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真っ暗な部屋と真っ暗な夜空

結局その日は返事を出せないまま学校が終わり、家に帰って自分にとって何が楽しい事なのか広翔は真剣に考えた。


本を読むのは好きだった。本の中には自分より悲しい人達がたくさん住んでいたから。


現実の世界でも自分より悲しみを背負った人たちは

いるはずなのに、みんな笑顔でそれを隠すからなんだかとても息苦しくなってしまう。


もし小さな頃あんなことがなかったら、自分はちゃんと笑えていたのだろうか。あの出来事は小さなきっかけに過ぎず、最初からこんな死を望んで生きる人生が待っていたのだろうか。


どんなに考えても答えなど出るはずもなく、広翔は読みかけの小説を開き、自分より悲しい人を探し始めた。



次の日も彼との小さな手紙のやり取りは続いた。正確にいうと私が無理やり続けたが、正しい表現のしかたかもしれない。


彼の唯一の楽しみが小説を読むことだと知り、今まで本を読むことなどしなかった私は、寝る前に毎日本を読むようになった。


彼があまりテレビを観ない事を知ると私もテレビをあまり観なくなった。そんなふうに自然と私の中で彼の存在は無くしてはいけない自分の一部に変わっていた。


彼も同じ気持ちでいてくれることを信じてあの時の言葉の意味を尋ねた。


『前にクラスの男子が質問したとき、いい感じに死んでるからと答えたのはどういう意味?』


何分か待って返ってきた答えは不思議なものだった。


『真っ暗な部屋にひとりで居るのと、真っ暗な夜空の下にひとりで居ることの違いみたいなものかな』


私はその不思議な答えに正直戸惑った。本当はその言葉の根底に潜む意味を訊きたかったが、彼の気持ちを理解できないやつだと思われるのが怖くて、問い返すのを辞めた。



何度か私は自分の家族の事を書いた。


『優しいお父さんなんだね。おもしろいお母さんだね』


彼はそんな言葉を返してくれたが、彼の家族の事を訊くといつもそこで手紙の返事はこなかった。もしかすると彼の悩みは両親との関係にあるのかもしれない。

  

私は気になるその辺の事を含ませた手紙を書いた。


『今度の休みに家族で温泉に行ってきます。松本くんにお土産買ってきます。松本くんは家族と旅行したりしないの?』


彼の表情を窺うと、いつものぎこちない笑みを浮かべていた。




次の日からも授業中、ノートの端の小さな手紙の往復は続いた。


最初はたわいのない世間話から始まり、徐々にお互いのプライベートな事なども書いたりした。


上村家は家族の仲が良く、広翔は素直に素敵だなと思っていた。


国語の授業中、嬉しそうな踊るような字で書かれた、手紙が広翔の机の上にそっと置かれた。


『今度の連休は家族で温泉に行きます。松本くんにお土産買ってきます。松本くんは家族と旅行したりしないの?』


 広翔は複雑な気持ちを隠すため、口元にうっすらと笑みをこぼした。

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