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【エピソード1:プロローグ】

【プロローグ】

「俺は怪我人なんだぞっ! 少しは労われよ!」


昼食時の校内の喧騒を突き破る声が響く。

声の主は繞崎槞牙マトザキ ロウガ

明るめの茶色の髪に切れ長の目、その目の中央には黒い瞳。

端整な顔だが、ハンマーで叩かれたクッキーのように砕けた表情が印象的だ。

今は痛々しく包帯が巻かれた右腕を、首から垂らした布に掛けている。


「何が怪我人だっ! 女子更衣室を覗いて私刑になっただけじゃねーか!」


語気の強い男勝りなアルト声の少女――霧島柚菜キリシマ ユズナが手に持っている箸で槞牙を指す。

白皙で透き通った青色のショートヘアー、無駄にでかい目にずんぐりした暗碧の瞳。

体格は非常に小柄。ジェットコースターの身長制限に引っ掛かる可能性を秘めている。

何よりも萌え系度数、百パーセントオーバーの美少女。


「あ、あれは吹っ飛ばされた場所が偶然にもだな……」


そこで区切ると、脳裏に浮かんだ戦乙女のお花畑を想像し、槞牙の顔は少しニヤけた。

少頃して冷たい視線。


「と、とにかく事故だよ! 事故! 寧ろ俺は被害者だ」


「随分と楽しそうに『被害者面』してんだな」


「てめぇ……! あんまり調子に乗んなよ……」


「やるってのかっ!」


両者とも一触即発の状況に、騒いでいた他の生徒が距離を取ってその様子を固唾を飲んで見守る。


槞牙はスッと立ち上がり言った。


「いい度胸だ! やって――」


「もう……、止めなよ! お兄ちゃん!」


槞牙の喧嘩口調を、隣の少女が場に合わない穏健な声で遮る。


「だってよ、シズク! こいつが――」


「他の人が迷惑してるでしょ!?」


今度はカウンターを食らわされ、槞牙は辟易する。

彼女は繞崎雫マトザキ シズク

槞牙の双子の妹。腰まで届く黒髪、おっとりした目付き。

たおやかだが、上から下にかけて起伏のある身体。

槞牙とは違い、全体の表情は湯でて水切りした麺類のように引き締まっている。

「なんでお兄ちゃん達は仲良くできないの!? いっつも喧嘩ばかり……!」


説教が始まり萎縮する槞牙を余所に、柚菜の箸がシュバッと何かを捕らえた。

それを見た槞牙は驚愕した。

柚菜の箸に挟まれた物体――それは槞牙の弁当のオカズのイカさん(予想)ウィンナーだった。


「あぁーーーーーっ! 何しやがるっ!」


止める間もなく、イカさん(予想)ウィンナーが柚菜の口に運ばれ餌食となった。


「ん〜! 美味い!」


「てめぇ……! 俺の、俺のイカさん(予想)ウィンナーをよくも……」


わなわなと肩を震わせオーラを漂わす槞牙。

柚菜はウィンナーをよく噛んで飲み込み、後ろに飛び退き距離を取る。


「ふんっ! 来やがれ! 返り討ちにしてやるよ!」

しかしその隙すらも見逃さなかった。

槞牙は左手に『持っていた箸』を構え、


「くらえっ! 拳凰繞崎流箸術、奥義!」

叫ぶと箸を柚菜の弁当箱に急接近させる。


「オカズ滅殺食めっさつしょくっ!」


謎の技名が口から出たと同時に、箸の切っ先が高速で動き、幾多もの光芒が弁当箱を強襲する。


「なっ……」


絶句する柚菜。そして最後に瑞々しい艶を保つ白米だけが残った。


「また……、つまらぬものを食ってしまった……」


またなのか、と心の中でツッコミを入れるギャラリー。

その途端、教室内を禍々しいドス黒いオーラが包んだ。

柚菜がキレたのだ。


「ふっ……、敵に隙を作るとは愚かな。己を保身することしか考えない浅はかな頭脳を恥よ! ふははははははっ!」


覆面悪役レスラーのように哄笑する槞牙に柚菜の殺気が迫る。


「この……」


「ん……?」


槞牙は危険を感じ、バカ笑いを止めた。

しかし、もう遅かった。


「バカァーーーーーーーーーーーー!」


柚菜の正拳が槞牙の顔面にクリティカルヒットし、槞牙は『四階の教室』の窓ガラスを突き破り、きりもみしながら落下した。


「タコさんウィンナーなのになぁ……」


兄の惨事を無視して妙な悲しみに耽る雫。

少ししてから槞牙は地面に突っ伏した状態から立ち上がり、顔面に残るダメージを引き摺りながらも歩いた。

――あの女、打撃は不得意のはずだろ?

だが、あれはメガトンパンチだよ。

それは置いとき――こんな騒ぎは柚菜と出会って以来、毎度のことだ……。

可愛い容姿と裏腹に男勝りな柚菜と、おとなしそうな顔しても根はしっかりして怒ると阿修羅な雫。

危険はいつも俺の傍で駐在してるってことだ。

最もこれぐらいで済めば少し危ないが美少女との薔薇色の学園生活を満喫できる範囲だ。

でも、そういう訳にもいかないのが実状なんだよな……。


ジャンルはその他にしましたが、正確には『学園ファンタジー格闘アクション・コメディー』です。

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