メーターが故障を起こすほどの、萌え少女。霧島柚菜である。


「お前、何してんだ?」


因みに性格と口調は男勝りな面を持つ。


「なんだ柚菜か。驚かせるなよ。寿命が縮んだぜ……」


槞牙は、密林の奥に住んでいた民族に捕縛されたが何とか逃げ出したばかりの探検家のように言う。


「で、何してんだ?」


槞牙のすぐ隣で、柚菜は胡坐をかいた。


「修業だよ」


「修業?」


クリクリな目を向け、聞き返す。


「そう……、パステルを使っての有意義で素晴らしい修業だ」


しかし寿命が縮んではどうしようもない。

何となく厳かに告げてみた槞牙に、柚菜は興味津々といった顔で、


「どんな修業なんだ?」


『わくわく』と心情を瞳が語る。


「内容は簡単。女生徒のみを狙って――」


言葉を区切り、立ち上がった。そこからさっきと同じ風を巻き起こした。

遥か下方で、女生徒は揺れるスカートを必死で押さえている。

その様子を見た柚菜は、


「それだけでいいのか? 本当に簡単だな。だけど、オレならお前よりもっと効率よくできる」


口端を吊り上げ、自慢気に言った。

自分が見られたら怒るくせに他人のはいいのか?

槞牙はそう腹中しながらもポーカーフェイス。


「ふーん。どうやるんだ?」


「まあ、見てろって」


柚菜は両の掌を向かい合わせ、冷気を蓄め始めた。

青い光が氷の結晶となると、それを地面に放った。


「ブラックアイスバーン!」


謎の技名を唱える。

槞牙は双眼鏡を覗き込み、女生徒を眺める。

特に変化はない。女生徒は談笑しながら集団で歩いている。

すると、その時――

普通に歩いていた集団がすっ転び、尻餅を着いて大開脚。色とりどりのお花畑を、じっくりと観賞できた。全員が立ち上がった所で、槞牙が叫んだ。


「あんなのは不自然だろっ!? 今は夏だぞ! 地面が凍るか!」


「修業になれば、なんだっていいじゃんか……」


口を尖らせ、不貞腐れた態度を取る柚菜。

これ以上の言い合いは大乱闘に繋がる恐れがある。そう学習していた槞牙は素早く話題を切り替えた。


「あれだな。今日の服装も何というか、個性的だよな。ファンタジー風のコスプレか?」


柚菜が一瞬にして目の色を変える。そちらのモードに入ったのだ。


「コスプレじゃない。……けど、可愛いだろ?」


袖が無い緑色のブラウスに、例によって短い白のスカート。

そして問題の上着。茶色で、ブラウスに重なるように着込んでいる。

それはファンタジーの世界に存在する、エルフと云う種族の女性が着ている確立の高い服装に似ていた。

あれはイメージからなのか?

どなたかの疑問は捨て置いて。


「結構、気に入ってるんだ♪」


柚菜は立ち上がり、軽やかにその場でくるりと一回転する。

言葉遣いや性格に似合わず、柚菜はこの手の話には目が無い。落そうと考えるならこの話題が最も効果的だろう。


「一部のマニアにはウケが良さそうだな」


「なんだそれ?」


「さあ、なんだろな」


適当に対応する槞牙。完全にいかがわしい修業の話は消え去った。

柚菜は首を捻り怪訝顔をした。



槞牙たちの居る場所から少し離れた森林。生い茂る木々の一つが、不自然に葉を揺らした。


「あれは正しく女生徒への猥褻行為。これ、即ち。悪……!」


葉の中の潜んでいた少女が、怒気の籠もった声を堪え気味にして呟いた。

どうやら、槞牙の行動の一部始終を観察していたようだ。


「確か同じクラスで、繞崎槞牙という名前だったはず。怪しいです。彼の悪行を暴き、早急に対処しないといけませんね」


同じくらい怪しい少女は、両の腕を力ませた。雄気堂々といった心構えである。パキッ! ベキベキッ!


「へ……? きゃあぁぁぁぁぁーーーッ!」


ベチョッ!

その直後に腰掛けていた木の枝が折れ地面に落下。顔面を強打した。

少女は目に涙を溜め、痛みをやせ我慢して言った。


「へこたれません! 勝つまでは!」


落ちた拍子に鞄から飛び出た赤いヘルメットを拾い、小走りで教室に向った。

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